hanjyuu 02





「 し〜な し〜な」

オレの名前を呼びながらようくんがおはようのキスをしてくれる。
寝てるオレの首に腕を絡ませてオレの上に乗ってキスしてくれるんだ。

先月何度目かの大食いと爆睡から目覚めたようくんは一人前の女に成長してた。
だからオレの身体にようくんのしっかりとした胸の膨らみとくびれた腰と
張りのある ヒップが押し付けられてる…
オレは毎朝その身体の誘惑に負けない様に理性で踏ん張ってると言う訳なんだが…

まあ実際そこまでは手が出せないって言うのが本音 なんだけどね…
なんせようくんが赤ちゃんの頃から知ってるからそう簡単に手が出せない…それに…


「ようくんっ!!椎凪さんにそんな事したらダメだって 言ってるでしょ?
それにちゃんと自分の部屋で寝なさいって何度言えば分かるの?」

ほら…口うるさい教育ママの登場だ…

オレとようくんは慎二君の監視下 のもと別々に寝る事になった…
やっぱいくら育ての親でも一人前の男と女が1つのベッドで寝るのはマズイと言う事らしい…

『2人して裸で寝るのが趣味なんて 間違いがあったらどうするんですっ!!
ようくんは嫁入り前の娘なんですから!
椎凪さんあなたも自覚して下さいよねっ!!まったく!!』

ってもの凄い剣幕だったんだ。

嫁入り前って…オレに嫁入り前なんだからいいじゃん別に…
と思いつつもしかしてそれを認めないって遠まわしに言われてんのか?? オレ?

「どうしてパジャマ脱いで椎凪さんのベッドに入るの?せめてパジャマくらい着てなさい。もー…
椎凪さん何かようくんに変な事教え込んだんじゃ 無いんでしょうね?」

ズイィーーーイと覗き込まれた。

「してないってっ!!子供の頃はちゃんとようくんパジャマ着てただろ?
オレだって不思議なんだ からさ。」

そう何故かようくんは大人の身体になってからパジャマを脱ぐようになった。

「ほら。ようくんご飯食べましょ。」
「うん。」

ご飯と聞いて さっさとベッドから出て行くようくん…なんか淋しい…

「しーな!おいで。」
「はいはい。」

パジャマを着ながらようくんがオレを呼ぶ。

ベッドから 降りたオレにようくんがまた飛びついて来てオレに抱きついた。
オレはそのままようくんを抱きかかえて2人で部屋を出た。




「じゃあ行って 来ますね。」
「いってきます。しーな。ゆーすけ。」

「気をつけてね。オレも仕事の合間に行くから良い子にしてるんだよ。
慎二君の言う事きいてね。」
「大丈夫ですよ。同じビルの中じゃないですか。じゃあ。」

そう言うと慎二君とようくんが玄関のドアから出て行った。
ようくんは保育園を卒園した後小学校に は通わず家庭教師を雇って勉強してる。
世間じゃまだ半獣は珍品扱いだから生活の範囲も束縛される。

半獣と言うだけで人目を引くのに大人になったようくんは 更に目を引く存在になった。

そう…喜んで良い事なのか最近では疑問だけど…すっごく綺麗になったんだ…
だから前以上にオレ達3人は監視の目を光らせてようくん 一人じゃ絶対外出させない。

今日は慎二君と『TAKERU』のオフィスに出かけて行った。
慎二君がようくんをモデルとして売り出すと言い出したからだ。
確かにようくんに就職なんて無理だと思うしかといってこのままでもいい訳が無い。
自分の監視下の元いつも一緒にいれるからだと思うけど慎二君がそんな事を言い出し た。
今日でもう何度目かの出勤だ。
でも一番の理由は『一流のモデルになって誰からも何も文句を言わせません!』って言ってた。
慎二君の方がオレなんかより 半獣がどんな扱いをされてるのか知ってる…
金持ちのお飾りの一つとして飼われて慰み物にされて…飽きられればあっさり捨てられる…
病気になったって十分な治療 なんか受けれずに死んでいく半獣もいる…
そんなのをいやって言うほど見てるんだ…だから…

「好きに動いてていいよ。ようくん。」
「うん。」

ようくんが撮影のスタジオの中で自由に動き回る…まずは場所になれないとね。
初めて僕達の所に来た時はあんなに小さかったのに…今ではもうすっかり大人だ…
身体だけは…
中身はまだ幼さが残ってる…まだまだ見てて危なっかしい…
だから僕達がようくんを守っていかないとダメなんだ…


「かつて知ったる… でいいもん見たな。へへ…」

2人のいるスタジオの入り口のドアの隙間からそんな声が漏れた。



「橘さん!下にお客様が見えてますけど。」

スタッフの 女の子が僕を呼ぶ。

「お客さん?誰?」
「安国さんって方です。お約束はしてないけど取材したいって事で…」
「そう?…仕方ないな…杉坂さんようくん見てて 貰っていいかな?」
「スイマセン。これから企画会があって…」

