09

  * 葵 (♂) : 2ヶ月で人の7ヶ月〜1歳ほどに…





「無理だね」

軽い気持ちで聞いた質問に即答で否定された。

「何でだよ?」
「葵が普通の子供と違うからだよ。」

亨が自分の膝の上に向かい合って座らせてる葵の頭を撫でながらそんな事をサラリと言う。

「成長すれば人間の子供と変わらないだろ?」
「でも普通の子供より力が強いし満月には半獣の姿になって更に力が増す。
人間の子供に知らず知らずのうちに怪我をさせるかもしれない。」

葵の頭を撫でながら亨が目を伏せる。

当の葵はそんな会話を気にもせず黙々と亨のネクタイの端を
まるでオシャブリの様にチュパチュパと頬張ってる。

なのに亨は怒りもしないし止めさせもしない…そこまで葵に寛大か?

きっと人間の女の赤ん坊が同じ事をしたら即効ネクタイ取り上げの
クリーニング代を親に請求するだろう…

「じゃあ一生無理なのか?」
「まさか…葵が自分でその力をコントロール出来るようになれば問題無い。」
「コントロール?」
「ああ…」

そう言いながら亨が葵を抱き上げた。
葵はまだ両手でネクタイを掴んでチュパチュパ吸ってる。

そんな葵の頬を亨の指先が優しく撫でる。

「僕が教育してあげるよ…」

「!!!」

オレは速攻亨の手から葵を抱き上げた。

「結構だよ!そんな事はオレがヤル!」

何だその怪しい目の光は!

「あー」
「まったく…せっかく僕のネクタイで遊んでたのに…」

そっちかよ!

「とにかく葵がもう少し成長してからの話しだ。知識も能力もどのくらいかわからないし…
冗談抜きでしばらく僕が…と言うか葵専属の勉強や一般知識を教えるチームは組む。
やはり他人とは接していかないと後々不都合も生じるだろうしね。」

そんな話をしながら亨がネクタイを解いて何故がジッパー付きのビニール袋に丁寧に入れる。

「オイ…」
「何?」
「何してる?」
「え?ああ…資料として…」
「………」

ってその嬉しそうな顔は何だ?

「何の資料だ?」

あえて聞いてみた。

「葵が初めて僕のネクタイで遊んだ資料。」
「それ資料って言わないだろっっ!!貸せ!オレが処分する!」

「何か言ったか?しいな?」

「 !! 」

もの凄い威圧な視線を送られた!!

「僕の研究に何か不満でも?これも貴重な成長の記録だろ?イチイチ煩いよ。」

お前専用の成長の記録だろうがっ!




「葵…」

「………」

「お前には…人間と同じ生活をさせてやりたいのにな……やっぱ半獣には無理な事なのかな…」

「あう?」
「話が難しすぎたか?」

葵が不思議そうな顔でオレを見上げる…
亨の所からの帰りに葵と2人研究所の中庭で日向ぼっこだ…

「あーあー」
「何だよ…もう耀の所に帰るのか?まああと少ししたら耀も大学に復帰するからな…
ずっと一緒にいられるのももう少しってわかってるのか…葵?」
「………」
「まったく…ずっとオレ達の傍にいればいいものを…そんなに勉強なんてしたいかね…」

オレは自分の事を思い出す…勉強なんてロクなもんじゃなかった…
朝から晩まで亨に煩いほど教えられたし…問題が解けないとすぐお仕置きされたし…

「ホント最悪!!」

「あうっ」

ぺチンと葵に鼻先を叩かれた。

「わかったよ…2人して耀に癒されるか ♪ 」
「うー」
「よし!でもただいまのキスはオレが先だからな!葵!」
葵を抱き上げてそう宣言する!
「うーー!」
「いてっ!」
またぺチンと鼻先を叩かれた!

「あのな!耀はお前の母親の前にオレのモノなんだよ!!図々しいぞ!葵!」

そんなレベルの低い言い争いを…
自分の息子の…しかもまだ生まれて2ヶ月の赤ん坊相手にムキになって言ってた。




「お帰り。」

耀が玄関でオレ達を出迎える。
オレはわざと葵を低い位置で抱き抱える。
下に降ろすと耀が葵を抱き上げるからそれは避けたい。

だから必然的にオレの方が先に耀のお帰りのキスを…

ゴ ン ッ !!

「んがっ!!!いっ……!!!」

「し…しいな?大丈夫?」

「 …………!!!! 」

大丈夫じゃねー……下から思いっきり顎に頭突き喰らった!!!
オレは葵を耀に渡してその場にうずくまる…

人間の赤ん坊の頭突きならそんな大した事じゃ無い…
でも相手は半獣の…しかも加減を知らない赤ん坊だ!!

「大丈夫?しい……ん!」

ちゅっ ♪

「 !!! 」

そんな短いキスの音がして…まだ痛む顎を押さえながら耀を見ると…

この隙に耀に抱っこされてる葵がしっかりとただいまのキスを耀としてやがったっ!!

「…あ…葵…お前…!!!」

しまった…失敗した!!思わず耀に葵を渡してた!!

「本当に大丈夫?しいな?」


この…クソ生意気なマセ餓鬼め〜〜〜!!!

耀はオレのモノなんだからな……いつまでもお前の好き勝手にはさせないからな…

なんて事を心の中で誓いつつ…
オレは大人気なく自分の息子にライバル意識出しまくりで睨みつけてた。

そんな視線を葵は気にも留めず…耀にしっかりと抱っこされてた…