hanjyuu shiina





「え?何だコレ……?」
朝洗面所の鏡に映った自分を見てそう呟いた。

「何だコレェーーー!?」

思わず叫んでしまった…だって…だって…
オレの頭に動物の耳がぴょこんと 生えていたっっ!!

「うーー…」
「へぇ…」
「ふーん…」
「ほう…」
慎二君の部屋に皆集まってる…
「朝起きたらこんなんなってた…」
オレはしょんぼりと話した…だってスゲーショック!!
「ふっ!」
「んなぁっっ!!!」
いきなり慎二君がオレの頭の耳に息を吹き掛けた!
「ちょっと! 何すんの?慎二君!!」
オレは頭の両耳を押さえて喚いた…だって…スゲーゾクゾクすんだもん!
「え?そんなに感じました?神経は通ってるみたいですね。」
「ヤル前に一言言ってよ!!焦った…」
「わっ!!」
「ウギャ!!」
今度は祐輔が頭の耳を引っ張って大きな声を出した。
「へーちゃんと聞こえんだな?」
「祐輔ぇーー!!耳痛い!!スゲー響いた!!」
愉しそうに笑ってる…ワザとだろ…祐輔…くそぉ…
「耀く〜ん…みんながイジメるうーーぐずっ」
オレはイジケ て耀くんに抱き着いた。
「椎凪…」
耀くんはギュッとオレを抱きしめてくれた。
「もー二人共椎凪イジメないで!!真面目に考えてよ。」
そうだ!もっと 怒ってよ!耀くん!!
「エロいからそんな目に遭うんだろ?エロ過ぎるんだよテメェは!」
何だ?その呆れた顔は??
「違うよ!何それ?どんな理由?」
「それは否定出来ない…のがなんとも…」
耀くんが俯き加減でそっと呟いた…
「耀くん!!そんなワケあるはずないでしょ!!」
「違うよ。祐輔!」
今度は 慎二君が言い出した。
「どう見たって普段の行いが悪いからに決まってるじゃないか。相当悪どい事してるんだよ。きっと!」
「してないからっ!!」
クソッ! 何て事言い出すんだか…
「違うよ。慎二君!」
今度は右京君が言い出した。
「呪われてるからだろう?きっと今まで泣かせてきた女性の生き霊の成せる技だと 僕は思うよ。」
真剣な顔でふざけた事言ってんじゃねーよ…ド突くぞっ!!
「あ!なるほど!」
「嘘つくなよ!!慎二君も納得しないっ!それに右京君が言うと シャレになんないからっ!」
霊感ビシバシ感度良好男なんだからさっ!!
(あんまりにも見え過ぎて下級なモノは見ない事にしている。
昔は気付けば消滅させて たが面どいので今は止めてる。)
「シャレのつもりはないが?」
至って真面目にかえされた…余計始末に悪いだろっ!
「耀これで分かっただろ?コイツがどんな 男か…エロくて素行が悪くて呪われてんだぞ…良く考えろ。
1日でも早く別れちゃえこんな奴!!」
「えー……」
「ちょっと祐輔!適当な事言わないっ!!耀くんも 信じちゃダメだからっ!!」
まったく…油断も隙もあったもんじゃない…
右京君の主治医に診て貰ったけど…案の定原因は不明。
とりあえず生活には不自由して ないから普段通りに生活したらと言う事になった。
「でも気をつけて下さいね。世間に知れたらひと騒動ですよ。」
「うん…」
「マスコミで騒がれて下手したら 科学者にモルモットにされますよ。」
「やだな…脅かさないでよ…」
「有り得ねー話しじゃねーだろ?十分気を付けんだな。」
祐輔までが真面目な顔で言う… 心配してくれるの…
「…てかマスコミに売ったら良い金になんのか?」
祐輔が慎二君に向かってこれまた真面目な顔で言う。
「何だよ!!オレの事売るつもり かよっ!!」
薄情な奴等め…

「ひゃあ!!何?コレ?」
「耳だよ…」
「見りゃわかるわよ。何でこんなの生えてるの?」
「知らないよ!朝起きたら こうなってたんだから…」
「あんたスケベだからねー…」
「理由になんねーだろっ!ソレ!」
祐輔と同じ事言いやがって…

