06
部屋に戻っても猫はガタガタ震えてて…オレはそんな猫を抱きしめたままソファに座る。
「猫……」
「……」
「猫!もう大丈夫だぞ…」
優しく頭を撫でた…
「ナァ……」
やっと頭を上げてオレを見てくれた…
「大丈夫…」
猫の腋の下に手を入れて抱き上げた。
オレの視線に猫の視線を合わせる。
「オレを追い掛けて来たのか?良くここがわかったな…頭いいんだなお前……」
「………」
「まったく…折角もとの場所に戻してやったのに…人の苦労無駄にしやがって……」
「ナァ〜」
「オレに飼い主になって欲しいのか?」
「ニャン ♪ 」
明らかに今までの鳴き方と違ってた。
「本当の飼い主が現われても…もう返さないぞ?」
「ニャン ♪ 」
「………オレ動物飼った事無いんだけど…まあどうにかなるか?」
「ニャン ♪ 」
「クスッ……」
どんな心境の変化か…オレはこの真っ白な猫を飼う事になった…
こんなに飼うまでに色々な事があってもオレの前にいる猫…
「飼うしかないよなぁ……となったら名前か?猫じゃな……ンーーー」
「?」
「お前綺麗な白で真っ白だから 『 真白 』 でどうだ?」
「ニャ ♪ 」
「真白 ♪ お前にピッタリだ。オレは 『 風間春悸(kazama haruki) 』 よろしくな。」
「ニャン ♪ 」
おかしなもので飼うとなったら途端に愛着が湧いてくる…
本当は昨夜会った時から愛着が湧いてたのかもしれない…でも気付かないフリをした…
「まずは身体を綺麗にするか。ちょっと汚れた…それに…」
何よりあのこ汚い野良猫に組み伏せられたと言うのが我慢ならない!
「綺麗に洗ってやる真白。」
「ナァ〜」
それから…オレと真白の毎日の日課となるお風呂タイムが始まった。
ピンポ〜ン ♪
「ん?」
風呂から出て15分ほどしてチャイムが鳴った。
「こんばんは ♪ 」
「米澤…」
「やっぱり飼う事にしたんだ。」
オレの腕の中に大人しく抱っこされてる真白を見て言われた。
「別に米澤に言われたからじゃ無いからな…ちゃんとオレが考えてオレが決めた!」
「良い事だわ。ちょっと付き合いなさいよ。」
「は?」
「いらっしゃいませ。あ!米澤さん。」
「こんばんは。」
「………」
連れて来られたのはペットショップ…
家から10分程歩いた場所だが…こんな店前からあったか?
「紹介するわね。こちら 『 風間春悸 』 さん。
この猫ちゃんを飼う事になったからきっとお得意さんになると思うから。」
「まあそうなんですか!これから宜しくお願いします。」
「はあ……」
「なんて言うお名前何ですが?」
「え?ああ… 『 真白 』 …」
「わぁ〜真っ白なこの子にピッタリ!」
「まあ洒落た名前にしたわね。あなたにしては上出来かしら?」
「…………どうも…で?オレをここに連れて来て何だよ?」
「飼う事に決めて名前も決まって…なら次に必要なのは首輪かと思って…」
「あ…」
「この子にピッタリなのを選んであげるといいわ ♪ 」
目移りするぐらいの量の首輪が所狭しと陳列されてて目が廻る。
「どれがいいんだ……」
もう段々面倒くさくなってきて適当に選べばいいか…なんて思う始末…
「ナァ〜」
「わかってるよ…」
そんなのを見透かした様に真白が一声鳴いた。
「お!」
大量の首輪の中で1つ目を惹いた…
牛革で出来たパステルカラーのピンク色で真ん中に同じ色の花とリボンが付いてた…
「これ…真白に似合いそうだ……ハッ!!」
気付けばニンマリ笑った米澤がすぐ後ろにいた。
「何よ〜その嬉しそうな顔〜フフ…」
「うるさい!選べって言ったのはお前だろ…」
「まあいいけど…あらピンクで可愛いお花まで付いて…いいんじゃない。この子にピッタリよ。」
さっそく真白の首に首輪を付けてやってマジマジと見た…
……似合う!!……しかも可愛い……♪
オレは心の中でそう呟いてニンマリしてた。
「ではここにお名前宜しいですか?」
「は?」
お金を支払ったら何だか紙切れ1枚出されてペンまで差し出された。
「簡単なお客様名簿です。ご住所と飼い主様のお名前と猫ちゃんのお名前と…」
「…………」
用紙の内容は至って簡単だった。
『 私 ______ はこの猫 ______ の飼い主である事を認めます。
そして最後まで責任をもって育てる事を約束します。 』
「何だコリャ?これが名簿?」
「はい。下に住所と電話番号お願いします。ただ飼い主様がこの子を大事にしていますって
わかる為のものですので。あまり深く考えずに ♪ 」
「………」
「何?自信が無いの?まさかもう飼う自信が無いとか言わないわよね?」
「言うわけ無いだろ!書くよ!書けばいいんだろ!」
半ばヤケクソで書いた。
どうも米澤に言われると反発したくなるらしく…サッサと書いて店員に用紙を差し出した。
「ありがとうございます。これからもご贔屓に ♪ 」
ニッコリ笑顔で送り出してくれた。
「じゃあ大切に育ててね。何かあったら言って…それか今のお店の子に相談すればいいわ。」
「ああ…」
「あ!そうだ…あの猫グッズ一式は私からのプレゼントにしてあげる。」
「そりゃどうも…」
「お休みなさい。」
「お休み…」
そんな会話をして米澤は先にエレベーターを降りて行った。
「…………」
何とも言えない不思議な感じで…
でも一体何処が不思議なのか自分でもわからなくて…
「まあいいか…さて真白…ゆっくり休もう…ちょっと疲れた…」
「ナァ〜」
「ホントお前オレの言ってる事がわかるみたいだな…変な奴だ…」
それからオレの生活は真白中心になって行った…
なるべく早く仕事を切り上げて帰宅するのは当たり前になったし
昼間仕事でオレがいないせいかいつも真白はオレの腕の中にいるかオレの肩の上にいた…
毎日一緒にお風呂にも入ったし一緒にも寝た。
真白はオレの上で寝るのが当たり前で朝の「おはよう」のキスと
「いってきます」「ただいま」のキスも当たり前だった…
猫とするなんて今までの自分からは想像出来なかったが
オレは真白が可愛くて仕方なかった…
真っ白な真白…他の猫なんか比べ物にならないほど綺麗な毛並みに白さ…
オレの自慢の猫…
そんな真白は昼間いつもテレビを見てる…
ちゃんと自分でスイッチを入れて切る…チャンネルも自分で廻す…
粗相なんてした事も無くてお行儀も良い…
「それって溺愛って言うのよ。」
なんて言う米澤の言葉に表面では否定しながらも内心ではニヤケていた…
そんなオレと真白の生活が1ヶ月程続いた頃…
オレの身にとんでもない事が起き様とは…オレはまったく予想もしていなかった!