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「風間君大丈夫?」

「………大丈夫に見えるか?」

会社の帰り…エレベーターを降りた所で米澤に声を掛けられた。
あの時以来オレは米澤を見る目が変わったけど当の本人はまったく気にせず
いつも通りに仕事をこなしてる。

何だか不思議な感じだ…

「まあ心なしかやつれたかしら?」

真白があの姿になって約1週間…やっと明日は休みだ…

「毎日一緒に寝て毎朝裸で抱き着かれて毎朝服着せて…
飯の準備して風呂入れて…やつれない奴がいるか?ええ!」

「あら…一緒にお風呂入ってんの?一緒に寝て裸の真白ちゃんに抱き着かれてるの?あらー」

「!!」

しまった!つい…

「で?」
「で…って?」
「どうやらそれ以上は進展してないみたいだけど?」
「あ…当たり前だろ!」
「当たり前…か…」
「なあ」
「ん?」

「真白みたいな猫他にいるのか?」

「え?」

いつも気になってた…

「まさか真白1人?」
「違うわ…まだ何人かはいるわよ…」
「え?そうなのか!」
「ええ…」
「オレと同じ条件で?」
「そうよ。」
「で?」
「でって?」

「人になった猫っているのか?」

「………いるわよ。」

「ええっっ!!マジ?」

「ええ…」
「で?今どうしてるんだよ。」
「それは内緒 ♪ 先にそう言う情報は入れちゃいけない事になってるから。」
「………なあ」
「なに?」

「どうしてオレは選ばれたんだ…」

「不思議?」
「ああ…」

「だって真白ちゃんとの相性良さそうだったし ♪ 実際そうだったしね〜」

顔を覗き込まれた。

「ぐっ!」
「まああなたが良いって言ったのはあの子だけど。」
「真白が?」
「あの子達も時々こっちには来てるのよ。」
「へえ…」
「その辺りの事は真白ちゃんに聞いてよ。私から言うわけにはいかないから…」
「ああ…」
「大分会話出来る様になった?」
「まあね…最近昼ドラに嵌まってるらしい…」
「昼ドラ?」
「ああ…」
「そう…いいじゃないどんどん人らしくなって…」
「まあ…良いんだか悪いんだか……」

「でも…前にも言ったけど最後の一線を越える時はちゃんと覚悟を決めてからにしてね!
本当にあなたにとって重大な事なんだから!」

「わかってるよ…でも一体どんな事が起こるんだよ!」
「言えるわけないでしょ!とにかく軽い気持ちでなんてしないでよ!
そうなら何もしないであの子を帰してあげてよね。」
「………何にも言えないんだな…」
「当然でしょ…」
「なあ…帰った猫はどうしてる?」
「どうって…元気にしてるわよ…」
「猫も帰れば記憶がなくなるのか?」

「………ええ…そうよ…だからこのまま帰ったとしても風間君が気にする事無いわ…」

「………ふーん…」


お互い相手の事は忘れるのか…

忘れる…真白の事を忘れる……



「おかえり ♪ ハルキ!」
「ただいま…チュッ ♪ 」
「ヘヘ ♪ 」

いつも真白はオレが頬にキスをすると嬉しそうにニッコリ笑う。

「ワ〜イ ♪ お風呂 ♪ お風呂 ♪ 」

帰って最初に入るお風呂タイムも前と同じ…

「やっと1人で脱げる様になったか。」
「うん ♪ 」
「じゃあ次は髪の毛だな。早く1人で洗える様になってくれよ。」
「やだよ〜」
「はあ?何で?」
「ましろハルキとずっと一緒に入りたいから ♪ 」
「あのな…」

そう言うと真白は先に浴室に入って行く…
ホントスラスラ喋れる様になったよな…テレビ様々だな…


「真白皿出して。」
「は〜い ♪ 」

風呂から出ると2人で夕飯の支度もする。
真白は簡単な事ならオレの言う事が大分わかる様になって手伝ってくれる。

「真白…」
「ん?」

やっとマトモにスプーンで食べれる様になった…オレの努力の賜物だよ!
何度キレそうになったのを我慢したか…

次は箸の使い方なんだか…当分はやらない事にしてる…
オレの精神が持たない…

「明日休みだからバイクで出掛けよう。」
「バイ…ク?」
「これ!」

そう言ってアクセルを噴かす真似をする。

「え!ほんとう?あっ!!でも……」

真白が一瞬だけ喜んで直ぐに顔を伏せた。

「何だよ嫌なのか?」
「…………」
「嫌なら仕方ないけど…」

何だよ…久々に乗ろうと思ったのに…
それくらいの思い出くらい作ってもいいだろうに…

オレはまだ真白と一線を越えるつもりなんて無かったから…
もし真白が帰る時が来たらと思って…

ああ…でもそんな思い出も忘れちゃうんだったか…

「……ハルキ…」
「ん?」

「ましろの事……おいてったりしない……」

「…………は?」

「だって……ハルキましろの事おいていった!あれで!」
「え?」
「だったら…やだから…ましろいい……」
「…………」

置いてった?…………ああっ!!

そう言えば元の場所に連れて行ったのがバイクに乗った最後か…

「大丈夫だよ…もう置いてったりしないから。」
「ほんとう?」
「ああ…本当。」
「じゃあましろバイクいく!」
「よし。決まりだな。」
「わ〜い ♪ ましろそれはすきなんだよ。」
「へ〜」

ん?今…真白…「 好き 」 って言葉使ったか?

