yoshihiko&tooru03





 街中で突然名前を呼ばれた…

 「慶彦!」
 「 !? 」
 うげっ!聞き覚えのある…この声は…
 「そんな年増女相手に何してんの? 精気吸い取られちゃうよ。」
 相手の女に容赦ない言葉をこれまた露骨に軽蔑にも似た物言いで言い切る…

 振り向くとオレが最も会いたくない男… 亨が立っていた…

 「もー何で邪魔すんだよ…年増じゃねーよ…21って言ってたぞ…」
 亨に散々嫌味を言われさっきの彼女は サッサと帰っていった…
 「何であんな女相手にしてんの?見た目が25はいってるよ!」
 「声掛けたらヤラせてくれるって言ったから。」
 正直に本当の事を言った。
 駅前で目が合ってニッコリオレが微笑むと相手もニッコリと笑って近付いて来た。
 『今だけオレと遊んでくれる?』と お願いしてみたら『喜んで。』となった訳で…
 まさか10分後に別れる事になるとは思わなかったけどね…今日はきっと厄日だ…
 「僕はそんな風に君を躾けた 覚えはないよっ!…にしても相手を選びなよ。」
 どこかに電話を掛けながら不満そうに言う。
 「躾けられた記憶も無いよ!」
 あれは『躾け』じゃない… 脅しだったろ?女なんか相手にすんなって…
 オレの身体に教え込もうとしたクセに…
 思い出しても良く無事に済んだと我ながら感心した。
 辛い記憶だ…オレの胸の 深い深い底の底に仕舞いこむ。
 「あ!東先生ですか?お久しぶりです。真鍋です。」
 なにっ!?コイツ何処に電話掛けてやがる?嫌な予感がした…
 「はい…今日慶彦僕の所に泊まっていきますので…はい。宜しくお願いします。はい…では。」
 「 !?…おいっ!!勝手に決めんなっ!!」
 中学からの事だから施設の先生もコイツの事は信用しきってる。
 だからって…いっつも勝手に決めやがって…
 「何?僕に逆らうの?少し位背が伸びたからって いい気になるんじゃないよ…慶彦。
 僕よりチビのくせにっ!」
 携帯を閉めながら畳み掛けるように威圧する目でオレを見た。
 「べっ…別にいい気になんかなって ないだろ…それに身長なんて関係無いだろうが…」
 思わず後ずさりする…情けない…
 「ふーん…反抗期?まぁいいけどね。反抗期が無いと大変だし…」
 ワザとらしくそんな事を言ってオレにジリジリと迫って来る…
 背中に店の壁が当たった…
 追い詰められたオレの後ろの壁に亨が右手を思いっきり叩き付けた。
 「 うっ!な…何だよ…」
 思わずビクッ!!っとなった…同時にいきなりオレの左のズボンのポケットに
 亨が手を入れて来たっ!!
 「 ちょっ…亨っ!! 何すんだよ!!バッ…カ…」
 亨の奴平然としてやがるっ!!
 「ばっ…場所考え…ろっっ!!」
 オレは亨の手首を押さえ込んだ!冗談じゃない! こんな所で悪戯されてたまるか!!
 「何欲情してんの慶彦?」
 差し出された亨の手にはオレのポケットから抜き取ったタバコが握られていた。
 「あ…」
 やべっ…
 「ふーん…いつの間に…?」
 スゲー不満そうにタバコを見つめてる…
 「生意気っ!!お仕置きだね慶彦。高一なんて早すぎっ!!」
 そう言ってグシャっとタバコを握り潰した。
 「ああっ…オレのタバコがっっ!!もぉーっ!?何すんだよっ!!亨!!」
 喚いたけど横目で一瞥されて黙らされた…

 ここは亨が勤めている駅前の中学生対象の有名な進学塾だ。亨はここの人気NO1の講師。
 オレにはこの変態が人気があるなんて信じられないっ!!皆亨の本性を 知らないからだっ!

