02
* しいなは新月になると仔狼姿になります。人型に戻るのはいつになるか本人にも不明。『………ふふ…』
オレは今新月の真っ只中だが気分は良い。
3日前に生まれたオレと耀の子供がやっと保育器から出て今目の前に眠ってるからだ。
オレはまだ仔狼姿のままだからここぞとばかりに同じベビーベッドに入って直ぐ横で添い寝をしてる。
ずっと眠ってて…起きたと思ったら泣きまくってミルクを飲んでまた直ぐ寝る…それの繰り返しだ。
『何だかつまんねーな…寝てばっかじゃんか!』
「仕方ないよ。赤ちゃんは寝るのと泣くのが仕事なんだから。」
耀がしっかり母親の顔でそんな事を言う…
『それにミルク臭くて甘ったるい匂いだ…』
クン!っと鼻を赤ん坊に近づけて匂いを嗅ぐといつもそんな匂いがする。
「だから赤ちゃんはそうなの!もう…しいなは…」
『何で呆れる!思った事を言ったまでだ。』
「……ふあ…」
『 うっ!! 』
「ほら!しいなが耳元で喋るから起きちゃったじゃないか。」
『……別に…そんなつもりは…』
「葵…おいで…」
『…………』
耀が泣いた赤ん坊…葵を軽々と抱っこする……
そんな抱っこされた葵を覗き込んだ…泣くなよな…オレは父親なんだぞ…
オレは泣いてる葵の頬をペロリと舐め……
『 うげっ!!! 』
ヒョイと首を摘ままれて持ち上げられた!!
「汚い舌で舐めるんじゃない!それにその格好で葵に近付くんじゃないよ!しいな!!」
『とっ…亨!?』
そう言って床に下ろされた!
『汚いって何だっ!!ちゃんと風呂に入ってるぞ!』
「舌は雑菌だらけだし床を直接歩いてる足で葵のベッドに乗るんじゃ無い!不衛生だろっ!!」
もの凄い睨まれた!
『………だからそんなに汚く無いっての…』
そう言われると確かに床に直で歩いてるが……思わず自分の足の裏を見てしまった…
耀のお気に入りの肉球なんだが……そんなに汚いのか?オレ……
「おいで…葵…」
もうそんな亨の顔はデレデレだ!キモイぞ!お前!!
「変わった所は無い?」
「はい。良く眠るし良くミルクも飲むし…大人しいです。」
「そう…僕達も気を付けるけど君が一番葵の近くにいるんだからちゃんと観察しててくれたまえよ。」
「はい…」
こいつ…葵の面倒を見るのを 『 観察 』 って言ったな…この研究者オタクがっ!
「ちょっと真鍋!その子の検診は私がやるって言ったでしょ!言う事聞きなさいよ!」
ずかずかと前園が亨の後から入って来ていきなり文句を言いだした!
「君こそ言う事を聞きなよ!僕が診察するって言ってるだろ!」
「そうやって葵を独り占めするのやめなさいよっ!!ちゃんとチームってのがあるんだから
自分の役割分担あるでしょ!」
「僕は総括でもあるんだからいいんだよ。」
「総括なら総括らしくチームのメンバー皆の事を見守ってなさいよ!」
「君はただ単に葵に触りたいだけだろ?まったく…研究者としての探究心は無いのか?」
「それはあんたの事でしょ!!何だかんだ葵にベッタリなのは真鍋じゃない!!ね!」
「えっ!?」
いきなり前園にフラれて耀がビックリしてる。
「え…いや…その…」
もう耀はシドロモドロだ…あの2人相手にまともに答えられるはず無いからな…
「私にも抱かせてよ!体重だって量るんだから!」
今度は前園の腕の中に葵が納まる。
「葵ク〜ン良い子にしてた?お姉さんですよ〜」
「何がお姉さんだ…歳を考えなよ!」
「うるさいわね!これでも若いって言われるんだから!…ん?何だか昨日より体重増えてない?」
「だろ?人間の子供よりも体重の増え方が早い…」
「じゃあ…」
「ああ…もしかして成長が早いかもしれない…」
「流石半獣とのハーフだわね……」
こう言う時は2人共研究者の顔だ…
「いやぁ〜〜〜って言う事はこの赤ん坊の時期も直ぐに終わっちゃうって事?残念だわぁ〜!!」
「だから今のウチに記録してデータに採ってこの僕自身の身体にも憶えさせないと!」
「あんたが言うと気色悪いのよっ!この子が汚れるでしょ!真鍋は葵に近付かないでよ!
