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真白が知り合った手塚と言う親子の父親は…
どうやら昔真白を飼っていた相手らしい……
真白も手塚さんもその事は覚えていないし…米澤もその事は肯定しないし否定もしないから
本当の所はわからないが…オレはそうだと確信してる…
なぜそう思うのか自分でもわからないがでも何故かそう思う…
これは勘としか言い様がないけれど…オレのその考えは間違ってはいないと思う…
「真白?」
仕事が終わって部屋に帰ると部屋は真っ暗で真白がいない…
「……なんで?」
こんな事初めてだ…真白が猫の時からオレが帰って来て家に真白がいないなんて…
「くそっ…」
昼間ならまだ買い物にでも行ってるのかと思えるけど…
いまはもう夜の8時近い…外に出るなんて有り得ない!
こう言う時真白と連絡を取る方法が無くて困る…
携帯はまだ真白には無理で渡してないし…
でも心のどこかで真白はいつもオレの部屋にいると思ってたから
そんな事あまり気にしたことが無かった…
何故か足はこの前手塚さんと会った公園に向かう…
きっと彼の家はあの近所だ…
「 !! 」
見れば前の道をオレの方に人が歩いて来る…
あれは……真白…?
「真白っっ!!!」
「にゃ?」
真白がオレの声に反応して顔を上げた。
「ハルキ!!」
「真白!」
オレは真白の前まで走って行った…
「何やってんだ!こんな時間に!!心配するだろ!!」
「ごめん……だって…」
「何処に行ってたんだ?」
「あ…んと…牛乳…無くなっちゃったから…それとチョコ ♪ 」
そう言ってコンビニの袋をオレの目の前に広げて中身を見せる。
「………本当に…コンビニだけ…か?」
「え?」
ってオレ何聞いてるんだ……
「いや……」
「ハルキ?」
「今度からオレが帰るまで待ってろ。こんな時間にお前みたいのが1人で歩いてたら危ないから。」
「あぶない?」
「そう!他の男に連れてかれちゃうぞっ!それでもう2度とオレに会えない!」
「ええーーーーっっ!!本当?」
「本当!!!」
まあ…嘘は言ってない…多少オーバーな表現だけで……
「わかった。今度はハルキ待ってる。」
「ああ…約束だぞ。」
「うん。」
「じゃあ帰ろう。」
そう言って真白の前に手を差し出す。
「!!………うん。」
真白は嬉しそうに笑ってオレの手を取る……
ああ……オレ…
部屋に戻って遅い夕飯を簡単に作って食べた…
それから真白と2人でお風呂に入って……
いつもの様にシャワーからのお湯が流れる真白の背中を見てた…
未だに1人じゃ髪の毛を上手に洗えない真白……
料理だって…言葉だって…まだまだ覚える事はたくさんある……
足りない……あと3ヶ月なんて…足りないよな…真白…
それに…せっかく覚えた事も……オレの事も……忘れるなんて……
「どうしたの?」
「え?……いや…」
会社の帰りのエレベーターの前で米澤にそう声を掛けられて振り向いた。
「何だかいつもと顔が違うわよ。」
「そうか?明日から2連休だからホッとしてるのかもな…」
「もう…5ヶ月って言った方がいいのかしら…それとも後1ヶ月って言った方が良いのかしらね?」
あれから1ヶ月近く経って手塚さんの育児休暇も終わり真白はあの親子に会う事も無くなってた…
オレは真白が手塚さんに係わらなくなってホッとした…
そんなホッとした自分に驚きながら…でも何でホッとしたのか納得してる自分もいて…
「さあ…どっちだろうな……なあ…」
「ん?」
その時エレベーターが着いて2人で乗り込んで1階のボタンを押す。
「真白ってまさかこのままならどうなるかって…知らない訳じゃ無いよな?」
「え?何で?」
「いや…残り1ヶ月なのに全く焦る様子がないんだよな…あのキララって子は相当焦ってたのに…」
「あなたを信じ切ってるんじゃないの?」
「…………」
あの真白の性格じゃ残り1ヶ月なんて知ってたら毎日毎晩オレに何か言って来ると思うんだよな…
『 ハルキもう時間がないの!!!だからお願い!!! 』
なーんて…それでオレにアピールしまくると思うんだけどな……きっと裸で…
「ちょっと…」
「え?」
「何ニヤケてるのよ!気持ち悪いわね!」
「えっ!?あ…いや……」
ヤバイ…つい……
「1度聞いてみれば?真白ちゃんに…」
「そうだな…今度聞いてみるよ…
そう言えばあの真白の猫の耳と尻尾ってどうやったら無くなるんだ?」
「え?」
「きっとあのままって訳じゃ無いんだろ?」
「……そうよ…一線を越えたら無くなるわ…」
「へー…そうなんだ…」
「風間君…」
「ん?」
「わかってるわよね?最後の一線を越えるには相当の覚悟で挑んでねって…」
米澤がえらく真面目な顔で念を押す。
「ああ…わかってるよ…」
「ならいいけど…」
「万が一…一線を越えたら……」
「え?」
「真白は国に帰らなくて良いんだろ?」
「 !!! 」
「なあ…」
「そ…そうだけど…風間君?」
その時エレベーターが1階に着いて扉が開いた。