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「んーー」

明るくて目が覚めた。

でももう朝と言う時間じゃなさそうだ…明るさが違う。
何でこんな時間まで寝てたんだ……って…

「あ…オレ…」

そうだ…真白を抱いたんだ…


でも…ずっと前からそう決めてた…だから後悔はしてない…

一体オレの身にどんなとんでもない事が起きるんだ?


「ん…」

オレの胸の上で真白がモソッと動いた…
明け方近くまで真白を離せなかったから…真白もぐったりだ…

久しぶりだったせいなのか?いや…そうじゃなさそうなんだよな…これが…

自分で自分が抑えられなくて…真白には無理をさせた…これは一体何なんだか…

「ん?」

視界に何か映る……

「んん?」

黒?

「ああっ!!」

オレは思わず叫んで真白を起こす。

「真白!ちょっ…ちょっと起きろ!!」
「んー?ハルキ……も…ましろ無理〜〜〜」
「違うって!!いいから見てみろ!」
「んー?」

起き上がった真白の裸の胸に掛かる髪の色が…

「あれ?髪の毛が…」

今まで銀色だった真白の髪の毛が……真っ黒になってる!!

「あっ!耳無いぞ!」
「え?あ!しっぽも無いよ!!ハルキ!!」

真白が頭を触ったりお尻を触ったり…慌しい。

「あ!」

今まで無かった場所に毛も生えてる…
本当に何から何まで人間らしくなってる…

「………」
「ハルキ?」

「……人になったんだよ…真白…」

「え?」

「良かったな…ちゃんとした人間の女の子になったんだ!」
「うそ…」

「本当…おめでとう。真白…」

「ハルキ……………ハルキーーー ♪ ♪ 」

ガ バ ッ ! っと真白がオレに飛び付く。

「じゃあ本当にずっとハルキの傍にいられるのね!ハルキと一緒にいてもいいのね!!」

「ああ…ずっとオレの傍にいてくれよな…真白…その為にオレだって一大決心したんだから…」

「うん!」

2人でしばらくぎゅっと抱き合ってた。

「と言うわけで…人になった真白は違うのか確かめよう。」

「ん?」

ニッコリ笑うオレに真白は不思議顔だ。

「え?ハルキ…また?」
「そうまた ♪ 」
「ニャ…ちょっとハルキこれって…こんなに?あ…フニャ!!あっ!あっ!」

昨夜の今朝で真白はオレを受け入れる体勢万全だったから…
すんなりとオレを受け入れてくれた。

どうやら真白はあんまりにも感じると猫の声になる事が判明!わかりやすい。

「はぁ…あっ!ハルキ…」

真白の背中に腕を廻して抱き起こしてオレ膝の上に座らせた。

真白の長い黒髪がサラサラ…真白の白い肌の上を滑っていく…

「瞳も黒に変わってる…」

オレはちょっと目線の高い位置にある真白の真っ黒な瞳を見てそんな事を呟く。

「ハ…ルキ…」
「でも身体は今まで通りの白い肌だよ…」
「うん……変じゃない?ましろ髪の毛変わって…」
「変じゃない…似合ってる…」
「うん…」


それからまたしばらくの間……真白はオレを満足させてくれた…



「こんにちは。」

「ヨオ………」

昼を過ぎた頃玄関のチャイムが鳴って米澤が尋ねて来た。

オレは何とも気恥ずかしいやらバツが悪いやら……

なんせ真白抱いたのが米澤にはバレバレだからで……

それを裏付ける様に米澤は何気に意味あり気に笑ってた。

「おめでとう…って言って良いのかしら?」

「……そうだな…」

キッチンのテーブルに向かい合って座ってる。
オレは何となく視線を合わせない様に自分が淹れたコーヒーを啜った。

「真白ちゃんは?」
「寝てる……」
「ふ〜〜〜〜ん…」
「な…何だよ!」

「やぁね〜〜〜まさか一晩中してたの?」

「 ブッ!!! 」

盛大に噴いたっっ!!

「げほっ…ごほっ…!!!!なっ…おまっ…まさか見てたとか?」
「は?バカねそんなわけないでしょ。まあ真白ちゃんに何かあればわかる様にはなってるけど。」
「はあ?どんな仕組みだ!?それ??」
「企業秘密!あたしが魔女だって事忘れたの?」
「…………」

そうだ…こいつは魔女だった…あんまり実感湧かないけど…

「ちゃんと覚悟は決めてくれたんでしょうね?」
「ああ…どんな事があっても後悔しない。」
「そう…ありがとう風間君…あたし達も嬉しいわ。」
「……で?その事で来たんだろ?」
「そうよ…」
「…………」

オレは心臓がドキドキで…米澤が口を開くのを待ってた…

「ハイこれ。」
「は?」

オレの目の前のテーブルの上にA4の大きさの茶色の封筒が置かれた。

「何これ?」
「いいから開けてみて。」
「………」

オレは言われるまま茶封筒をあけて中身を取り出した。
中身は数枚の書類……

「これって……」

「真白ちゃんがこっちで生活するには必要なものよ。」

中から出て来たのは真白の戸籍謄本と住民票の写しと履歴書…

「一応田舎の山奥の住所が出生地になってる。両親は彼女が高校を卒業した後に
亡くなった事になってるから。親戚もいなくて天涯孤独。って事の方が何かと便利だし
学歴は一応実在する学校だけど殆んどが廃校になってる。
だから早々疑われてる事は無いと思うわ。」