この子に半獣の生活はさせないんだから!わかってるでしょ!」
「失礼なっ!気色悪いって何だ!僕は僕なりの愛情を注いでるだけだ!」
「それが普通じゃ無いっての!」
『おい!お前らもう出てけっ!こっちが引くっての!』
いい加減ムカついて怒鳴った。
オレの子供に何すんだっ!
「おはよう〜〜 ♪ 耀 ♪ 葵 ♪ 次のパパ候補だよ〜〜 ♪ 」
またバカな野郎が来やがった…うぜぇ…
「何だよ皆お揃いで!」
「朝の検診だよ。」
「真鍋はお邪魔虫だけどね!」
「……」
前から前園さんは真鍋教授を目の仇にしてるから…でも生で見たの初めてで…
真鍋教授にこんなにずけずけ言えるなんて…こっちがドキドキしちゃう…
「葵〜〜 ♪ おいでぇ〜 ♪ 」
今度はトウマの腕の中だ。
「ん?なんか重い?」
「ああ…成長のスピードが早い。」
「へぇ…こんな所は半獣の血か…オイしいな!」
『ああ?』
「早く人型に戻らないと赤ん坊の葵抱けずに終わるぞ。」
『ニヤけた顔で言うな!!バカ犬!』
「有り得なくないだろ。」
『………』
代わる代わる葵が奴らに抱かれてる…
オレはまだ…1度もこの手に葵を抱いてない……
「しいな…」
『耀…』
耀が優しくオレを抱き上げる。
「大丈夫…きっともう戻るよ…」
『だといいけどな…こればっかりはオレにもわからねーし…』
「しいな……ちゅっ!」
オレはしいなの口に優しくキスをした。
「ん?」
何だか視線を感じ…る?
「!!!」
3人がこっち見てる!!
「いやぁねぇ〜いつまでも仲がよくて ♪ フフ ♪ 」
「まっ…前園さん…別に…」
「耀は優しいから…そんな不便な身体のしいなに気なんて使わなくていいのに…」
「ふん!人前でイチャイチャと!」
「………」
オレ…何だかとんでもなく…恥ずかしいんだけど…
「後30秒…」
耀は病室のベッドで時計とにらめっこだ。
『………』
オレは期待半分の諦め半分だ。
「あっ!」
『!!!』
午前零時ジャストにオレの身体がぼんやりと光出した。
『……ん…』
身体が…元に戻る…
「ふう…」
ベッドの上で裸のしいなが両手を開いたり握ったりしてる。
「しいな…んっ!!」
振り向いたしいながオレにいきなりキスをした!
「んっ…ん……」
久しぶりのしいなとの本格的なキスで…やだ…ホワンってなっちゃう…
「ちゅっ…」
「…はぁ…しいな…」
「耀…」
「良かったね。」
「葵…あ…起きるか?」
しいながベビーベッドで寝てる葵を覗き込んでそんな事を呟いた。
「起きてもいいよ…抱っこしたかったんでしょ…」
「………」
しいなが恐る恐る手を差し出す。
「なんか…スゲードキドキする!良く亨達軽々抱っこしてるな…」
「大丈夫だよ…首がフニャフニャだからちゃんと支えてね。」
「……ああ」
眠ってる葵の首の下に手を入れた…
そのままもう片方の手で身体を抱き支えて抱き上げた…
「うお…軽…」
思ってた以上に軽い…
「これで重いのか?」
「うん…重たくなったよ。」
「……」
じゃあ最初はどんだけ軽かったんだよ?
しいながずっと葵を抱いたまま離そうとしない…
「しいな…嬉しい?」
ワザと聞いてみた。
「ああ?……別に普通だ。」
「そう?」
さっきから耳はピクピクの尻尾はパタパタなんだけどな…
本当は嬉しいくせに…素直じゃないんだから…
ただ…しいなってば身体が戻ったばっかりだからオールヌードなんだよな……
それで葵を抱っこって……何だか何とも言えず……う〜〜ん…