09
順番が逆ですが 『 プロローグ 』 の前のお話です。(1年ほどさかのぼってます。)
椎凪 : 耀の高校の美術の教師兼美術部顧問。(耀の事は”ようくん”と呼ぶ)
耀 : 元気×2な女の子。椎凪と同じ高校の今回は1年生。椎凪と交際中。(”オレ”と言う)
「あ!また飛んじゃった…」
オレの誕生日の次の日…
自分の部屋のベッドの上で編み物と格闘中。
昨日の誕生日…確かに椎凪にはプレゼントを貰った。
冬用のコートで今までオレが着てたものよりちょっと大人っぽいデザイン…
椎凪はオレに早く大人になって欲しいのかな…
でも…後はプレゼントを貰ったって言うより奪われたと言った方がいいかも…
午前0時を廻ってすぐに明け方近くまで椎凪に散々身体を奪われた!
しかも…『 椎凪が欲しい… 』 なんて超恥ずかしい言葉まで言わされて…
だから椎凪がオレに言って欲しかった 『 愛してる 』 は意地でも言わなかった!
オレにあんな事して当然だよ!
でもだからって椎凪の事を嫌いになったりなんかはしないけど…
大人の…女の人ならそんなセリフなんの躊躇も無く…スラスラと言うのかな……
「はぁ……」
オレはちょっと落ち込む…
だから椎凪はオレに早く大人になって欲しいのかな…
今日は12月15日…クリスマスイブまであと9日…間に合うかな…
初めての椎凪とのクリスマス…
無謀にも家庭科音痴のオレは椎凪に手編みのマフラーをプレゼントしようと思ってる。
なんだけど……
「どうやったらちゃんと編めるんだよ…おかしいな?ちゃんと本通りにやってるのに…」
本当に初級の初級者相手の編み物の本を見ながら編んでるのに
何故か幅は統一できないわ…途中で変な穴が空いてるわ…全然上手くいかない!!
もう何度途中まで編んで解いた事か……
もう時間が無い…
明後日からは期末試験も始まるから勉強しなくちゃいけないし…
いつも赤点気にしてるオレはそんな余裕なんて無いんだけど…
「もう…買うしかないかな………はあ…」
「よっ!」
いつもの様に耀くんの部屋に行こうと耀くんの部屋の真下の塀に登る。
ガ ラ ッ !!
「ん?」
いつもは開かないリビングの窓が開いて…祐輔が立ってた。
「………?」
珍しい…いつもは見て見ぬフリの祐輔が何でまた?
ヒュッ!! ば こ ん っ !!!
「 あ た っ !!! 」
ど さ っ !!
「 い で っ !!! 」
祐輔の投げたスリッパが回転して垂直にオレのオデコに突き刺さってその衝撃で塀から落ちた!!
「いってえーーーーー…何すんだよっっ!!」
「少しは懲りたか?このスケベ教師の夜這い野郎っ!!!警察呼んでやろうか?」
「もう何だよ!いつもはスルーするくせに何で今日に限って…」
「いつまでも黙認してると思ったら大間違いだ!耀に無理させやがって…殺すぞバカ教師!」
「え?無理なんてさせてないけど?慣れてもらってるんだけどな…」
「お前に慣れたら耀が壊れる!今日は帰れ!」
「やだよ。」
言いながら窓の前まで来た。
仕方なくそっから入る事にした…本当は窓から耀くんを訪ねたかたったのに…
何か障害のある恋人同士みたいでオレとしてはこんな訪ね方ささやかな楽しみなんだけど…
今日は仕方なく諦めた。
コン!コン!
「耀くん入るよ ♪ 」
ド ッ キ ーーーー ン っっ ! !
「え?何で?椎凪?」
ウソっっ!?何で椎凪がドアから入って来るの?いつもベランダからなのに…
「ってマズイ!編み物隠さなきゃ!!」
慌ててベッドの下に編み物の袋を放り込んで起き上がったら椎凪が入って来た。
「?どうしたの?」
「え?別に…」
オレはベッドの上で座り直す。
「何してたの?」
「え?あ…き…期末の勉強…」
「ふーん…」
そんな返事をしながら椎凪もベッドに座る。
「教科書も無いのに?」
「え゛っっ!?あ…」
「何これ?」
「あ!」
そう言って椎凪がベッドの下から編み物の袋を引っ張り出した。
「?編み物?」
「………」
本人に見つかっちゃった…最悪…
「何?これってマフラー?」
「!!……うん…」
「もしかしてオレに?」
「ちっ…違うよ!家庭科の宿題…提出物なんだ…」
……ウソ…ついちゃちた…
「なんだ…でも耀くん…」
「何?」
「いつ提出かわからないけど間に合うの?」
「え?」
「だって期末の後としても今約5cmでしょ?最低2mくらいないと…」
「……………」
「耀くん家庭科音痴なんだから…」
「 ぐっ!!! よ…余計な世話だよっっ!!」
「編み物は優しく毛糸を指に掛けて…こうスイスイと…」
「…………」
目の前でまるでマジックの様に毛糸がマフラーに変わっていく…
「椎凪うまい…」
「オレ手芸系も得意だから…手先器用なの ♪ 」
「…………」
何だかカチンと来た!
「もういいよっ!!」
ひったくる様に椎凪からマフラーを奪う!
もう…あげる相手が自分のプレゼント編んじゃってどうすんだよ!!