警察の刑事課…仕事上知っ ててもらった方が都合が良いからと思って
話してる最中と言うワケなんだが…
思ってた通りルイさんが思いの外食い付いて来た。

「こっちの耳は?聞こえんの?」
人の方の耳を摘んで聞いて来た。
「どっちかつーとこっちの方の耳が聞こえるかな?」
生えて来た動物の耳を指指した。
「だからコレ被るとあんま聞こえないん だよね…」
耳を隠す為に被って来たニットキャップを見せた。
「これって猫の耳?それとも犬?」
猫派の内藤さんが興味津々な眼差しで聞いて来た…珍しい…
「さあ…」
「尻尾は?尻尾ないの?」
「嬉しそうに言うなよっ!無いよ!」
言いながら確かめ様とオレのシャツとズボンをめくるルイさんを制止した。
セク ハラだろ!てかキスの方がセクハラか?
「痛いとか無いんですか?」
心配そうに深田さんがオレの顔を覗き込む。
「うん。違和感とかもないんだ…ありがとう。」
心配してくれるのは耀くんと深田さんだけだよ…
「………」
少し後ろでさっきから堂本君が顔面蒼白で立ってる。
「堂本君…人を化け物見るみたいな目で見ない でよ。」
「あっ…!!イヤ…そんな…」
「何?愛する椎凪先輩がこんなになっちゃってショック?」
ルイさんがニヤニヤしながら堂本君を覗き込んだ。
「え?」
「なっ…!!何言ってるんですか?そんなワケ無いじゃないですか!」
慌てまくってる。何なんだ?
「まぁいいけどね…」
意味ありげにルイさんが 笑った。
「いや…不思議な事もあるもんだなぁって…」

不思議で済めば良いんだけどね…オレは深いため息を吐いた…

「………」
「……!!」
「……!!!!」
 ド バ キ ャ !! 
「 イッテーー!!!」

いきなり頭を殴られた!
「何?いきなり何すんだよ!」
ルイさんがすぐ後ろに 仁王立ちで立っていた。
「さっきから呼んでんでしょう?シカトすんじゃないわよ!」
「え?呼んでた?わかんなかった…
だからコレ被ると聞こえ難いって言った だろ?加減してよ…ルイさん…」
思いっきり殴りやがって…
「面倒臭いわね…取っちゃいなさいよそんなの!!」
「取れるワケないだろ!」
「今時動物の耳 なんて流行りじゃない。」
「オレが付けてたら変だろ?
真昼間から堂々と付けてる奴なんていないよ!しかもオレ一人でなんてさ!」
「誰も見ちゃいないって!」
「そんなのわかんないだろ?ヤダ!」
「まったく…言う事聞きなさいよ!」
「ヤダ!」
「椎凪!!」
「来んな!来んじゃねーっっ!!」
ジリジリと 後ろに下がる…
ルイさんがニンマリ笑って近づいて来るからだ。
「あたしに逆らうの?椎凪…」
凄い上から目線じゃねーか…
「当たり前だろ…」
どんな言う事聞けってんだよ…聞けるかっ!!
「へぇ……」
背中見せたら絶対後ろから取られる…
クソッ!こんな所に敵がいたなんて…しかも結構手強い…
それからしばらくルイさんとの攻防戦が続いた。

「大丈夫?椎凪…なんか疲れてる?」
やっとの思いで家までたどり着いた…
耳が聞こえ無い分身体中に 神経を張り巡らせてたから疲れた…それにいらん労力も使わされたし…
やっと帽子が脱げる…ソファに深く座って背もたれにもたれ掛かかった。
本当に付いてんだ よな…見えないけど目線だけ頭を見た。
「ある…」
触ったら触れた…本当…どうなっちゃうんだ…オレ…また深いため息が出た。

「椎凪…」
耀くんが首に腕を廻してオレと向かい合う姿勢で膝の上に座った。
「ん…」
そして優しくキスしてくれた。
オレはそのまま耀くんを離さずに腰に腕を廻して 今度はオレからキスをした。
「ん…ん…」
お互いいつまでも相手を放さずにキスをしてた…
「椎凪がどんな姿になってもオレ…椎凪の事好きだよ…」
お互いおでこを付けたまま見つめ合った。
「耀くん…」
「椎凪の事ずっと愛してるから…」
目に涙を一杯溜めてる…
「ありがとう。耀くん…ごめんね… 心配かけて…」
オレは耀くんをギュツと抱きしめた…耀くんはオレにしがみついてしばらく泣いていた…

「 う そ … 」
次の日…最悪な事に尻尾が生えていた…

「……何て言ったら良いんだか…」
オレを見て亨が言葉を無くす…
「今朝尻尾まで生えててさ…」
ズボンを少しずらして尻尾を見せた。
「耀くんにこれ以上心配かけられないし…だから祐輔達には言わない方が良いかなぁ…って…」
「僕は初耳だけどねぇ?」
あ!拗ねたか?
「この尻尾からすると猫か?」
亨が尻尾を掴んで聞いて来た。
「んーかな?……はうっ!!」
身体が勝手にビクンとなった!何だ?
「…!?」
恐る恐る振り向くと亨が尻尾を甘噛みしてやがるっ!!
「と…亨!?何してるっ?」
「だってこんな事滅多に無いじゃないか…感じるんだ…へぇ…」
ニヤリと笑ってる…ウソだろ…