 誰も使っていない教室で亨と2人っきり…最悪のムードが漂ってる…
 「 バシッ!! 」
 「 いってっっ…!! 」
 「そこっ!文法が違うっ!」
 メガネを右手の人差し指と中指で直しながら進学塾の講師の顔でオレに言う…本領発揮と言う所だ…
 「いちいち叩くなよっ!! 口で言えっ!!いてーなっ!!」
 ハリセンを自分の手でバシバシ叩いている亨に向かって左手の甲をさすりながら文句を言ってやった。
 オレ専用のハリセンだそうで… どっから手に入れたのか…余計なモン手に入れやがって…
 この変態野郎…
 「まったく…勝手にあんな高校に入って…今からでも他の高校編入しなよ。」
 オレの顎をハリセンの端で持ち上げて命令する…イヤでも目が合った。
 「嫌だねっ!!いいのっ!今の所でっ!!」
 「あんなに勉強させたのに…君って子は… 僕のプライドガタガタだよっ!」
 「あー無理矢理鎖で繋いでなっっ!!」
 ムカつきながら言ってやった。
 思い出しても腹が立つ!受験勉強と称し強引に亨の 部屋に連れ込まれ…
 また例の首輪で繋がれて無理矢理勉強させられた…くそっ!!
 「まだ僕の気収まってないんだからねっ!!もっとレベルの高い高校行けたのにっっ!」
 オレ以上にムカつきながら持っているハリセンをさっきより強くバシバシ叩きながら亨が言う。
 だから会いたく無かったんだよー…もーうんざりだ…
 「だから今の所で学年トップで卒業するんだよっ!慶っ!!あんなレベルの所…
 3年間三位以下に下がったら…」
 目つきが変わる…

 「僕の観賞用にハダカで ベッドに鎖で繋いであげる…僕の気分で慶の事いつでも抱く。わかった?」

 持っているハリセンでまたオレの顔を持ち上げてオレを睨む…睨むな…!
 「それって 犯罪だろーがっ!!お前が言うとマジに感じてこえーんだよっ…」
 「本気に決まってるだろ?バレなきゃ罪にならないよ。本当だからね…」
 目がマジだよ… 変なスイッチ入れてんじゃねーよっ!!
 「ほらっ!早く終わらせてよ。一緒にシャワー浴びるんだから。」
 当然と言いたげな態度と言い方だ…
 「 誰が浴びるかっっ!! 」

 まったくもー…こいつ…狂ってるよー…誰か…オレを助けてくれ…
 誰にも聞き届けて貰えないと分かっていても願わずには いられなかった…

 亨がオレの手を握りながら言う…
 「頑張るね…慶彦…お子ちゃまなのに。」

 怪我の治療と9日間泊めてもらった代償をオレの 身体で払えと亨が言った…
 オレが何て言おうと結果は同じだったから…だったら無理矢理じゃなくて自分の意思で決めて…
 でも散々相手をさせられている…中学2年の時だ…
 「そう…思うなら…少し休ませろ…」
 「だめだよ…いいかい?慶彦…好きな相手を抱く時はね…思いっきり自分が満足するまで抱くんだよ…
 明日もし自分が死んだとしても決して後悔しない様に…」
 オレにキスをしながら話し続ける…
 「そしてキスはね…好きな人とするのはとても気持ちがいい…
 いつもキスして…お互いを確かめ合って…お互いの愛をわけ合うんだ…」

 明け方に目が覚めた…ああ…夢か…懐かしい夢を見た…
 寝返ると慶彦が 眠っていた…
 あーそうか…夕べ泊まったんだっけ…だからあんな夢みたのか…

 あれから2年…慶彦を抱いたのはあの時だけ…
 だって…次また慶彦を 抱いたら…もう僕の前に現れないと思ったから…
 慶彦は僕とのそう言う関係を望んではいない…でも…それ以外なら好きにさせてくれる…
 キスも抱きしめる事も… こうやって泊りにも来てくれる…
 僕は慶彦が可愛い…これは恋か?それとも親心?まぁどっちでもいいか…
 あーでも僕の方が慶彦に夢中なんだよな…
 こんなに好きになる相手が現れるなんて思ってもみなかったよ…一目惚れって凄いもんだ。
 でも…いつか…慶彦に好きな人が出来たら…僕は素直に慶彦を手放す事が 出来るのだろうか…
 その時は相手の女…絶対イジメてやるっ!!それは昔から決めてる事…
 決意を新たに決めて慶彦にしっかりと抱き付いてまた眠りについた。

 目が覚めると亨がオレにしっかりとしがみ付いていた。
 まあ色々言うけどあの日以来亨はオレに手を出さない…
 一緒に寝たりするけどそれだけだ…キスはされるけど…
 でも…亨の前なら…オレは『オレ』でいられるから…
 しがみ付いてる亨の身体の感触…服を通しても暖かい温もりを感じる…
 あの時…無我夢中で抱きついた亨の身体はガッシリしてて大きくて…気持ち良かった…
 なんて亨に言ったら涙流して喜ぶだろうから口が裂けても言わないけど…
 何だかホッとしたのも事実なんだよな…あー…ヤダヤダ…変な事思い出しちゃったよ…

