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順番が逆ですが 『 プロローグ 』 の前のお話です。(1年ほどさかのぼってます。)
椎凪 : 耀の高校の美術の教師兼美術部顧問。(耀の事は”ようくん”と呼ぶ)
耀 : 元気×2な女の子。椎凪と同じ高校の今回は1年生。椎凪と交際中。(”オレ”と言う)
「もっちー間に合いそう?」
「うーん…ギリギリ…かも…」
こんちゃんがオレの手の中を覗き込んで心配そうに言う。
オレは間に合わなくて学校持参で休み時間を使ってマフラーを編み続けてる。
もう永遠に出てこなくてもいいと思ってたベッドの下から引っ張り出して…
だって…椎凪にあんな事言われたら…やっぱり手編みをプレゼントかなって…
「だけどもっちーも無謀な事するよね…家庭科音痴のくせに手編みをプレゼントなんてさ。」
「…だって…でも一応既製品の買ってはあるんだ…」
「え?そうなんだ!」
「もしかして間に合わないかもしれないしさ…」
それにあんまりにも変なら渡すのは諦めようと思ってる…
「出来た…」
イブの前日…何とか間に合って完成した。
生まれて初めて自分で編んだ手編みのマフラー…
「って…でもヒドイな……」
見た目は編み目はガチャガチャ…途中怪しげに穴がいくつか空いてるし…
「どうにか上手くごまかせないかな…」
ベッドの上に伸ばして色々弄ったけど直る気配が無い…
「はあ…やっぱり諦めかな…もっと練習してバレンタインか椎凪の誕生日に延期かな…」
オレはがっくりだけど仕方の無い事と諦めた…
「無事冬休みおめでとう ♪ 耀くん!」
「ありがとう。椎凪と祐輔のおかげだよ。」
今日も椎凪の所にお泊り ♪ だってクリスマスイブにクリスマスに冬休みだもん ♪
「はいプレゼント ♪ 」
椎凪がクリスマスケーキの上からオレにプレゼントを渡す。
「なんかこの前誕生日でもうクリスマスなんて椎凪に悪いな…」
「気にしない気にしない ♪ それにオレだってバレンタインのすぐ後に誕生日だからお互い様だよ。」
そう…オレは12月14日でクリスマスが24日…
椎凪はバレンタインが2月14日で誕生日が18日だから…
「わあ ♪ やった ♪ 」
椎凪からのプレゼントは 『 TAKERU 』 の大きめなクッション!
お店で見かけて寝心地抜群の枕にもなって椎凪の部屋で使うために欲しかったんだぁ〜〜 ♪
オレはもう抱きまくって頬っぺスリスリ ♪
「耀くんのリクエストだからね ♪ 」
「でも 『 TAKERU 』 だから高かっただろ?」
名の通ったブランドだもんな…
「大丈夫!耀くんの喜ぶ顔が見れれば金額なんて関係ないから ♪ 」
って本当は 『 TAKERU 』 に知り合いがいてちょっと安く手に入ったから ♪
でも耀くんには内緒!少しは気を使ってくれるかもしれないから。
「はい!オレからのプレゼント!」
「ありがとう ♪ ♪ 嬉しいよ ♪ 」
オレもケーキの上を腕を伸ばして椎凪にプレゼントを渡した。
「……あれ?」
「何?どうしたの?」
椎凪がプレゼントの包みを開けてそんな事を言う…オレは訳がわからなくて…
「あの手編みのマフラーじゃ無いの?」
広げた包みの中には既製品のマフラーが包まれてたはず…
「え゛っっ!?なななな…何で?」
「だってオレの為に編んでくれてたんでしょう?」
「なっ!!」
何で?バレてる!!??
「なっ…何でそう思うの?あ…あれは…家庭科の宿題で…」
「だって家庭科の栗田先生そんな宿題なんて無いって言ってたもん。」
「!!!」
調べてたのかっっ!
「……………」
「耀くん?」
「だって…」
「ん?」
「だってとんでもなく…ヒドイ出来上がりだったんだもん…」
オレは今貰ったばっかりのクッションを抱き抱えながら呟いた。
「それでもオレ欲しいな…
だって耀くんが 『 生まれて初めて 』 自分で編んだ手編みのマフラーでしょ?」
「…そうだけど…ひどすぎるから…」
「ちょうだい ♪ 」
椎凪がニッコリと笑ってオレに手を差し出す。
「………捨てちゃった…」
「ウソ言わない。生まれて初めて編んだのに捨てるはず無いでしょ?
しかもオレの為に編んでたのに ♪ ちょうだい ♪ 」
「……持って来て無い……」
「ウソ言わない!ちょうだい ♪ 」
「……………」
椎凪のニッコリ笑顔と差し出した手は引っ込む気配は無い。
「…………」
オレはガタリとイスから立ち上がって自分のお泊りの為のバックを開けた。
……何で持って来ちゃったんだろう…やっぱり心のどこかで椎凪にもらって欲しかったのかな…
でも…やっぱりヒドイ出来だから…
「やっぱり…あげない…」
「ふぅ…もう耀くんは…」
椎凪がイスから立ち上がってオレの方に歩いて来る。
オレはマフラーの入った紙袋を身体の後ろに隠して後ずさりで逃げた。
「耀くん…オレにちょうだい。」
「や…ダメ…呆れる…」
「そんな事無いから…欲しいんだ…オレはそのマフラーが欲しい。」
「…………」
後ろ向きで逃げて壁にぶつかった。
椎凪は両手を壁に着いてオレを捕まえた。
「耀くん…お願い…」
「ダメ…だもん…!!」
「お願い…」
「ンア…」
耳元で囁かれて息がかかって身体がゾクリとなったから目を瞑っちゃった…
「ちょうだい…ちゅっ…」
頬にキスされた…その後は椎凪に抱きしめられて抱き上げられて…
恋人のするキスをたっぷりされてオレはぼーっとなっちゃった…
だからあっさりとマフラーの入った紙袋を椎凪に取られた。
「ちゃんと出来てるよ ♪ 」
「お世辞でも……嬉しく…ない…」
「あったかい…」
椎凪がオレの目の前でマフラーを巻いてニッコリと嬉しそうに笑う…
「恥ずかしいからしない方がいいよ…そんなの…」
「ううん…嬉しいよ…ありがとう耀くん。」
「…………」
しないは本当に嬉しそうにマフラーに頬ずりしてずっと笑ってた…