05




 *しいなは新月を迎えると仔狼姿になります。元に戻るには数日かかる場合も…





「はあ…」

オレはリビングでため息をつく。
ハイテンションの満月時期を何とか乗りきってあっという間に新月を迎える。

後10分足らず…

「………」

オレは耀には外すなと言った指輪を外してリビングのテーブルの上に置いた。


「くそ…」

そのまま寝室に向かう。
寝室では耀が眠そうな顔でオレを待ってた。

「何だその期待一杯の顔は…」
「だって2ヶ月振りなんだよ!」
「………」

オレは耀に背を向けて着てる服を脱いでいく…
全部脱ぎ捨てて耀の待つベッドに四つん這いで迫っていく。


「耀…」

項を捕まえて舌を絡めるキスをしばらく耀とする。

「当分出来ないからな…」
「……狼のしいなとのキスもオレは好きだよ。」
「知ってる…」

そんな会話をしてると身体がぼんやりと光り出す…
一瞬意識が無くなった後目をあけると…耀がオレを上から覗き込んでる…

ああ…チビ狼になったんだと実感する瞬間…でも…

「ふふ…しいなぁ〜 ♪ ♪ 」

耀がだらしなく嬉しそうに笑ってオレを抱き上げる。

「会いたかったぁ〜 ♪ 抱きしめたかったぁ〜 ♪ 」

ムギュウっと耀がオレを抱きしめる。

『よ…う…く…苦しい…』
「あ!ゴメン…でも…嬉しい…」
『大袈裟だな…』

そんな文句を言いながらオレは内心嬉しい。

ギュウギュウとオレを抱きしめる耀の腕も胸も…柔らかくてたまらないからだ。

人型の時とは違う耀に抱きしめられると言う行為…オレは結構気に入っている。

「しいなぁ〜ちゅう ♪ 」

軽く押し付けられるキスを頬に何度もされる。
耀の腕が掌がオレの身体に直に触れられてその温もりが心地良い…


「おやすみ…しいな…」
いつもの様に耀がオレを胸に抱いてベッドに入って横になる。
『ああ…おやすみ…調子悪くなったらオレの事起こすんだぞ。』
「わかってるよ…」

新しい部屋での初めての新月…オレ達2人はお互い満足で…眠りについた。





「いやぁ〜〜ん ♪ ♪ 狼しいななんて何年振り?」

『ゲッ!!』

毎日の検診で前園が異常なテンションでオレ達を…と言うかオ・レ・を待ち受けていた!

「この前色々お世話になったから…」
『耀!お前…』
「だって…本当にお世話になったから…」

しいなの子供の頃の写真やらビデオやら…たくさん見せてもらったし
超レアな写真も携帯に送ってもらったし…しいなにはもちろん内緒だけど…

『やめろ!オレに触るな!』
「何よー!良いじゃないのよ!ケチね。」

耀の腕から引き取られる様に前園の腕に渡された。

『やめ…』

トウマの時みたいに蹴り飛ばす訳にもいかず…

「ちょっとは大きくなったのね。」
前足の間に手を入れられて前園の目の前に抱き上げられた。
すでに研究者の目だ。

『調べるなんて言ったら蹴る!』

「しないわよ。でもキスくらいしたいわね。」

『は?』

「子供の頃良くしたじゃない。ここの女の子達と ♪ 」

『ホントにガキの頃の事だろっ!』

ここに来て半年間くらいの話だ。
しかしこれは…マジで逃げるか!

「…でも諦めるわ。抱っこで我慢してあげる。」

『?』

何だ?その苦笑いは?