 ベッドから起きようとして亨を起こしたらしい…
 「んー早いね…慶…ねむっ…」
 「オレいい子だから。」
 「コーヒー淹れといて…」
 「ああ」
 そのまままた亨がベッドに潜り込む…確か亨って朝苦手なんだよな…
 丁度コーヒーが淹った頃亨が起きて来た…
 「ふあ…」
 「んー」
 欠伸をしてる亨にコーヒーを渡す。
 「ありがと。」
 「ん…」
 そのまま椅子に座ろうとすると…
 「慶!」
 亨が怒ったように呼び止める。
 「ん?ああっ…」
 そうだった…忘れてた…
 「おはよ…亨…」
 そう言ってオレから亨にキスをする。
 「おはよ…慶彦。朝はおはようのキス! 出かける前は行って来ますのキス!
 帰って来たらただいまのキス!寝る前はおやすみのキス!」
 「はいはい…」
 まったく…何度聞いた事か… こんな亨でも何故か挨拶のキスは煩い…
 知り合った頃からこうだった…外国育ちじゃ無かったはずだが?
 『オレ限定』だとはオレは全く知らなかったんだけどね…

 「亨さ…そんなんなのに何で恋人いないの?恋人いたらスゲーラブラブなんじゃねーの?」
 オレにする亨のベタベタぶりでそう思ったんだけど…
 「え?恋人?いらないよ。」
 アッサリ却下された。
 「面倒くさいし…多分いないだろーな…僕について来れる人…
 僕自己中だしイジワルだし泣かしちゃう よ…きっと…」
 遠くを見つめながら話す…
 「それに僕には慶彦いるから。」
 振り向いてオレに向かって満面の笑みでそう言った!
 「それ!間違ってるからっ!!」
 速攻訂正してやった!指まで指して!その脳みそに刻んどけっ!!

 「あー…慶と一緒に暮らしたいなぁ。 本当慶って頑固!そんなに僕と一緒嫌なの?」
 「身が持たん!」
 素っ気なく即答した。
 「よく言うよ…上手くかわしてるくせに…」
 「そう?やだよ… だってお前に強気に出られたら…オレ抵抗できないじゃねーか…
 あーやだやだ…何でそーなっちゃたのかねー…」
 軽く溜息をつく…ほんとオレは亨に勝てない…
 実力行使に出ても多分本気になれずに負けるのが目に見えてる…
 「僕が初めての相手だからさ…僕が初めて慶彦を愛した男だから…」
 目を伏せながら優しく亨が 囁いた…嬉しそうだ…
 「………」
 オレは黙って亨を見つめてた…

 そーなんだよな…オレ人に好きになられたのって亨が初めてなんだよな…
 そりゃあ亨の事嫌いじゃない…どっちかって言えば好きだ…
 でも…やっぱ恋人には思えない…何でだろ?
 「なあ…」
 「ん?」
 「オレと亨の関係って… 一体なに?」
 いつも思ってた事だ…
 「家族だよ…」
 「家族?」
 「そう…僕は慶彦にとって親であり兄でもあるんだ…恋人は必要としていない みたいだけどね…
 恋人は僕じゃない…残念だけど…」
 一呼吸置いて亨が切り出した。
 「何でタバコ吸い始めたの?フラれたの?」
 「えっ?」

 しばらく沈黙が続いた…何故か昔からオレの考えてる事が亨にはわかるらしい…
 「……オレの想いは…重すぎるんだって…重くて… 受け止めきれないって…疲れるって言われたよ…
 何でだろ?オレ普通に付き合ってたのにさ…」
 その時の事を思い出して気分が沈む…
 「けっこーショックだったんだ…やっと愛せる人が出来たと思ったのに…」
 オレはきっとシュンとなってたに違いない…小さな子供みたいに…俯いてた…
 「慶はさ…一途過ぎるんだよね…」
 飲んでたコーヒーをテーブルに置きながら亨がフッと微笑んだ。
 「出逢っていきなり愛してるになっちゃうんだろ?
 で…その勢いで抱きまくって迫りまくって…相手に同じ事を求めるんだ…そりゃ重いよ…」
 「そうかな……そっか…」

 亨に言われるまで気付かなかった… オレって…求めすぎなのか…

 何だか自分の事が少し理解できてホンの少しだけ気分が軽くなった気がした…
 オレにとって亨は確かに苦手な男だ… でも…『オレ』を知ってる唯一人の人間…


         オレが心を開ける…唯一人の人間…なんだよな……