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「…………」

「ふえ……」


僕から1メートルほどの目の前で明らかに年下と思える女の子が盛大にコケてすっ転んだ。
何も段差のない絨毯の上でそれこそベッシャリと言う音が似合いそうなくらいのすっ転び方……

「う……うぇ……」

必死になって起き上がろうとするけれど膝下まである自分のドレスを踏んずけてて
起き上がることが出来ない。

なんてマヌケ。

僕は黙ってそんな彼女をジッと見ていた。

「希愛ちゃん大丈夫!!」
「ふえ……真樹ちゃん……」
「もう今日の主役が台無しじゃないか…
って聖(satoru)もそんな所に突っ立ってないで起こしてあげればいいのに…」

そう言って僕の友達の「津田沼 真樹(tudanuma maki)」が
彼女を起こしながら僕に呆れた眼差しを送る。

今日はこの 「佐方 希愛 (sakata noa)」 の5歳の誕生日だそうだ。
どうして僕がそんな彼女の誕生日に呼ばれたかと言うと…まあ…大人の事情だ。

「赤ん坊じゃないんだから自分で起きれるだろう」
「起きれてなかっただろ?希愛ちゃん小さいしちょっとトロイ所があるからさ。次は手を貸してやって!」
「………軟弱だな」
「か弱いって言うんだよ!もう聖は鬼だよ!鬼!!それに今日の主役でここの屋敷のお嬢様だよ。
今日くらいは紳士になりなよ」
「7歳の子供に紳士を求めるの?真樹」
「7歳の男の子が5歳の女の子助けるのは紳士じゃなくてもできるだろ!もう!」
「大体なんでこんなまっ平らな所でコケるの?それが不思議」
「希愛ちゃんだからだよ!憶えておきなよ!」
「なんで?」
「なんで?それは聖の許婚だからだろ!何シカトしてるんだよ!」
「僕は頷いた覚えは無いんだけどな…父と母が勝手にしたことだし」
「お爺様同士だってさ!何でも2人は子供の頃からの友人だって言うじゃないか!
って言うかなんでオレの方が詳しいんだよ!」
「ミーハーだから」
「違ーーーーう!!」

人のいい真樹は僕の言うことにいちいち目くじらを立てて言い返すから面白い。
しかも肩で息してるし……くすっ。

「真樹ちゃん…おこったらだめ…」

真樹に抱き起こされた彼女が真樹の服を引っ張って心配そうな声を出した。

「希愛ちゃん……大丈夫怒ってないよ」
「…………」

僕は目の前の小さな女の子を見下ろしてた。
7歳と言う事もあったろうけどどう見ても鈍臭い…しかも年齢よりも幼く見える女の子に興味なんかなく…
許婚の意味は分かってはいたけど僕の中では受け入れてなくて今のままなら絶対拒否するだろうと思っていた。

でも……

「のあいつもこうなの…びっくりしたでしょ…ごめんねさとるくん」

そう言ってにっこり笑った彼女の笑顔に何でだか胸の奥がつくん!となった。



「ふん ♪ ふん ♪ ふ〜〜ん ♪」

あの希愛の5歳の誕生日から何かにつけて彼女と過ごす様に仕向けられてた。

今日は彼女の屋敷の彼女の部屋で一緒に遊べとの両親の命令だ。
一応僕はまだ親に養ってもらっている身だし親の庇護がないと生きてはいけない身なので
大人しく言う事を聞いてるフリをしている。

彼女の相手なんかしてないし…ただ時間を潰してるだけだ。

そんな僕の態度をまったく気付きもしないで希愛は1人で折り紙を折っている。

希愛の家はそこそこの家柄で希愛はそこのお嬢様。

幅広く事業を出掛けてて今は洋服のブランドを立ち上げて海外にも進出してなかなかの業績を上げているそうだ。
僕の家はと言うと一族で各方面に事業を展開しホテル経営やIT関係の分野でも手広く事業を展開してる。
そんなのはホンの一角らしい… 「宝仙(housen) グループ」 と言えばそれなりに箔の付くものらしい。
血族の中にも結構な地位のある者も多数いる。

そんな 「宝仙家」 の本家に当たるのが僕の家で今の所祖父が彼らの頂点だそうだ。
あんな軽そうな老人がそんな大役を果たしているとは到底思えなかったがどうやらそれは本当らしい。
何度かいつものあの僕に対するおチャラけた祖父さんがあんなに人を威圧出来るほどのオーラを
発せられるとは思ってもいなかった。
その時から僕の中で祖父さんの位置が上位に上がった。
でもやっぱり普段の祖父さんは唯のおチャラけた祖父さんでしかないけど。

