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あの黒猫娘の一件から1週間…

あの後あの2人がどうなったのか…オレは知らない…

気にならないと言えば嘘になるが…もし2人があの後何事も無く…

彼女が国に帰ったのなら彼はもう彼女の事は忘れてるはずだから…



そんなある日の朝…


「真白?」

朝目が覚めると何だか真白の様子がおかしい…

「……はぁ…はぁ…」

目は虚ろ…息はちょっと辛そうで顔も頬が淡いピンク色…

それに身体を丸めてオレの脇の下にスッポリと収まってる…

そんな事珍しい…
いつもはオレのクビに腕を撒きつけて身体半分はオレの胸の上に乗ってるのに…

しかも服着てるし…

「どうした?真白…具合悪いのか?」
「ハ…ルキ……」
「熱か?」

真白のオデコに手を当てたがそんなに熱いとは思えない…

身体もいつもと変わらなく感じるけど…?

「大丈夫か?」

そう声を掛けて真白の肩を掴んだだけなのに…

「…ンアっ!!!」

「え?!」

な…何だよ……今の声…オレ何もしてないよな??

「はぁ…はぁ…ン……」


でも……これは……この真白の状態は……

大分前に見た記憶が……これって………




「発情期ね。」

「発情期ーーーー????」


どうしていいかわからず米澤に来てもらった。

「発情期って…あの発情期か?」
「他の発情期があるなら知りたいわね。」
「何で真白に?」

ソファで未だに丸まってハァハァと息をする真白を見下ろしての会話だ…

「だからまだ真白ちゃんは「人」じゃないのよ…猫のサイクルに影響されるのよ…」
「………じゃあ…発情期が過ぎるまでこのまま?」
「そうね…そうなるわね…」

「どうすればいい?何かクスリなんてあるのか?」

「あるわけないでしょ!じっと過ぎ去るのを待つのね…」
「それで大丈夫なわけ?」
「多分…生理現象だから…しょうがないわよ…」
「1人にしておいて平気か?」
「勝手に外に出なければいいけどね…」
「え?出るのか?」
「さあ?ジッとしてられなきゃ出ちゃうかもね…」
「あのなぁ……」
「だってそんなのわからないもの…じゃあ会社休んで看病してあげれば?」
「それ無理!今日は大事な打ち合わせがある。」
「じゃあ真白ちゃんにちゃんと言い聞かせとくのね…」
「…………」
「何よ…」
訴える眼差しで米澤を見た。
「無理だから!私だって今日は外せない仕事があるのよ!」
「……そっか…わかった…仕方ない…」
「まあ今日どうにか乗り切れば土・日でしょ?」
「そうだな……」


米澤にはああ言ったけど…やっぱり気になる…

一応真白には絶対外に出るなと念を押したけど……

コクンと頷いた真白はやっぱり辛そうだった……


1日がこんなに長く感じた事はない…

今日のメインの仕事の打ち合わせも相手の会社に訪問しての打ち合わせだったから
そのまま直帰させてもらう事にした。

何とかこっちのペースに持ち込んでごねる事無く話を進めて
思ってた以上に話がスムーズに運び時間短縮が出来た。

オレは速攻で家に向かって歩き出した。



「真白!!」

玄関の鍵は掛かってたから外には出てないらしい…

リビングに入ると真白がソファにいない…

「真白!?」

「……ぅ……」

「え?」

真白の声はするけど……肝心の真白は???どこ??

「ハル…キ……」

「え?」

何だか頭の上から……って!!

「真白!?」

真白が天井スレスレの場所で朝と同じ様に身体を丸めてフヨフヨ浮いてた!!

「真白!何してる??大丈夫か?」
「………ハルキ……」
「来い……」

見上げて真白に向かって両手を広げたら真白が同じ様に両手を広げて
オレの胸に飛び込んで来た。

「ハァ…ハァ…ハルキ…ましろ…どうなった?なにこれ?」
「辛いか?」
「良く…わからない……でも身体が…変なの……いろんなとこ…ムズムズ…変…」

そう話す真白の瞳はキラキラ潤んでて…淡いピンク色の頬で…困った顔で…

ドキン!!!

