06





『もう寝た方が良いんじゃないか?』

ソファで寛いでる耀にそんな声を掛ける。
とにかく先に寝かせて指輪を探さないと…

「何で?」
いつもそんな事を言わないオレに不思議顔だ。
『いや…疲れてるだろ?』
「大丈夫だよ。」
『……………』

これ以上は言えなくなった…

「そうだしいな…」
『ん?』

「こっち来て。久しぶりに耳そうじしてあげる。」

『!!』

オレにとっては魅惑のお誘いだ…たが…今夜は…

「しいな?」

いつもなら待ってましたとばかりの勢いのオレなのに…




「気持ち良い?しいな…」

『……クフン…』

返事の代わりにいつもと同じに鼻から変な息が漏れる。
あっさりと耳かきの誘惑に負けた。

「2ヶ月振りかな?」
『…………』

そんな耀の問い掛けにも返事が出来ないほどオレはこの耳かきをされると
放心状態の幸せな気持ちになる。

耀の膝と指と綿棒の心地いい感触と…

身体から力が抜ける…それに久しぶりって言うのが余計……………




「ハッ!!!」

ガバッっと跳び起きた!此処は寝室でベッドの上でもう朝で……

しかも人型に戻ってるーーーーっっ!!!

何で今回に限って1日で元に戻るんだ!!

昨夜あのまま眠ったんだ…マズイっ!!探せなかったっっ!!!

チラリと横を見ると耀はまだ気持ちよさ気に眠ってる…よしっ!今のうちだ!!



「……クソ!」

どんなに探しても見付からない…家具の隙間…ソファの下…ソファの隙間…

手を突っ込んで探したが無い!

散々探したのに見付からなくて…仕方なくオレはそのままソファに力無く座り込んだ。

これは…耀に確かめるしか…ああ…気分が重い…


「何してるの?しいな…」

ド ッ キ ー ン !

耀が眠そうな顔で起きて来た。

「お…起きたのか?」
「…うん…で?何してたの?しいな…」
「べ…別に何も…?」

「だって…何だか必死になってリビングの中探し回ってたじゃ無い。」

「 !!!! 」

なっ!!!何だよ!!しっかり見られてたのかーーーっ!!てか見てたのか??

「しいな?」
「いや……」
「ホント何?」
耀がソファに近付いてオレの横に座る。
オレはちょっとだけ横にずれた。
「?何で逃げるの?」
「逃げてなんか無い…気の…せいだ…」
「そう?……じゃあ何で両手後ろに隠してるの?」
「は?………気のせいだろ?」

オレは不自然にも両手をわざとらしく背中に隠してたらしい…
後ろめたさがあるとこんなにも行動に出るのかっっ!!初めての事で……

何だか失敗だらけだっ!!

「しいな………手出して。」
「へ?えぇ〜〜〜っと……」
「しいな!」
「……………」

仕方なく耀の目の前に両手を出した。

「?別に何とも無いじゃ…………」

「………あーー耀…」

耀の顔が見る見る変わっていく…

「しいな!!指輪は?結婚指輪!!してないっ!!」

「耀!落ち着け!そんな大した問題じゃ無い!!!」

「大した問題じゃ無いって…どう言う事!!結婚指輪だよ!!どうしたの!!」

「いや…その…新月の晩に…狼の姿になるからって…外して…
テーブルの上に置いといたんだが…次の日に無くなってて…」

「ええっ!!無くしたのっっ!!??」

「いやっ!無くした訳じゃ……
きっとこの部屋の何処かにはあると思うんだが……耀が持ってるんじゃ無いのか?」

恐る恐る伺う様に聞いてみた。


「オレが知ってるわけないだろっ!!!

しいなのばかっ!!ひどいっ!!大事な結婚指輪なのに無くしたんだっ!!」


「……………」

反論の…余地が無い!!!

