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「お似合いって…猫とお似合いなんて言われたって嬉しくも無いって…」


ソファに座って明日返さなければいけないDVDがある事に気づいて慌てて観てる。

アイドル俳優と言われてた奴が初めてのダークな役を演じて話題になった。
濃厚なラブシーンも話題を呼んでオレもついつい手にしてしまったという訳で…

別にHなシーンに釣られた訳じゃない!
推理サスペンスにも話題が集まってたからそっちの方が気になっただけで…

そう言えば前作が好評だったらしく今度第2弾の撮影が始まるってテレビで言ってたな…

ソファの上で胡坐を組んでその足の交差した窪みにあの猫が当然の様に陣取ってる。
そんな風に思ってるオレだが自然に指先で猫の顎を撫でてる…

まあ猫がいれば皆自然にそうなるだろう?


「お似合い…か…」


昔…同じ言葉を言われた事がある…

高校時代…3年の時同じクラスの大人しい女の子だった…

何となく話も合って一緒にいる時間も増えて…周りからお似合いなどと冷やかされて…

その度に彼女は 「風間君に迷惑よ。ねえ風間君…」 って言ってた…

オレは別に迷惑でも無かったし…あながち嫌だったわけじゃなくて…
内心ではいつ彼女に告白しようと思ってたくらいだった…

結局何も言えないまま卒業式が来て…廊下で泣いてる彼女を見付けた…
オレは近づいてここぞとばかりに告白しようと意を決すると
彼女が先に口を開いて言った…

「やっと先生に告白出来たの…先生も私の事好きだって言ってくれたの!
私が卒業するまで待っててくれたんですって…私嬉しい!風間君!」


オレとお似合いと言われて…迷惑してたのは彼女の方だったんじゃないか…

その時初めてオレは気づいて… 「良かったな…」 なんて言ってる自分がいた…

でも寸での所で恥をかかなくてすんだとホッとしてる自分がいたのも確かだった…

だから高校時代は誰とも付き合う事無く終わって…
大学に進んで2人…社会人になって1人付き合ったが1度はオレから別れを切り出して
残り2度は彼女の方から別れを切り出された…



「ふあ〜〜〜」

何とか最後まで見終わって背伸びの大欠伸だ…

DVDは結局最後は相手役の女刑事は事件解決後は転勤になり
主人公の男は数々の事件を解決してまた何事も無かった様に元の大学生に戻っていった…

ただ主人公自身は謎を残したままだから次回作でその辺りがハッキリするんだろう…

何だか次回作も見てみようか…なんて思ってしまった…
製作者側の思う壺だな……


「おい!まさかオレと一緒に寝るつもりじゃないだろうな?」

さっきからオレの足の上で眠ってた猫に向かってそう言った。

「お前はソファで十分だろ?」

何気に頭のいい猫で1度トイレに外に連れて行けと玄関のドアをカリカリとやられた。

猫なんて飼ったこと無いから猫用のトイレなんてあるわけ無いし…
外に連れ出して逃げるかと思ったがちゃんと草の陰で用を済ませると
オレよりも先に部屋に戻ろうとしてた…ちゃっかりしてる…


「ナァーーーナァーーー」

オレの部屋は6畳程のキッチンダイニングと10畳程の洋間と6畳程のロフトが付いてる。
オレはロフトを寝室として使ってるから猫を下に残してさっさとロフトに上がってベッドに潜り込んだ。

ベッドと言っても床に直にマッドを敷いてあるだけで簡易的なものだけど…

オレが上に上がった途端下であの猫が鳴き出して…鳴き続けてる…

「そんな声出して鳴いたってダメだからな!お前は猫でオレは人間!お前は下で十分だろ?
大体猫と一緒に寝る趣味は無いから!!」

「ニャーーーー!!ニャーーーーー!!」

上を見上げてずっと鳴き続けてる…
流石にロフトに上がる階段は上って来れないらしくハシゴ階段の直ぐ下で
ずっと上を見上げて鳴き続けてる……これって…近所迷惑になってないか??

近所からそんな鳴き声は聞いた事も無いし苦情があるとは聞いた事も無い。

が!いくらペット可でも飼ってない住人もいるわけで…
どんな風に近所に聞こえてるかわからないオレは結構気になる…

「静かにしろ!近所迷惑だろ!!」

「ニャーーーー!!ニャーーーーー!!」

「表に出すぞ!」

出来ないくせにそんな事まで言葉にした。


「ニャーー!!ニャーー!!ニャーー!!フニャーーーーー!!」

余計鳴かれた…


「ったく…今夜だけだから特別だぞ。」

結局オレが根負けしてため息をつきながらロフトのハシゴ階段を下りてた…
床に足が着いた途端猫がオレにジャンプしてパジャマ代わりのスウェットに爪を立てられ
胸の高さまで駆け上がるとぎゅっとオレにしがみ付いた。

「………ホント…お前一体何なんだよ…」

オレから離れまいと必死にしがみ付いてる猫の頭と身体を撫でながらそんな言葉が出る…


「この部屋に他人を連れて来たのお前が初めてなんだからな。しかも一緒に寝るなんて…」

「ふにゃ〜〜ん……」

仰向けのオレの胸の上でクッタリと寝る態勢の猫を見下ろしつつ
猫に向かってそんな事を言ってる自分がおかしかった…

ここに越して来たのは半年前…
前のアパートは管理会社が変わりいきなり家賃の値上げが決行された。
約倍近い家賃なんて払う気もせずなら丁度部屋が空いてると米澤に紹介され
ここに引っ越した。その頃に最後の彼女と別れたんだっけ…
まあ良いタイミングだと思ったんだよな…確か。


「オレ猫相手にどんだけ喋ってんだ?」



……どうせ明日になればいなくなる猫なのに……


そう思いながらも…片手は一晩中…

猫の身体を押しつぶさない様にと庇って寝てるオレがいた…