ちゃんと両親の名前も書いてあって…現住所はここの住所になってる…

「これで働く事も出来るし車の免許も取れるし…結婚だって出来るでしょ?」

「……どうやって…」

「あのね〜あたしを誰だと思ってるのよ〜人の心は動かせないけどこんな書類関係なんて
どうにでも出来るのよ。今までだって多少の事はそうやって来たんだから。」

「………文書偽造なんじゃ…」

真面目にそう思った。

「煩いわね!1人の女の子の人生を作っただけよ!
じゃないと真白ちゃんこっちでどう生活するのよ!何も出来ないじゃないっ!!」

確かに…これがあれば真白はオレと同じ…

「さっさと結婚しちゃいなさいよ。」
「は?」
「本当なら結婚した事にだって出来たのよ。」
「お前っ!!それは犯罪だろ?」
「どんな事でも受け入れる覚悟だったんでしょ?なんだそうしちゃえば良かった。」
「でも…これのどこがオレの身に大変な事が起こるんだよ?」

「そうでも言わなきゃ皆簡単に一線越えちゃうでしょ?そんなのこっちだって不本意なのよ!」

「米澤……」

「本当に彼女達の事を思ってもらえなきゃ…
飼い主とここまで来たら彼女達はもう国には帰れないのよ…
こっちでずっと幸せになって欲しいじゃない……」

米澤がちょっと潤んだ瞳で笑う…

「………そうだな…」

本当に…オレもそう思う…




「ちゃんと掴まれよ。真白!」
「うん。大丈夫だよハルキ!しっかり掴まってる!!」

その日の午後…
やっと起きて来た真白を連れて久々のバイクでのドライブと買い物だ。
もう耳の事も尻尾の事も気にしなくて良いから…

「でも…どこ行くの?ハルキ?」
「……大事なもの買いに行く!」
「なに?」
「指輪!」
「ゆび…わ?」
「オレと真白の好きって言う気持ちがわかるんだ。」
「え?ホント??じゃあましろ欲しい!」
「だから買いに行く。」
「うん!」
「よし!行くぞ真白!」
「は〜〜い ♪ 」

真白がオレにしがみ付いて…それを確かめてからオレはアクセルを廻した。




「お疲れ〜〜うまく行った?」

ここは米澤の部屋…今窓から春悸と真白がバイクで出掛けて行くのを見送った所だ。
そんな米澤の部屋に歳は米澤と同じ位の女性がもう1人……

「何とかまとまったわ。」
「そう…良かったわね…」
「まあそれなりに根回ししたし…そっちは?仲良くやってる?」
「ええ…最後の最後まで悩んでたみたいだけど…あの2人に会って決めたみたい。」
「こっちもそっちの2人を見て少しは気持ちの進展もあったみたいだし…
猫同士会わないルールだけど…まあケースバイケースよね。」
「ホント…お互いが会ってなかったらあの2組のカップル成立したかわからないものね…」
「こっちなんて昔の飼い主まで引っ張り出したのよ…上手く行ってもらわなきゃ…」
「いつも気苦労は耐えないわよね…」
「まあこれでしばらくは自由だわ…ゆっくりさせてもらう。」
「勤めてる会社どうするの?」
「えー?ああ…んーーー途中の仕事があるからもう少し勤めてみようかな…
結構頼られてるのよ…」
「へー」
「あなたは?あのオーナーやってるペットショップ…流行ってるらしいじゃない。」
「そうなのよ ♪ なんせ人間の間で今ペットブームだから。もうしばらくやってみようかしら ♪ 」
「いいかもよ。」

そんな会話を交わしながら…2人の魔女は微笑んだ。




「風間さん!ついに明日ですね。」

同じ部署の轟と言う後輩がニヤニヤした顔でオレの傍に来る。

「ああ…」

オレは携帯から目を離してそいつの顔を見た。
携帯の待ち受け画面は未だに猫だった時の真白の写真…

「式の後そのまま結婚休暇で1週間休むから宜しく頼むな。」
「はい。」

あれから2ヶ月…身内だけの結婚式を挙げる事になった。
籍は指輪を買った次の日に先に入れてしまったから…

指輪を買ったら何だかその気になってこうなったらそのままの勢いで
届けを出してしまった。

いくら米澤が用意してくれたとはいえ本当に真白の戸籍が使えるのか不安だったけど
何事も無くあっさりと届出は受理された。

そうなると一番大変だったのは真白に字を書かせる事の方だった…
何度も何度も書く練習をして…やっとまともに書ける様になった…

「………でも風間さん。」
「ん?」
「どこであんな可愛い彼女見付けて来たんですか?」
「え?どこで?」
「合コンですか?それとも誰かの紹介?紹介だったら今度俺にも誰か紹介して下さいよ〜」
「どこでって……」

あれは……


「 木の枝の上… 」


後輩の轟が訳がわからないと言う顔をした…

でもそれが本当の事だからしょうがない……

それがオレと真白との出会い……

真白が勇気を出してオレに会いに来てくれた日……



                         …FIN