「………耀くん…」
「何?」
オレは椎凪の方を見もしないで編み掛けのマフラーと毛糸を袋にしまって
またベッドの下に放り投げた!
もう永遠に出て来なくてもいいくらいの心境だった。
「怒ってるの?」
「何が?」
「昨夜の事…」
「……怒らしたと思ってるの…」
「んー…多少…ね…でもいい経験になっただろ?
自分からオレの事誘うなんて昨夜が初めてだもんね ♪ 」
「別にそんな経験したく無かったよ!自分の誕生日になんでそんな事言わなきゃいけないんだよ…」
オレはブツブツと文句が零れる。
「朝は眠くて…身体中だるくて筋肉痛で…身体にはキスマークが一杯だし…」
「耀くん…?」
「マフラーは上手く編めないし…期末の試験勉強だって…全然わからなく…て…うっ…ひっく…」
「耀くん!?」
「もうやだ!!オレ椎凪になんか相応しくない!!満足に椎凪の相手も出来ないんだもん…」
「耀くん!!」
「もう…普通の…ひっく…大人の女の人と付き合いな…よ…うっく…
その方が椎凪だって満足出来る…もん…」
「……そんな事…言わないでよ…」
椎凪がそっとオレを抱き寄せてぎゅっと抱きしめた。
「…うっ……」
オレはそのまま椎凪の胸に顔をうずめて…ポロポロ零れる涙を椎凪の胸で拭いた…
「オレは耀くんで満足してるよ…昨夜はちょっと耀くんの事攻め過ぎちゃったって…
反省してるから…」
「……ひっく…本…当…?」
「うん…でもね…耀くんに『 愛してる 』 って言って欲しいのは本当だよ…
耀くんより年上だけどオレだって耀くんに甘えたい時あるよ…」
「椎凪が…オレに甘えたいの?」
「うん…いつも言ってるじゃない…早くオレと結婚して一緒に暮らそうって…
あ!そう言えば16歳になったから法律的にはもう何も問題無いんだ!」
「だから…それは無理だってば…」
「無理じゃ…ないのに…」
「…………」
オレは椎凪の胸に凭れ掛かって目を瞑る…
あったかくて気持ちいい椎凪の胸と腕の中……
椎凪は 『 愛してるって言って 』 って言うけどオレは愛してるの意味がわからない…
好きとどう違うんだろう?好きよりも想いが重いのかな?
「ねえ椎凪…」
「ん?」
「愛してるって…どう言う事?」
「愛してるって言うのは…言葉の通り相手の事が 『 愛おしい 』 って事…」
「好きと違う?」
「好きは色んな人にも言えるだろ?耀くんは友達の事も好きだろ?」
「うん…」
「まあ食べ物とかは違うと思うけど…好きは誰にでも通用する言葉…
でも 『 愛してる 』 はとっても特別な言葉なんだよ…」
「特別?」
「耀くんの友達に愛してるは言わないだろ?」
「………うん…言わないかも…」
「だからそこに好きとは違う… 『 愛してる 』 って言葉があるんだよ…
相手の事を特別に…大切に想う気持ち……誰にでも言えない言葉…」
「…椎凪…」
「だから自分の好きな人に…言ってもらえたらとっても嬉しいし癒されるし……満たされる…」
「満たされる?」
「そう…オレは耀くんに満たされたいんだ…耀くんで一杯に…」
「そんな大事な言葉をあんな時に言わせるつもりだったの?」
「普通に言うよりは言い易いと思ったんだけどね…普段じゃ絶対耀くん言ってくれなさそうだから…
訳わかんなくてもオレに抱かれる時に言ってくれるならそれはオレ事好きだからでしょ?」
「………なんか…難しいな…」
「難しくなんて無いよ…簡単な事だよ ♪ オレを好きなら言えるんだから。」
「そう??」
「言えるよ…言ってみて?」
「えっっ??」
「言えるから…」
「 !! 」
椎凪が椎凪の胸にうずめてたオレの顔を両手で挟んで上を向かせて視線を合わせる。
「泣かなくたっていいのに…焦らすつもりは無かったんだけどね…ごめんね…
耀くんが1つ大きくなったからオレ本当に嬉しくて…あと…2年待つけどさ…」
言いながらオレの頬の涙の跡をオレの顔を挟みながら両方の親指で拭い取ってくれた。
「あ…」
「!!……あ…」
「い」 「し」 「て」 「る」
「…い…して……る……」
「そう…愛してる…」
「愛……してる……」
「愛してるよ…耀くん……誰よりも…愛してる…ちゅっ…」
「椎凪………」
椎凪が触れるだけのキスをしてくれたから…
オレはされるがまま…そっと目を瞑って椎凪のキスを受け入れた……
あったかくて…優しい…椎凪のキスだった…
オレはそんな椎凪にずっと抱きついて……昨夜の疲れと…安心したのか…
そのまま椎凪に抱っこされながら少し眠った…
椎凪の心臓の音が トクン トクン って聞えて…心地良かった…
それからは椎凪と祐輔の協力で何とか期末までに猛勉強して赤点は免れた。
ホント…良かった…
でも…また椎凪に…オレの 『 初めての愛してる 』 を奪われた!
そう言ったら椎凪に 『 オレの初めての愛してるも耀くんに奪われたんだからおあいこでしょ! 』
って言われちゃった…