「狼姿でもそこまではさせるつもり無いんですって。」
『は?』
クルンと反対を向かされた。

『!』

「………あ!」

耀がエライ慌ててオレから顔を逸らした。

「今スッゴク怖い顔してたのよ。」

『え?』

「そっ…そんな事ないもんっっ!」

『………』

「愛されてるわね。しいな ♪ 」





『……………』  「…………」

部屋への帰りのエレベーターの中…お互い無言だ。
オレは無言なのは当たり前だろ。

『今度オレを他人に抱かせたらしばらく抱かせないからな!』

オレから文句を切り出した。

「だからお礼だったの!そんな事よりしいなが女ったらしだったなんて知らなかったよ!」
『女ったらしって何だ!』
「昔…此処のたくさんの女の人達とキスしてたんだろ!!」
『は?』
耀がオレを抱きながらプイとそっぽを向く。
『いつの頃の話してんだっっ!ガキの頃だぞ!』
「フン!だっ!!」

部屋に戻ると乱暴にオレをソファの上に下ろしてキッチンに入って行った。
多分また耀特製のカフェオレを作るんだろう。
あれだけは耀は自分で作る。
ストレス解消にあの甘ったるいのを飲むつもりだ。

『怒るのはオレの方だろうが!…ん?』

そんな文句を言いながら何気にダイニングのテーブルを見ると…

『なっ!!マジかっっ!?ウソだろっっ?』

オレは慌ててダイニングテーブルの上にジャンプした。

『…なっ…何でだ…?』

ゆうべ外して置いておいた結婚指輪が……無いっっ!!!

『じょ…冗談だろ?』

おかしい…オレはあれからいじって無いし…でも朝はあったか?記憶が無いぞ……
テーブルの匂いを嗅ぐとオレと耀の他はトウマと亨の匂いがするが
確か最近2人ともここに来てたし…クソ!後はさっきの前園の所の消毒の匂いがきつくて…

『その辺に落ちてんのか?』

テーブルから飛び降りるとリビングの床を舐める様に探して回った。

『ダメだ…無い…』

オレは心臓バクバクの冷や汗タラタラだ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

「何してるの?しいな?」

ドッキーンっっ!!

どうやら機嫌は直ったらしい…
カフェオレが入ってるであろうマグカップを両手で大事そうに掴んで耀がリビングに入って来た。
そのままソファに座る。

『……耀…』
「なに?」
『ダイニングテーブルにあった…』
「え?」

いや…ちょっと待て!これは…聞かない方がいいのか?

「ん?」
『いや…』

「え?もしかして…」

ドキン!…まさか耀が持ってるのか?

「このカフェオレ飲みたいの?」
『は?』
「いいよ。あげるよ ♪ 」

すごいニコニコ顔だっっ!

『…いらんっっ!!』

カチン!!

「もう!!美味しいのに!!」

『誰がそんな甘ったるい飲み物飲めるかっっ!コーヒーはブラックだ!!』
「じゃあ何?」
途端に膨れっ面だ。
『別に何でもない…』
「?…変なしいな。」

とりあえず今日1日はこの姿で指輪を嵌める必要は無いから…今夜中に見つければOKだ。
必ずこの部屋のどこかにあるはず!



「しいな…」
『ん?』
「こっち…来て…」

耀がソファに座ってオレを呼んだ。
スタスタと歩いてソファに近付くと耀がオレを抱き上げていつもの様に抱きしめた。

『耀?』

「さっきはごめんね…お礼のつもりでちょっとだけだと思って…でもダメだった…
ものすごく悔しい気持ちになって…苦しくなって…すぐに後悔した…本当にごめん…しいな…」

『わかればいいんだよ。』
「うん…」

『で?一体何のお礼だ?』

さっきからお礼お礼って怪しいんだよな…

「え?だから…いつも…お世話になってる…お礼だよ!」
『本当か?』
「本当!ちゅっ!信じて!」
『…じゃあそう言う事にしといてやる。』
「ありがとうしいなっ!ちゅっちゅっ!」



それからしばらく耀のキス攻撃を喰らってオレはあっさりと撃沈させられた。

しかし…そんな事よりも…指輪だよ!指輪っっ!!オレの結婚指輪………



どこに行ったんだああああーーーっっ!死ぬ気で探さねばっっ!!