「……………」

本人は全く気にした様子も無くモグモグとオレの作った夕飯を食べてる…

この前の…浴室での真白の言えなかった言葉……

それって……



「ハルキ…」
「ん?」

結局もう1組の布団も買わないまま毎晩同じ布団で寝てる。

しっかりとオレの胸の上に陣取る真白…
オレは仰向け…真白はうつ伏せ……顔もかなり近い…

そんな状態でよく毎晩寝れると自分でも感心してしまう。

真白がオレの身体を跨ぐ様に両手を布団について上半身だけ起き上がった。

「は?」

そのままオレのパジャマのボタンを外しにかかる。

「ちょっ!真白何してるっ!!」

オレはそんな真白の手を掴んだ。

「え?だって…ほかの人もふくきてなかったよ。」

「はあ?他の人?他の人って何だ?」

一体何処のどいつの事だ??

「えっと…テレビの人…」
「は?何?テレビの人?」
「女の人もふくきてなかったよ。ましろと同じ。」
「…………」
「それに男の人も…だからハルキもきてなくてもいいの。」

「………………」

そ……それって……まさか…昼ドラ???

「ちょっ…ちょっとストップ!!」

更にボタンに掛ける真白の手を掴んだ。

「?」
「それは…テレビだから…」
「??」
「別に真似しなくても…いいから…真白…」
「どして?女の人それでうれしいって言ってたよ。ましろもうれしいなりたい。」
「……な…ならなくていいからっ!!!とにかくもう寝ろ!明日起きれないぞ!!」

冗談じゃないって!!

「なんで?ハルキ……じゃあましろもきないから ♪ そしたら同じでだいじょうぶ ♪ 」

「わあああああ!!って脱がなくていいからっ!!!」

自分のパジャマのボタンに手を掛けて外そうとするのを慌てて止めた!

「いいから…もう寝ような!」
「あ…」

そう言って真白の頭と背中を抱きかかえて強引にオレの胸の上に寝かせた。

「ハルキドキドキすごい…」
「うるさい!黙って寝ろ。」

更に強く真白の身体を抱き締めた。

「…………ハルキ…」
「ん?」

「 すき…… 」

「 !!! 」

「やっと…おぼえたよ…」
「…………意味…わかってるのか?」
「……なんとなく……胸…くるしくなったり…いたかったり…たいへん…」
「………まあ…そうだな…」

「でも……どきどき…あったかい……」

「 !! 」

「だからハルキ今すきなんだよね ♪ 」

「え?」

「ドキドキ……ほら…」

オレの胸に耳を当ててそんな事を言う…

確かにドキドキはしてるがそう言う意味じゃないんだけど……

多分違うはず…

「好きじゃなくてもドキドキはするんだよ。」

「え?」

「まだ…覚える事は沢山だな…真白…」
「…………そうなの?」
「ああ…」
「そう……おやすみ…ハルキ…」
「おやすみ…真白…ちゅっ…」

お休みの挨拶をして真白の頬にキスをする…

もうそれはいつもの事…


オレはズルイんだろうか…

真白がせっかく覚えた 「 好き 」 と言う言葉の意味を…

オレは別の意味にすり替えようとしてる……?


オレの上で寝息を立てて眠ってる真白……

そんな真白の頭をそっと撫でると猫の耳がピクピクと動く…
猫の時と同じ仕草……

真白を人として見れない限りこの先に進む事はない…

真白を人としてなんて…見れる日が来るのか…?

でもオレの身体や手の平に感じる感触は女の子そのもので…
人と違う所を見つけることの方が困難だ…

「真白……ごめん……」

そう言って真白の身体をちょっとだけ強く抱きしめた……

今はそれしか言えない……


「ん……」

部屋の中が明るくなって目が覚めた…
カーテンを開けなくてわかる…今日は絶好のバイク日和だ。

いつもの様に真白はオレの胸の上でスヤスヤ気持ち良さそうに眠ってる。

時計を見ようと視線をズラすとまた真白のパジャマが見えた。
まったく…また夜中にパジャマを脱いだのか…と言う事はまた素っ裸なのか?
毎日の事でもう慣れたけど仕方ないな……ん?

真白のパジャマに伸ばした腕が何だか違和感?
ん?何だ?何がおかしい???

しばらく目の前で手の平を閉じたり開いたりした……

ん?あれ?……パジャマの袖が……何で無いんだ??

「……って!!!わあああああ!!!ちょっ…」

パジャマの上脱がされてるっっ!!!いつの間にっ!!!

ズボンは穿いてる感覚があるから……って…でもと言う事は今オレと真白って……

上半身裸???

「まぁ・しぃ・ろぉ・〜〜〜〜〜っっ!!!!」

腹筋を使ってもの凄い勢いで起き上がった。
真白も一緒に起き上がると思ってた通り素っ裸で寝てる!

「……ニャ……ん〜…どした?ハルキ…」

目を擦りながらオレを見上げる…相変わらず身体は隠そうとしない。

真白の腰の辺りを抱きしめて起き上がったから真白の胸が微かにオレの胸に当たる…

どっきーーーーん!!!

っと心臓が一気に跳ね上がった!

だけど…そんな事に…動揺しちゃ……

「よ…夜中に一体何をしてたんだ?真白?」

何とか平静を装って真白に話掛ける…
声が上ずってる…

「え?」
「オレは何でパジャマを脱いでるんだ?」
「……あ……だって……」
「だって?」


「ましろもうれしいしたいんだもん!!!」


そう言ってニッコリ笑う真白…


「 !!! 」



お前はぁ〜〜〜〜〜〜

その意味がわかって言ってんのかーーーーっっ!!!