naitou&kazumi





「参ったな。」

空を見上げて呟いた。
ザアザアと言う音が似合う程大粒の雨が降ってる。
ほんの5分前まではドンヨリと曇ってただけだったのに…雲が蓄積量の 限界を越えたのか?

「深田大丈夫か?」

聞き込みの途中で降られた。
車まで間に合わずとりあえず近場の軒下に避難した。
それでもかなり濡れた。

「はい…」

そうは言っても雨に濡れた服はしっかり身体の線が浮き上がってる。
俯いてる髪からは雫がポタリポタリと垂れる。

「大丈夫じゃないだろ。」

「!!」

着ていたジャケットを素早く脱いで深田の肩に掛けた。

「あ…大丈夫です…内藤さんこそびしょ濡れじゃないですか!風邪ひいちゃいます!」

慌てて 掛けられたジャケットを脱ごうとした。

「濡れてて暖かいかわからんけど少しは違うだろ。着とけ。
オレは男で年上で先輩だぞ?それに風邪でもひかれたら
オレが新城君に殺される。」
「そんな事無いですよ!」

あらま!赤くなっちゃって。

「とにかく着とけ。すぐ小降りになるだろ。そしたら車取ってくる。」
「はい…」

通り雨だとふんでそう言ったんだが…
それから20分しても雨の勢いは衰える気配が無い。
マズイ…背筋に悪寒が走り出した…身震いしそうに なるのを必死に堪えた。
今更寒いなんて口が裂けても言えない。仕方ない…

「こりやダメだな。待ってろ車取ってくる。」
「あ…!私も行きます…」
「いいから待ってろ。」

言いながら土砂降りの雨の中に飛び出した。


車に着いた時はもう全身ずぶ濡れ…
ジャケットも深田に貸したからワイシャツなんて無いの と同じだ。
洗ったのを着てるみたいに身体にペッタリと張り付いてる。
髪の毛からも雫がポタポタと垂れる。

「寒みい…」

やっと言えた…



「入れ。」

あまりにもびしょ濡れで着替えにオレの部屋に寄った。

「すみません…おじゃまします。」

とりあえず暖かい飲み物が欲しくてヤカンを火にかけた。
お湯が沸く 間に深田にタオルと自分のワイシャツを渡す。

「流石にシャワーは無理だからな。良く拭けよ。奥の部屋使え。」
「はい…スイマセン。」

深田がタオルと着替え をもって奥の部屋に入って行った。

考えてみたら深田が此処に来たのって初めてだったか。

「ヘックシュ!!」

マズイ…自分の方がヤバかった。



「え?内藤さん休みですか?」

次の日出動すると内藤さんが休みと知らされた。

「もしかして風邪ですか?」
「んー…そうみたいだよ。本人は私用なんて言って たけど…あの声の感じじゃね…」
椎凪さんが教えてくれた。

私のせいだ…昨日の雨で濡れたから…


「……ハァ…38度か…医師の薬効かないのか…」

ベッドに潜り込んだまま俯せで体温計を見つめて呟いた。
ヤバイ…明日までに下がるのか?
そんな不安を感じつつ重たい瞼を閉じてため息を吐いた。

まさか熱が 出るとは思わなかった…無理して出動出来るの状態じゃなかったし…

椎凪君には私用と言ったがウソはバレバレか?椎凪君が電話に出るとは計算外だった。
勘の良い 彼の事だ深読みして深田に余計な事言ってなきゃいいが…

布団に包まって深いため息が出た。
気付くと少し眠ったらしい頭が更にボーとした。


ピンポーン ♪

チャイムが鳴った…でも出るつもりは無い。シカトした。

ピンポーン ♪

もう一度鳴った。だから出ないって…早く帰れ…

「内藤さん深田です。」

遠慮がち にドアを叩きながら聞き慣れた声がした。



「私のせいですよね…本当にすみませんでした。」

深々と頭を下げられた…

「深田のせいじゃないから…頭上げろ…」

ダイニングキッチンのテーブルで向かい合って座ってる…深田は来た時から謝ってばかりだ…

「逆に心配かけて悪かったな…」

熱のせいで瞳が潤んで視界が霞む…
分厚いカーディガンを着込んでボーとなってる俺は子供みたいな顔してるんじゃないか?

「お詫びに今日は看病しに来ましたのでゆっくり休んでください。」

「!?」

今…なんて言った?熱のせいでついに幻聴か?

「大丈夫ですか?熱高いんじゃないですか?」

覗き込まれてハッと我に返った。

「いや…あー新城君…この事 知ってるのか?」
「いえ。そんな内藤さんの看病するくらい祐輔さんの許可もらわなくても大丈夫ですから。」

これまたニッコリと笑ったなぁ…オレの看病くらい…か… 思わずため息…

「辛いですか?」

また覗き込まれた。

「いや…有り難いなと思ってな…」

とりあえずお言葉に甘えとく事にした。



深田が流しの前に 立ってオレの夕飯の支度をしてくれてる…
オレはベッドで待ってるよりずっと深田の姿を見ていたかったから怒られたが椅子に座ってた。
確かに多少辛いが変な 安心感が漂う…深田と同じ空間に居るだけで身体と精神が癒される…

これはオレに限っての事じゃない…個人差はあるがほとんどの奴らがみんなそうだ。
犯人も 例外じゃない。
興奮しきって反抗しまくってる奴でさえ深田が傍に来た途端落ち着いて大人しくなる。
本人は意識していなくて分かっていないらしいが。
そこが 深田らしいと言えば深田らしいんだが…だからオレはじっと大人しく椅子に座ってる。

ほら…気持ち良くて楽になって来た…


「……さん…」

…ん?…

「内藤…さん…」

…あれ?…

「内藤さん大丈夫ですか?」
「深田…?」

いや…深田がこんな所にいるはず無いよな…ああ…夢か?…あー熱あるからなぁ…

「やっぱりベッドで寝た方が…あ…」

夢だから深田を抱きしめてみた。
前からしてみたかったからか…どうしてだかわからなかったが…気持ち良さそうだったからか…

「ああ…やっぱ和む…」

傍に居るだけで癒されるから抱きしめたらもっと癒された…
だから…抱いたらどんなに癒されるんだろうか…

なんていつもは 考えない事を考えた。
熱のせいと言う事にしとこう…

あー新城君は知ってるんだった…ちょっと羨ましい…

「もー無理しないで下さい。」

「…ン?」

抱きしめた深田の身体が段々現実味を帯びてくる…
あれ?そう言えば本物だった…やっと理解した。
深田の肩に顎を乗せながら今更慌てるのも余計バツが悪いかな… なんて思った。

「熱あるんですから。少し眠って下さい。」

かなり近い位置で視線が合った。
自分ではしっかりとしてたつもりだったが実際は違ったらしい…

こんなに密着しても抱き着いても警戒される事も無く逆に心配されるなんて普段のオレの賜物か…

オレは深田が好きなのか?それはオレにも分からない…
妹みたい な感覚だとは思う。
妹が欲しかったのか?オレは…更に分からない。

次に深田に起こされるまでオレはぐっすりと眠った。
目が覚めると熱が大分下がってて 嬉しそうに微笑む深田を眺めながら
時間差で利いた医者の薬に感謝しつつ新たに発覚した『シスコン』疑惑が
胸の片隅にある事に気が付いた。
とりあえずそれには 目を瞑っておく事にしよう…

オレの為に作ってくれた卵入りの味噌味雑炊の匂いが漂って
熱の下がった身体に食欲をそそる。


深田の笑顔付きの手料理だ… オレは大満足で頂く事にした。