とオレの胸の奥が高鳴る……

「横になってた方がいい…」

「ん…」

「しっかり掴まってろ…」


オレの首に腕を廻して抱きついてる真白を抱いて片手でロフトへの階段を上がる…

オレが一段上がる度にオレの耳元にある真白の口から吐息が漏れる…

それがオレの耳の置くまで届いてその度に背中がゾクリとなる……

何だよ……何考えてんだ……オレ……

雑念を追い払って真白を布団に寝かせた…


「何か飲み物持って来てやる…」
「うん……」
「何か食べるか?」
「……いらない……」
「そっか…じゃ待ってろ…」


冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して真白の所に戻った……

「真白…水でいい……」

「……んっ……」

仰向けで寝る真白は自分で自分の身体を抱きしめて…小さく震えてる…

「真白!」
「……ぅ……ハルキ……」
「ホント大丈夫か?そんなに辛いのか?」
「大丈夫……」
「…………」

オレはまだ着替えてないスーツのズボンから携帯を取り出して
米澤に電話を掛けた。

『はい。』
「あ…米澤…オレだけど…」
『どう?真白ちゃんは…』
「何だか朝よりも辛そうなんだけど…ホントに何もクスリとか無いのか?」
『だから…無いってば…』
「じゃあ何か少しでも楽になる様な事無いのか?」
『…………』
「米澤?」
『無い事もないと思うけど…』
「え?何だよ…何か出来る事あるのかよ!」
『いや〜〜でもこれはちょっと風間君には無理だと思うわよ…』
「何でだよ!そんなのやってみなきゃわかんなだろ!!」
『そうかな〜〜〜絶対無理だと思うわよ…』
「何だよ…教えろよ…」

『抱いちゃえばいいのよ。』

「…………は?」

なんだ??聞き間違え??

「悪い…もう1回言ってくれる?」
『だから真白ちゃんを抱いてあげるのが一番の解決策よ。』
「なっなっなっ…何でそうなるんだよーーーーっっ!!」
『ちょっと…耳痛いでしょ…あなたが何か無いかって言うから教えてあげたんじゃない。』
「だからってそれって話が飛躍しすぎだろ?」
『だって結局はやりたくてやりたくて仕方ない状態がずっと続いてるのよ。
だったらその欲求を満たしてあげるしかないじゃない。』
「だからってな…そんな事…」
『じゃあ黙って見てなさいよ。他に出来る事なんて無いわよ。』
「………あのなぁ〜〜」
『だから無理にしなくたっていいのよ!どうせ数日間の事なんだから…』
「………」
『じゃあ切るわよ!とにかく頑張って。じゃ ♪ 』

そう言うと本当にアッサリと電話は切れた……






「………マジか…」

そんな事…出来るはずないじゃないか…
確かに発情期の猫の目的はそれなんだし…当たり前かもしれないが…

「……ふぅ……ン……」

「真白……」
「ハルキ……」
「辛いか?」
「…………」

そう聞くと真白は黙ってオレに手を伸ばす…

真白の身体を跨ぐ様に両手を着くと真白がオレの首に腕を絡ませて引き寄せた…

「…大…丈夫……こう…してれば……はぁ…はぁ…」

「…………」


朝から一体何時間…真白はコレに耐えてるんだろう……


「真白………」


本当に…この状態を軽くしてやるには…ソレしかないのか……


「真白……」

真白の背中に腕を廻してぎゅっと抱きしめてやった…

「……あ…」

それだけでそんな声を出す……

「ハルキ……ましろ…変…だよ……今…すごくうれしい…の…」

「…………」
「あんっ!!」

埋めてた真白の首筋から耳朶にかけて舌で舐めあげて甘噛みしたら
真白の身体が一気に跳ね上がってそんな声を洩らす……

「ハ……ルキ……?なに…してるの?」

「………ちょっと…我慢しろ……少しは楽にしてやれるかもしれな……」

「ホント?」

「わからないけど……」

「いいよ……ハルキになら……大丈夫だもん……」


そう言ってニッコリ笑う…

辛いくせに…無理して……


「……………」


オレだって本当は心臓がドキドキバクバク破裂しそうだった…


いくら正当な理由があるからって……


オレがこれからしようとしてる事は真白の身体を弄ぶ事にならないんだろうか?