yuusuke&shinji+ukyou





「では…失礼致します…」

優雅に頭を下げて和服の似合うその女性は静かに部屋から出て行った…
僕はとりあえずニッコリと微笑んで彼女をその場から見送った…

「…ふー…」
無意識に小さな溜息が出た…
「とっても慣れてる人だったね…」
誰もいない部屋の隅に向かって声を掛ける…
「さようで御座いますか…」
何処にいたのか…その声を掛けた場所から一人の男が紅茶を持って現れた…
「なんか…飽きてきたな…」
紅茶を口に運びながら僕は呟いた。

15の時に… 家のしきたりで初めて女性を抱いた…
それから退屈しのぎに月に何度か色々な女性を相手にしていた…

「あ!佐久間。お前男の子相手にした事あるかい?」
「いえっ…私くしは…」
突然聞かれて驚いた様だった…
「男の子って…どんな感じなんだろうね…ふふ…」
悪戯っぽく笑う…
「右京様…」

珍しく…興味をそそられた…

僕は『草g 右京』 草g家55代当主。
今まで何不自由なく生きてきて…当主として恥ずかしくない生活を送って来たと思っている。
でも…いつも変わらない生活で少々退屈していた事は間違いなかった…
いつものつまらないパーティ…主催者も顔は知ってるけど…だからって別に係わりたいと思わない…
でも…早くに両親を亡くして10歳で当主となった僕はこんな事も当主としての仕事の一つと思って
諦めている…
そんな会場を見回すと…こんなパーティには珍しい… 少年が目に入った…僕と目が合う…

「 …君…名前は?」
「橘…橘 慎二です…」
「いくつ?」
「15です…」
「…そう……じゃあね…」
僕はそれだけ話すとニッコリと微笑んでその場から離れた。

突然声を掛けられた…しかも名前と歳だけ聞いてすぐその人は僕の傍から離れた…
背が高くて…髪が長くて…瞳が…とても印象的な…人だったな…
そう…あの人は…写真で見た事がある…
草g家の当主で…確か…草g右京さん…

あのパーティから3日後…僕の通う高校の前に車が止まっていた。
黒塗りの高級外車…僕が正門から出ると…静かに窓ガラスが下りて中にはこの前の…
草g右京さんが 僕に向かってニッコリと微笑んでいた…
「え…?僕…?」
僕の事…待ってたの?何で?
僕は信じられなくてしばらくその場に立ち尽くしていた…
他の生徒が気にしつつも僕の横を通り過ぎていく…
「やあ…僕の事憶えているかい?」
「は…い…」
「ちょっといいかな?君と話がしたいんだ…ちゃんと帰りは 送っていくから…どうだい?」
優しく…微笑んで…何だろ…断れなかった…
しばらく走って大きな屋敷に着いた…
「ここは…」
「僕の屋敷だよ。そんな緊張 しなくていいよ。」
屋敷の中に入ると一人だけ奥に通された…応接間…でもとても広くて大きな椅子を囲む様に他の椅子と
テーブルが置かれてる。
何個かのドアの 一つが開いて右京さんが入って来た…後ろからお茶を載せたワゴンを押してメイドの人
が続く。僕はお茶を勧められたけど…お礼だけしてその場に立ち続けていた。
右京さんはゆったりと中央の大きな椅子に座って…
その途端何とも言い様の無い威圧感が漂い始めた…

「急に連れて来て悪かったね…慎二君。」
「いえ…」
名前…憶えててくれたんだ…
「実は君に頼みたい事があって来てもらったんだよ。単刀直入に聞くけど君は女性経験はあるかい?」
本当に単刀直入だ…
「いえ… ありません…」
正直に答えた。
「ふふ…動じないね…いいな…」
僕を見つめてそう言った。
「僕はね当然の事ながらあるよ。それこそ色々な職業の人…恋人の いる人…夫のいる人…未亡人…
流石に子供には興味無いけど…そこで最近思ったんだ…男の子って…どんなんだろうって…」
「 !! 」
その言葉に一瞬ピクリ と反応した…連れて来られた意味を理解したから…
「流石に動揺した?理解したんだね…今…」
じっと…あの瞳で見つめられてる…
「ただの興味の延長だけど… 男の子ってどんなんだろうって…そんな時先日のパーティで君を
見つけた。言っとくけど一目惚れだよ。男なら誰でも良いなんて思ってない。」
  ス ク ッ !
「 !! 」
右京さんが席を立って僕に向かって近づいて来る…
「一度きりだ…僕のモノになれなんて野暮な事は言わないよ。どうだい?」
「………」
あの 瞳が…僕のすぐ目の前に…ある…吸い込まれそうだ…
「…父からあなたの事は聞いています…戦前からあらゆる方面で力がある一族の人だって…
あなたの代で特に強く なったって…」
「へえ…君の父上は教育熱心な人だね。」
「……僕は…構いません。」
手を強く握りしめながらそう言った…
確かにこの人と今ここで繋がりを 作っておく事は大事かもしれないと思ったけど…
でもそれだけじゃ…無いような気がしてたし…
「男だからって相手が女の人じゃなきゃいけないなんて事…ないと 思うし…ちょっと…不安ですけど…」
「ありがとう。その代わりちゃんとお礼はするよ。何がいい?お金は必要ないか…
君の家も大した資産家だし…どうしようか…」
悩んでいる右京さんに僕から提案した。
「僕の…協力者になって下さい。」
「協力者?」
「はい…これから先どうしても自分の力で手に負えない事があった時協力 して欲しいんです…」
僕も単刀直入に言った。
「………」
右京さんは少し考えてるみたいだった…
「あなたに迷惑の掛かる事はお願いしませんから…駄目… ですか?」
「………いいよ。」
「 ! 」
「ふふ…それにしても協力者か…面白い事を言うね…君は。でも一生僕と縁が切れないよ。
いいのかい?」
「構いません。それにあなたは一度きりと言いました。この先僕に手を出す事は無いと思っています。」
「本当…君って動じない子だね…そんな強気で真っ直ぐな眼差し を僕に向けるなんて…
そう言う子…僕は好きさ。僕の目に狂いは無かったって事だ…ふふっ…」
そう言いながら…右京さんが僕の顎を軽く持ち上げて…キスをした… 生まれて…初めての…キス…
「なるべく優しくする様に心がけるよ…おいで…慎二君…」
僕は…右京さんに言われるがまま…応接間を後にした…