「……ン…あ…ちょっと…亨…やめっ…」
後ろから抱きかかえられて生えた耳に亨の舌が這う…
尻尾は軽く握られて指で優しく 撫で上げられてる…
それだけでもたまんないのに…空いてる片手はオレの身体を好き勝手に這い廻ってる…
「本…当…お前…変態…だ…人が…困ってんのに… こ…こんな事…あ…」
ヤベー…立ってらんねー…
「感じ易いのは変わらないんだね…いや…いつもより敏感か?」
「クソッ…来んじゃ…なかった…」
後悔したけど後の祭りだ…
散々遊ばれて結局何の解決にもならず…オレって一体……
落ち込んだだけじゃねーか…

このまま…猫になっちゃうのか…オレ…

椎凪の様子がおかしい…確かに困ってはいたけどこんなに落ち込んではいなかった…
決め手はベッドに入った椎凪がズボンを履いてたって事…
「椎凪…オレに何か 隠してる?」
「えっ!?なっ…なっ…何言ってんの?耀くん…やだなぁ…」
「だっておかしいもん。ズボン脱いで!椎凪。」
「へ?」
ものすごく焦ってる。 バレバレ…
「ず…随分積極的…耀くん…」
「いいから。早く!」
「きょ…今日は…止めとくよ…こんなだし…万が一耀くんまでこんな風になったら大変だし…」
「オレは平気だよ!ううん…オレは椎凪と同じになりたい…二人なら椎凪淋しくないだろ?」
「耀くん…」
「どうやったら…椎凪と同じになれるんだろ…どうやったら 耳…生えてくるの…?うっ…」
耀くんが零れる涙を拭いながら呟いた…
「耀くん…」
オレは何も言ってあげられなくて…ジッと耀くんを見つめてた…
「ごめん…椎凪ごめんね…オレ…何もしてあげられなくて…」
ポロポロと涙が耀くんの頬を伝って落ちた…

その日は…耀くんがオレを抱いてくれた…

「椎凪…尻尾…」
耀くんがビックリしたようにオレを見た。
「黙っててごめんね…」
オレは苦笑いで誤魔化した。
「オレが心配するから黙ってたの?」
「…うん…」
「………」
耀くんが黙って見つめてる…
「チユッ」
耀くんがオレの尻尾を優しく持ち上げてキスしてくれた。
「柔らかい…気持ちいい」
そう言って頬ずりするとニッコリと笑った。

この身体だからなのか…耀くんが抱いてくれたからか…
いつもより感じて…気持ちが良くて…幸せな気分だった…

頭を…撫でられてる…そう感じてうっすらと目を開けると
耀くんがニッコリとオレを見下ろして頭を撫でてくれてる…
ああ…オレ…ついに猫になっちゃったのか…
耀くんの膝の感触を堪能しながらほお擦りをした。
「ニャア……」
「クスッ…どうしたの?椎凪…」
オレはソファで耀くんに膝枕をしてもらって寝てたんだった…
「んー…猫になった夢見た…」
「椎凪が猫?何でまた…」
「さあ…わかんないけど…みんなオレの事からかってイジメてさ…
心配してくれたの深田さんと…泣いて くれたの…耀くんだけだったよ。」
「オレまた泣いたの?」
「うん…オレのためにいっぱい泣いてくれたよ…オレ嬉しかった…」
目を瞑ったまま耀くんに更に 抱き付いた。
「そっか…見てみたかったな…猫になった椎凪…」
「耳と尻尾が生えちゃったんだ。」

「耳と尻尾?」

耀くんが怪訝な声を出した…何だ?
「み…耳と尻尾って…コレ…?」
「え?……ええっ?!」

紛れも無いあの夢で見た同じ耳と尻尾が生えてるーーーなんで!?

「 ぎやああああああ!!!! 」

「椎凪?」
耀くんが心配そうにオレを覗き込んでる…
「はぁ…はぁ…え?…」
「どうしたの?大丈夫?椎凪…」
慌てて頭とお尻を確かめた…
触れる感触は無い…無い!無いよな!!生えてないよな??
良かったー…ビックリした…
「耀く〜ん…」
オレは耀くんの腰にしがみ付いて顔をうずめた…
「怖い夢見たの?」
心配そうに耀くんが声を掛けてくれる。
「うん…ちょっと…」
オレは言葉を濁した…またここで説明するとさっきの二の舞になりそうで…

      マジ怖くて言えなかった…