shinjitomaru





ギ シ ッ !!

誰かが歩く足音がしたような気がして目が覚めた。
耀くんはオレの腕の中でスヤスヤ眠っている…

「………」

足音を立てずに キッチンへ向かう。
壁に擦り寄りながらキッチンを覗くと人影が暗闇の中で動いていた。
オレは一気にその人影に近づいて腕を捻じり上げ足を払って床に押さえ 付けた。

「くっ…!」

呻き声をあげてそいつはもがいた。

「ここに盗みに入るなんてフザけんなっ! 腕一本もらうぞ。」

そう言って掴んで捻じり上げてる 腕に更に力を入れると…

「そんな事したら一生耳元で文句言い続けますからねっ!!椎凪さんっ!!」

そんな聞きなれた声がオレの耳に響く。

「えっ!? 慎…二君?」

きっとオレはマヌケな顔だった に違いない。

「な…なんで?なんで慎二君がここに…いるの?」

オレは訳が分からなくて焦った…だって…今は真夜中だよ?

「もー痛いですねー…」

慎二君が肩を擦りながら起き上がった。


その日の朝…朝食を3人でとってコーヒーを飲みながら理由を聞いた。

「だって…椎凪の事驚かそうって慎二さんが言うから…」

だからって…ホントに何も言わずに寝るなんて… 耀くんってば…

「朝起きて僕がいたら驚くと思って連絡しなかったんですよ。」

ニッコリと笑って慎二君がそう言った…まったく…

「わざわざ靴まで隠して?」
「はいっ! やるならトコトンやらないとっ!」

確か昨夜オレが帰ってきた時は靴が無かった…昨夜は遅くて…
あっ…って事は…夕べのオレ達の愛し合ってる声も聞えてたって事…?
耀くん一杯声出すから…でも…聞けない…
そう思うと…意味ありげに微笑んでる様に思えてくる…

「まさか見付かるとは思いませんでしたけどね。
足音たててなかったと思うんですけど…流石って所ですか?」
「んーなんか誰かいるって感じしたし…いつも2人だからさ…で?何でここに?」

昨夜の事には 触れずに話を逸らすように本題に入った。

「ああ…実は僕の住んでる階だけスプリンクラー誤作動しちゃって
部屋の中ビチョビチョでね。一週間位お世話になりますね。」

「 えっっ!!??一週間っ? 」

思いの外驚いた声になってしまった!

「はい。何か問題あります?」

オレのセリフなんて全く気にする様子も無く物凄くニッコリと笑う慎二君…

「いっ…いいえ…」

何も言えません…思わず改まって背筋を正してしまった…情けねぇ…

「祐輔の所も泊まったんですけど祐輔の所ベッド一つしかないでしょ?
さすがに一週間はキツイかなぁって…」
「え?そう?オレ全然平気だったけど?」
「椎凪さんみたいに甘え上手じゃないんですよっ。違う意味でキツイんです!」
「?」

バツの悪そうな顔をしてる…何でだ??


今日はオレは休み。なので耀くんを玄関までお見送り…

「じゃあ耀くん。いってらっしゃい。」
「行ってきます。」

いつもの様にいってらしゃいのキスを耀くんとする。
オレが休みの日は離したくないから…ついつい深くて長ーいキスをしたくなる。

「いってらっしゃい。耀君。」

慎二君がオレのすぐ後ろから声をかけた。

ビクッ!!!

そうだ…慎二君がいたんだ…でも…なぜ?なぜだ?
他の人に見られても平気なのに慎二君だとスッゲー緊張するっ!
ソロリと耀くんから唇を離した。

「いっ…いってきます。」

耀くんが心配そうに出掛けて行った…
オレ…大丈夫なんだろうか…これから慎二君と2人っきりで…


「泊めて頂いてるお礼に今度は僕がコーヒー淹れますね。」

手際良く支度をする慎二君…

「祐輔がコーヒーうるさいから勉強したんですよ。」
「なんで祐輔と?たける氏の孫だから?」
「最初はそうでしたよ…社長の命令で… と言うかお願いされたんですけど…
僕社長の事尊敬してますから即OKしました…でも…
実際祐輔に会ったらそんなの関係なくなちゃって…」

嬉しそうに話す 慎二君…

「祐輔のね…瞳が気に入ってしまって…ふふっ…
まさか同じ瞳を持ってる人が他にいるなんてね…」

最後の方は呟く様に話す…

「え?」
「いえっ。 …祐輔は僕のお気に入りなんです。」
「お気に入り…?」
「そう…僕のお気に入り…だから僕の好きな様にする…
まあ時々言う事聞かないんですけどそれもまた 気に入ってましてね…」

コーヒーに注ぐお湯の湯気がゆっくり立ち昇る…

「だから僕のお気に入りに手を出す人…絶対許さないんです…」
「………!?」
「はいっ!コーヒー入りましたよ。」

ニッコリと満面の笑みで慎二君がオレにコーヒーを差し出した。


それから4日間慎二君はオレ達の所に泊まっていった。
何が大変だったかって…慎二君の事が気になって耀くんの事を抱けなかった事…
キスの時だっていつのまにかオレ達の近くにいるし
耀くんはすぐ自分の傍に連れて っちゃうし…もー何なんだ…
その事を内藤さんに愚痴ったら教えてくれた。

「以前深田の事を狙った奴がいたんだよ。無理矢理自分のものにしようとした奴がいてさ…
政治家とも裏で繋がってるかなり悪どい奴だったけど。
案の定深田が承諾する訳ないし…そしたら新城君狙われてさ襲われたんだよ。
集団でリンチみたいになってさ…まあ彼だから返り討ちだったけど
流石に無傷じゃ 済まなくてね…ヒドイ怪我だったな…
その時慎二君がねそいつ潰すからそいつ絡みの事件全部教えてくれって言ってさ…
バックに付いてた代議士黙らせてホントに そいつの事追い詰めて潰しちゃたよ…
代議士のせいで追求出来なかった事件全部解決できたし…
慎二君も不思議な人だよね…まあ俺は結構ウマが合うって言うか…
お互い持ちつ持たれつって所かな…」

不思議ねえ…

『だから僕のお気に入りに手を出す人…絶対許さないんです…』

そーゆー事だったのか… 慎二君ならやるよな…絶対…

オレは慎二君の事に少し興味を持ったから調べてみようと思ったんだ。
好奇心からだったんだけど…
調べ始めてホントチョットしか経って なかったのにオレの携帯が鳴った。

「え?慎二君??」

掛かって来た電話は間違いなく慎二くんだ…
だって名前の表示に慎二君の名前がハッキリと表示されてるし…
恐る恐る携帯を耳にあてた…一体なんだ??

『椎凪さん!!僕の事調べようなんて思ってないで しょうねっっ!!!
そんな事したら僕怒りますからねっっ!!わかってますよねっ!!』

いきなり怒鳴られた!!マジか??どうしてわかんの??

恐るべし慎二君… 一体どんなコネ持ってんの…??

言いたい事だけ言うと電話はすぐに切れた。

オレは青褪めながら…既に切れた携帯をしばらく見つめてた……