「う〜〜〜〜ヒドイ…ぐずっ…」

「そ…そんな大袈裟な…そんなに泣く事か?」

「しいなっ!!!じゃあオレが無くしてもそんな事言えるのっっ?」

「……………」

確かにそんな事になったら怒りまくるだろう……耀は正しい…

「良く…うっく…探したの?」
「ああ…昨日朝起きた時テーブルに無かったか?」
「んー…あんまり覚えてない……」
「そうか……仕方ない…もう1度同じモノ…」

「そんなのいらないっ!!!そう言う問題じゃないのっ!!」

「じゃあどうすればいいんだよっ!!こんだけ探しても見付からないんだぞっ!
もう探す場所なんて無いんだよっ!!!」

「…………む〜〜〜!!!」

「…………」

耀が…もの凄い怒った顔でオレを睨んでる……もう…勘弁してくれ…
オレの方がショックだし…納得いかなし……落ち込んでるんだぞ…

ピ ン ポ 〜 ン ♪ ♪

「チッ!!誰だこんな朝っぱらから!!!」

そう言いながらもオレはちょっと助かったと思った。


「おはよう。」

「ゲッ!!亨……?」

玄関を開けると亨が立ってた…何だ?こんな朝っぱらから…



「ほら。」

リビングに上がり込んだ亨にコーヒーを出す。
はっきり言って本人の催促なんだか…

「こんな朝早くから何だよ。今取り込んでるんだけど?」

「ふ〜ん…理由は?」
「は?」
「取り込んでる理由!」
「…お前には関係ない!早く用件済まして帰れ!」
「ああ…そうする事にしよう。どうやら思っていた通りの結果になったみたいだし。」
「はあ?」

亨の言ってる意味がオレも耀も理解出来てない…??

「結婚と言う契約を交わしてる半獣と人間の間で本当にその効力は発揮されているのか…」

「…何の事だ?」

「お互い飼われている時とは違う精神状況なのか…
相手の事を深く思っていると勘違いしているのではないか…とか…ちょっと見てみたかった。
初めて飼い主では無い相手にお前がどんな行動に出るのか…もっと強気な態度に出るのかと
思ったが…結婚と言う契約は半獣にとって服従の意味を深くするものらしい。」

「は?ホント何言ってる?亨??」

「これ!落ちてたよ。」

そう言って右手の人差し指と中指に上手くオレの指輪を横向き挟んでオレ達の目の前に出した!!

「ああっ!!オレの指輪っ!!!」

ひったくる様に亨の指の間から取り返して速攻自分の指に嵌めた。
これでもう落とさないだろう!!

「何でお前が持ってる?」

そうだ…おかしいだろ?

「そこのテーブルの上に落ちてたんだ。」
「落ちてたんじゃないっ!!置いといたんだっっ!!普通そう思うだろっ!!」
「そうなの?だって無造作に放ってあるから捨てたのかと思ったよ。」
「んなわけあるかっっ!!大体いつ此処に来たんだよっ!!」
「新月の晩の夜中。」
「はぁ???新月の晩の夜中だぁ??」
「ああ…ちょっとお前に話があったんだけどもう眠ってた。」
「……亨ぅ〜〜〜!!!!」

また勝手に合鍵で入りやがったな……

「その後急に出張になってね…返しそびれて今に至った。」

「涼しい顔で惚けた事言うなっ!!おかげでオレは…」

「まあ困っただろうね…お前がどんな行動に出るのか見るのも目的の1つだから。
初めての体験だっただろう?結婚という契約はお前が思ってるほど楽しいモノでは無いと思うよ。」

「そんな事無い!オレは結婚の契約をして良かったと思ってる。」
「こんな人間がする夫婦の真似事をして?指輪1つでこんなにモメてるじゃ無いか。」
「お前のせいだろっ!!お前が余計な事するからだっ!!」
「これから先も似た様な事は起こる…半獣を飼うと言う契約とは違う契約…
お互いを縛る重さが飼われてる時とは違うんだ…」

「重くて結構だよ!!オレはその重さに耐えられる!!」

「……そう?じゃあ良かったね。ならその重さに耐え切ればいい…飼い主とは違う…
相手の行動1つ1つに振り回される…そんな契約…まあ観察させてもらうよ。
コーヒーご馳走様。」

そう言って亨が立ち上がった…

「おい!亨…」

そんな亨にオレは声を掛ける…言っておきたい事があったから。

「ん?」
「何だかんだって色々説明してるけど…お前…」
「何?」

「ただ単にオレが困ればいいと思ってしたんだろ?」

絶対これが本心だとオレは確信してる。

「……嫌だな…とんだ濡れ衣だ。僕は科学者だよ?データの為だよ。」


そう言って何とも意地悪そうな顔で笑って…亨は出て行った。



一体どんなデータだっっ!!

オレはそんな叫びを心の中で叫んでもう二度とこの指輪は外さない事と
次の新月からは絶対耀に預ける事を心に誓ったっ!!!