僕は仕方なくようくんを置いていく事にした。
とりあえず挨拶だけして必要ならまた後日出直してもらおうと思った。

「そっか…ようくんちょっと1人で待てる?」

ようくんはコクッと頷いた。

「いい?ここから出たらダメだよ。わかった?」
「はーい。」

気になりつつも僕はスタジオを後にした。



慎二がスタジオを出たのを確かめて男が1人スタジオの入り口に近付いて行く。
痩せて無精ひげを生やし冴えない感じの 40近い男だ。

「やあ。今日は…」
「??」

こっそりと入って来た男の挨拶にキョトンと首を傾げた。

「初めまして…俺はカメラマンの溝口って 言うんだけど…」

持ってるカメラをように見せながら近付いて行く。

「言葉わかるのか?」

ボソボソと呟いた。

コクン…とようが頷いた。

「そ…そうか…写真撮ってくれって頼まれてな…」
「しゃしん?」
「そう」

そういってカメラで撮る真似をする。

「あーしゃしん。」

にっこりと笑った。

こりゃ上玉じゃねーか…しかも中身はガキみたいだし…

「ここじゃダメだから… 他の部屋に行こう。」

呼び出しを頼んだ男はもう帰った筈だから橘がすぐに戻って来る…
その前に場所だけでも移動しないとな。
確かこの階の奥に控室があったはず。

「さあ写真撮るから。」
「………」

疑いもせず半獣の女はついて来た。
記憶の通りの控室があった。
女を押し込んでドアに鍵をかける。
半獣は珍品だ… そいつの裸の写真ともなれば高く売れる。
しかもヨダレが出るくらいのいい女ともなれば値段は更に上がる事間違い無しだ…
最後は楽しませて貰おうか…
半獣は あっちの方が最高に具合が良いって話だからな。

そんな思惑を抱えているとも知らない男をようはキョトンとした顔で見つめていた。


「さっきまで そちらにいらしたんですよ。」
「そう?でもどうみてもいないよね…」

何度もロビーを見回したけど僕を待ってるような人はいない。

「どんな人だった?」

受付の女の子に聞いた。

「普通の感じの人でしたけど。」
「名刺は?」
「スイマセン…」
「そっか…まあいいや。いないんじゃ仕方ない。」

ようくんの 事も気になってたし。
スタジオに戻ろうとした時後から呼び止められた。

「慎二君」
「椎凪さん!」
「どう?ようくんちゃんとお仕事してる?」
「お仕事ってまだ場所に慣れさせてる段階ですよ。」
「で…ようくんは?」
「今一人で待ってるんですよ。だから早く戻らないと。」
「?…どうしたの?」

慎二君の様子がおかしくて思わず声を掛けた。

「嵌められました。何だか嫌な予感がします。」
「え?どう言う事?」

二人で廊下を早足で歩きながら慎二君が エレベーターのボタンを押した。



「いない…」
スタジオにようくんがいない…
「いないの?」
「出ちゃダメだって言ったのに…一人で出るはず 無いから誰かに連れていかれたんだ…」
「連れていかれた?」

「ようくん!!」

慎二君がようくんの名前を 叫びながら廊下を走り出した。


「ダメ!」

「なに?」
「ダメなの。裸ダメなの!しんダメっていった。」

シャツのボタンに手を掛けた途端 抵抗しだした。

「いいから大人しくしろ!写真だよ写真撮るだけだって言ってんだろ。」
「ダメ!」
「コイツ…」
「あ…!」

手首を掴まれて男の 空いてる片方の手が高く上がる。
殴られる瞬間…


「ようくん!!」

ドアの外から慎二の呼ぶ声がした。

「しん!!」
「!!」
「今ようくんの声がした!」

二人でたった今通り過ぎたドアを振り返った。

「ようくん!」

控え室のドアを思い切り叩いた。

「しん!!」

やっぱりようくんだ… ドアノブを廻したけど鍵が掛かってる。

「ようくんここ開けて!鍵開けて!!」
「かぎ…?」
「チッ!クソ…こうなったら撮るだけ撮ってドアが開いたら
コイツ盾にして逃げ切るしかないな…手ぶらで帰れるかっ!」

乱暴にようの服に手を掛けた瞬間…

ド ン !!

「!?」

軽く突き飛ば した様にしか見えなかった溝口の体が宙を飛んで床に叩き付けられた。

「ゲホッ!!」

「鍵…僕取ってきますから…」

メ キッ ! ! !

「 「 え ??? 」 」

慎二君と二人音のしたドアに視線がいく。

ギリギリメキッグギャ……

「………」

異様な音を発してる…ナンダ?どうした?

ド バ ン ! !

「うわっ!!」

物凄い勢いでドアが外側に開いた。

「なに?どうしたんだ??」

見るとドアの鍵がヒシャゲてネジ切れてた…これって…

「ようくん…」

オレは呆然…これようくんがやったのか??
それってもの凄い怪力って事なんじゃないのか??