「…ん…」
今までは入った事の無いほどの大きな浴槽で…右京さんと2人きっり…もう何度目のキスだろう…
「キスも初めてかい?」
僕の唇に触れたまま右京さん が僕に聞く…
「は…い…」
「そう…」
「…!…」
急に僕の顔を押さえて舌を絡めるキスをされた…僕は…そんな事初めてだったし…
頭の中が…真っ白だ…
右京さんに押されて…そのまま浴室の床に横になった…
「ん…あっ…」
首筋を軽く舐められただけで…声が洩れる…やだ…恥ずかしい…

へえ…男の子も… 可愛い声を出すんだね…男も女も…そんな変わらないって事なのか…
なら…こうすると…どうかな…?
「ああっ!!…んっ…うっ…」
胸を…舐められて…軽く噛まれた… どうしよう…これから…どうなるんだろう…
不安が身体中に走り回る…でも…もう…後戻りは出来ないから…

『この続きはベッドでしよう…』

散々浴室で身体中を攻められた…
意識してないのに…勝手に涙が零れる…悲しいわけでも…辛いわけでもないのに…

少し…攻め過ぎたかな…?
「大丈夫かい?慎二君?」
「……は…い… 大丈夫…です…ごめんなさい…」
零れる涙を必死に拭ってる…その仕草が何とも可愛い…
「いいんだ…謝る事はない…」
優しく微笑んで頬を撫でた。
ベッドに横になると右京さんが深い深いキスをする…
僕は何とか慣れて…ちょっとだけ…相手をする事が出来た…
「…ん…あ…ちゅ…」
舌の絡み合う音と僕の弾んだ 息の音しか聞えない…
「ここはね…僕の寝室なんだよ…いつもは客間のベッドを使うんだが君は特別だ…
だから僕のベッドで君を抱く…」
右京さんが僕の耳元で 優しく囁く…それだけで僕はビクンとなった…
15歳には刺激が強かったか?さて…どうなんだろう…ね…
最初に言った通りなるべく優しく彼を押し上げた。

ギシッ!!

「う…あっ!!!…」
身体が…勝手に仰け反った…何も考えられず…右京さんに思いっきり抱きついた…
想像してた以上に…キツくて…痛い…息が… 止まる…
「…ハッ…ハッ…くっ…」
「大丈夫かい?ゆっくり息をしてごらん…」
優しい右京さんの声…
「は…い…ハァ…ハァ…」
「いい子だね…」
そう言って…僕の頬にキスをしてくれた…

「あ…あ…」
押し上げられる度にまた…勝手に声が漏れる…
時間が経つにつれて…痛いのは無くなって…今は…
その後はあまり記憶が無い…ただ…最後は…
右京さんの暖かい肌の感触がとても心地良かったのを覚えてる…

「ねえ…慎二君…」
「は…い…」
そのままベッドに横になりながら…僕は後ろから右京さんに 抱きしめられている…
「朝まで君の時間…僕にくれるかい?」
髪の毛に優しくキスしながら右京さんが囁く…
「はい…」
僕は目を瞑ったまま…やっと返事を した…だって…思ってた以上に…凄かったから…色々と…
顔をそっと右京さんの方に向かされて…右京さんが僕にキスをする…
「あ…あの…右京さん…?」
そのまま僕にまた覆いかぶさってくる…
「朝までは僕のものだよ…」
右京さんがニッコリ笑って…僕の手を握ってくれた…

次の日の朝…
僕はいつの間にか ちゃんとクリーニングされてた制服のシャツのボタンをしめながら考えていた…
きっと…男の人となんて…これが最初で…最後だろうな…他の人とはする気ないし…