そんな祖父さんが引退したら僕の父がその跡を継ぐはず……

そしてその父が引退した跡は……きっと僕が跡を継ぐはずなんだよね…
子供ながらその事だけは祖父さんに刷り込まれてる。

そんな祖父さんの昔からの親友の孫が希愛で…
本当なら父の時にその約束は果たされる筈だったのにお互いの子供が
男しか出来なかったがために僕に番が廻って来たと言う事らしい…

相手の家に希愛が生まれたから……

どうして 「お互いの子供を結婚させる」 なんて約束なんて交わすんだか…
そう思っても一番の権力者の祖父さんの言う事は誰も逆らえず……
でも僕はもう少し大きくなったらハッキリと断ろうと思っている。

今の所希愛は一人っ子で大らかな両親と溺愛の祖父のせいなのかおっとりとしてる。
僕もまだ1人っ子なんだけれど…

鈍臭くてトロくて…時々イライラする時もあるが慣れてしまえばそれが彼女のペースで
トロいだけで決して出来ない訳じゃない…ただ時間が掛かるだけ。
だからそれを踏まえて時間を待ってやれば何でも出来るんだと何度目かの遊びで知った。

結構な努力家らしい。

「何折ってるの?」
「えっと……ふうせん」
「希愛にそんな高度なものが折れるの?」
「この前教えてもらったから折れるの。教えてもらったもん」
「そう…」

一生懸命折り紙を折る希愛を反対側からジッと観察。

もうすぐ6歳になる希愛…それなのに身体はまだ5歳…4歳でも通じそうに小さい。
手だって僕の手よりも小さくて赤ちゃんみたいにプクプクしてる。

そんな手が一生懸命折り紙と悪戦苦闘してた。

ずっと下を向いて折り紙を折る希愛…
ちょっとピンク色のぽっちゃりとした頬っぺたが今にも落ちそうなほどぷっくりしてる…

何でだかそんな頬から僕は目が離せない…
最近気付いたけど希愛のそんな所に時々目を奪われる時があるのが自分でもわからない…

希愛の身体の作りはぽちゃぽちゃしてて可愛いとさえ思える…
まあそんな所だけだけどね…僕が気にする所は…希愛自身に興味があるかどうかは疑問。

「あれ?じょうずく出来ないよ?どうしてここ開いちゃうの??」

希愛が出来上がった折り紙を見て不思議そうに見つめる。

「ちゃんと端を合わせて折らないからだろ」
「ちゃんとあわせたよ」
「合わせてないって!1枚もらうよ」
「うん!いいよ ♪」

折り紙1枚でそんなに嬉しそうな顔するな。
別に1枚もらったからって感謝なんかしないから。

「こうやって……端っこはぴっちりと合わせて折るんだよ」

1ミリのズレも無く正確に折っていく。

「ほわ〜〜〜さとるくんすごい〜〜〜〜」
「これが普通。希愛が雑すぎるんだよ」
「ざつ?」
「適当ってこと!」
「ちゃんと折ってるよ…」
「じゃあなんでちゃんと出来あがらないんだ。ほら完成!」

そう言って出来上がったふうせんを希愛の目の前に置く。

「ぷう〜〜ってして」
「は?」
「これじゃふうせんじゃないよ」
「…………」

ペッチャンコのふうせんを見て希愛がそん不満を言う。

「生意気だな。自分で空気入れればいいだろ」
「だってのあ上手に出来ないもん」
「ったく…だったらふうせんなんて作ろうと思うな。自分でちゃんと作れないくせに」
「じゃあさとるくん教えて」
「はあ?何で僕が…」
「上手だもん ♪ ね?おねがい」

そう言ってにっこりと笑顔を僕に向ける。

「しょ…しょがないな…1回しか教えないぞ」
「うん!でもゆっくりね?のあ早く折れないから」
「わかってるよ」

たった1年にも満たない付き合いで希愛の事は大体理解できた。

「っと……できたぁ!出来たよさとるくん!」

今度はさっきに比べて大分マシな形になった。

「僕が教えたんだから当たり前だ」
「ふふ ♪ ふぅ〜〜〜」
「!!」

淡いピンクの唇を尖んがらかせて一生懸命折り紙のふうせんに空気を入れる希愛…
そんな仕草と尖んがった唇が可愛かった。

……って…

「ハッ!!」

可愛いって何だ?何考えてるんだ?僕は……

「はい。さとるくんあげる」
「は?」

目の前に今出来上がったばかりの折り紙のふうせんが差し出されてた。

「のあからのプレゼント ♪」
「な…なんでだよ!せっかく自分で作ったのに…」
「だって最初からさとるくんにあげるために作ってたんだもん」
「!!」

そう言って差し出された希愛の小さな2つの手の平の上に
膨らませたふうせんがチョコンと乗ってた。

「はい! ♪ さとるくん ♪」

またいつもの笑顔つきて渡される。

「………仕方ないからもらってやる」
「うん」


僕が希愛の手から折り紙のふうせんを受け取るとまたあの笑顔だ……

まったく…調子が狂う…