「しーな しん!!」

ようくんが部屋から飛び 出してオレと慎二君に飛び付いた。

「ようくん大丈夫ですか?何かされませんでした?」

言いながら慎二君はようくんの身体のあちこちを調べてる。

「良かった…」

慎二君がようくんの身体を調べ終わってホッと溜息をついた。
オレはそんな慎二君を見てホッとした。

「お前…」

オレは部屋の中でヘタリ込んでる男に向かって歩き 出そうとした…
その時慎二君がオレを静止した。

「あなた…溝口さん…」

慎二君がその男を見て呟く。

「知ってるの?慎二君。」
「ええ…以前 『TAKERU』でカメラマンとして仕事してた人です。
でもそれを良い事に撮影を装ってモデルの女の子に手を出そうとしたんです…
しかも被害に遭ったのは1人 や2人じゃない…ここでは未遂に終わりましたけど。
だから辞めてもらったんですけど何であなたがここにいるんです?」

「…ここに半獣の女が来てるって聞いたん だよ。半獣は珍品だからな…
ヌードの生写真なんて高く売れると思ってなっ!!
大体半獣なんて奴はそっちの為にいるようなもんだろうがっ!!」

「テメェ…」

オレは頭に来て奴に向かって歩き出した。
その前を慎二君が先に歩いて行く。

「慎二君?」

奴の前で止まるとスーッと慎二君の左足が後ろに下がった。

バ キ ッ !!

「ガッ!!」

思いっきり奴の顔面に慎二君の振り下ろされた左足が入った。
奴はそのまま床に仰向けに倒れこんだ。

ド カ ッ !!

「ぐえっ…!!」

仰向けになった奴の喉元に慎二君の左足が押し付けられる。

「あなたはここに出入り禁止って言ってありましたよねぇ?忘れたん ですか?」

「……ウェ……がはっ…」

グイグイと慎二君の靴が奴の喉に食い込んでいく。

「あなたに情けなんてものは必要ありませんでしたね…
しばらく 刑務所の中で大人しくしてて下さい…叩けば埃の出る体でしょ?
どうせロクな事してないんでしょうから…」

慎二君が…静かに変わっていく…

「今後二度と僕達の前に現れないで下さい。
もしどんな形でも僕達にちょっとでも係わった事がわかったら…
僕あなたを許しませんから。
僕の手を汚さずに あなたをこの世から消す方法なんていくらだってあるんですよ。」

「……クッ…カッ……ハッ…」

奴の顔が土色に変わっていく…慎二君は押さえ付けた足を どかそうとはしない。

「わかりました?……返事無いですね?溝口さん…返事…して下さいよ。
じゃないと僕この足退かしませんよ?」

更に力を込め ようとする慎二君の肩を引っ張った。

「慎二君もういいから…ようくんが見てるよ。」

その言葉に慎二君がピクンとなってガバッとようくんの方を振り向くと…

「ようくんっっ!!嫌な思いさせてごめんね!」

そう言ってようくんを抱きしめた。
オレも慎二君の事言えないけど…その姿があんまりにも変わり過ぎで…驚いた。


溝口はそのまま警察に引き渡して一件落着。



「…うーーーっっ!!やんっ!!」

バタリとようくんの右手がテーブルの上に押し付けられる。

「やっぱり弱いよな…」

オレとようくんは腕相撲の真っ最中。
5戦してオレの連勝。
いつもの事なんだけど今日は何とも納得がいかない… あのドアを見ちゃったからな…

「火事場の馬鹿力なんじゃねーの?」
「それでもアレは異常だろ?金属だよ?それが捻じ切れる程の力なんてさ…
今までそんな事 無かったじゃん。」
「半獣の能力ですかね?大人になったから。」
「そんなの聞いた事ある?」
「ようくんハーフだから普通と違うかもしれませんね。」

「おい…よう!椎凪に抱きついてやれ。力一杯ぎゅーーーっとな。オレが許す。」

「え?ちょっと祐輔?」

「うん!!」

ようくんがニッコリと可愛い笑顔で 返事をした。

「え?ちょっ…ようくん…タンマ…」
「しーなぁ」
「え?ちょっと…」

ガバッとようくんがオレに正面から抱きつく。
本当なら嬉しい事の 筈なのに…今回は…

「ぎゅぅーーーーっとだぞ。よう。」

「うん!!」

「でーーーーーっっ!!ちょっ…くっ…苦し……」

今までとは違う…半端無く苦しい んですけどっっ!!

「どうやら感情入れ過ぎると怪力発揮するみたいだね。」
「らしいな。」

……何暢気に観察してやがんだっっ!!お前ら後で覚えて ろよっっ!!

「しーな うれしい?」

ようくんがニッコリと笑ってる。

「う…うれ…しいから…もう…はなれて…わかったから…よう…くん…」

オレは もう息も絶え絶えだって…

「ようもうれしいーーー」

「 !!!! 」

更にギュッと抱きしめてくるようくんを
何とかオレから離す事が出来たのはそれから5分後の事 だった。


今度はどんな成長見せてくれるんだろう…

オレ達は楽しみでしょうがない…ねぇ…ようくん…