横に視線を逸らすと右京さんがニッコリ微笑んでくれてる…
僕は右京さんに見つめられると…心臓がドッキっとするんだ…

……まさか…こんな気持ちになる なんてね…自分でも不思議だ…男の子だから?それとも君だから…?
きっと…これが君に触れる…最後の時…

一度きりなんて言わなければ良かったな… 離したく…ないな…

僕はそんな事を思いながら…慎二君にそっとキスをした…
「今度…食事…一緒にどうだい?」
ゆっくりと…唇を離しながら話しかけた…
「…はい…」
僕はニッコリと笑って返事をした。

あれから8年…
「こんばんわ。」
「久しぶりだね。慎二君。何ヶ月ぶりかな?…まだそれ着けてくれて たんだね。」
僕の耳に着いてるピアスを見てそう言った。
「あなたは分かりませんけど僕には最初で最後の人からのプレゼントなので…」
あれから…右京さん 以外の男の人を相手にしたことは無い。
「僕だってそうだよ。信用されてないな…」
自分の耳にしてる僕とお揃いのピアスを見せて右京さんがクスッと笑う。
「冗談です。」
僕もニッコリと笑った。
「で?今日は僕に話って何だい?」
「はい…すいません。右京さん小暮グループの社長…小暮圭一郎ってご存知ですか?」
いつもの如く単刀直入に話し始めた。
右京さんに遠まわしは必要ない。
「小暮?ああ…そう言えば以前谷口が僕に会わせたいって言ってた男かな?
僕谷口嫌いだから 会わなかったけど。」
「衆議院議員の谷口を後ろ盾に色々やってるみたいなんですけど…」
「で?その男がどうかしたの?」
「小暮圭一郎を失脚させたいんです。」
「…!…」
「会社の方は僕でもダメージは与えられるんですけど…彼を失脚させるには谷口を黙らせないと
警察も手が出せない…」
「……」
右京さんが少し考えて から僕に聞いた。
「君がそこまでするなんてよっぽどなんだね。何が君をそこまで不機嫌にさせたのかな?」

「彼が…僕のお気に入りに手を出したから… 絶対許さない!!」

僕は右京さんを真っ直ぐ見つめて言い切った。
「!…そうか…君のお気に入りにね…」
右京さんは椅子に深く寄りかかるとニッコリ笑った。
「いいよ。僕谷口は嫌いだし遅かれ早かれ彼には消えてもらうつもりだったし…
彼のやる事には品がないからね…」
「有り難う御座います。」
「いいんだよ。君との 約束だしね。僕のお気に入りは君だから…その君が不機嫌って事は
僕も不機嫌になるって事さ。
そうだ慎二君今度食事でもどうだい?久しぶりにゆっくり君と話したいよ。」
「僕は構いませんけど…右京さんが時間取れるんですか?」
「君の為ならいくらだって時間は取れるよ。僕を誰だと思ってるの?心配ご無用だよ。ふふ…」
「それなら…喜んで。右京さんの都合のいい日連絡下さい。」


「なっ…どう言う事ですか?谷口先生?」
社長室…突然の電話に思わず大きな声を上げた。
『私も君も…もうお終いだよ…私の力が一切利かなくなった…』
「な…」
『いずれ君の所にも警察が来るだろう…私の所にも…一体何をしたんだ!?君は!!
草g右京が動いたんだぞ!!』
「草g…右京…?」
確か財界…政界にも影響力のある男だが…
「なぜ彼が?彼には何も関係無いはず…」
『私だって知らんよ! とにかく彼の機嫌を損ねたんだ…もう…終わりだよ…』
「………」
自分でも…訳が分からず…受話器を置いた…
何でだ…何で草g右京が出てくる…?
── これは僕に対する宣戦布告とみなすよ ──

橘…慎二…奴か?まさか…

コン コン…
社長室のドアがノックされる…誰だ…?
「今晩は… 小暮さん…」
開かれた扉の向こうにはニッコリ笑う…彼がいた…!
「忠告…したのにね。聞き入れないから…クスクス…」
「一体…どうやって…」
「いいだろ…そんな事。君は終わりだよ。裏でやってた悪事もしっかり証拠押さえてあるから
今に警察が来るよ。会社も君も…もう終わり。ふふっ…」
「なぜそこまでするっ!! たかがあんな小娘に…」
「祐輔の彼女だからに決まってるだろ!…よくも祐輔を襲ってくれたね!お陰でしなくてもいい怪我を
祐輔はしたし彼女も傷ついた。 その彼女を見て祐輔はもっと傷ついた…わかる?」
僕は彼を睨みつけて言い続けた。
「僕はね…自分のお気に入りを人にいじられるのが大嫌いなんだ。君は僕を怒ら せたんだよ。
人のお気に入りに勝手に手を出してね!だからそれ相応の罰を受けてもらわなくちゃね…クスクス…」
「く…そ…」
彼が悔しそうに呟く…
「くっ…くっ…」
僕は笑いながら…彼に最後の言葉をかけた…

「さよなら…小暮さん。」