02





最初はそんな風に私を見下した様なバカにした態度だった彼も
数ヶ月後には従来のオープンな性格と母の彼との間で増した親密度のせいか
こっちが困惑するぐらいの馴れ馴れしさで接して来る様になってた……

だから今は違った意味で同じエレベーターに乗るのは勘弁して欲しい…

まるで小学生の悪戯っ子がからかう相手を見付けた様な顔で私を見つけて…
子供かと思える様な無理難題や我侭を言って来る様になった…

ついさっきだって同じエレベーターに乗ったが為に散々からかわれて…
こっちも思わずムキになって言い返すもんだから相手の思う壺なんだけど…

ついついムキになっちゃうのよね…何でなんだろう?




「まったく失礼な男!年下のクセに生意気なのよ!」

夕飯の前にシャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらリビングのソファで1人文句を言い続けた。

ここに越して来た頃に比べると彼と話す回数は大幅に増えてる…
最初から母はそれが目的でここに引っ越してきたわけだし…当たり前なんだけど…

既に顔見知りだった2人は結構仲がいいらしくメル友らしい。
その時の母の喜び様は無かった…倒れちゃうんじゃないかと思うくらいに浮かれまくってた。

「あんな顔だけ男の何処がいいんだか…」

彼の言う通り顔・だ・け・はいい!のは認めざるおえない…
でも…あの顔で色々言われるのはこたえる時がある…何にも…知らないくせに…

「ああ!!余計腹立って来た!!」

冷蔵庫から缶ビールを取り出して一気に半分ほど飲んだ。
多少気が晴れたのにそれ以上に気分の落ち込む音がした。

ドンドンドン!!

「由貴!!開けろ!!」

「!!…何よもう…何様だって言うの!」

玄関のドアが連打される…こんな事するのは…彼しかいない。
私はテーブルの上に置いてあった眼鏡を掛けて玄関に向かう。

「ちょっと!インターホンって言うものがあるんだから直接ドア叩くのやめてよ!」
「いいじゃん。オレこの方が好きなんだよ。インターホンなんて他人行儀みたいじゃん。」
「他人よ!他人!!!」
「え?いいの?そんな態度?満知子さんから言われてるんだろ?
オレの面倒ちゃんと見る様にって?」
「ぐっ!」

そう…熱狂的な彼のファンの母は普段自分が出来ない代わりに私に彼の世話係を申し付けた。
そんなの断ればいいんだけど母の命令は絶対だから…

子供の頃から母の苦労して頑張る姿を見てた私は母を尊敬してるし好きだ…
だから母の言う事をほとんどが聞く羽目になる…まあどうしてもダメな事はあると思うけど
『コレ』はまだ許容範囲内の事で断ると母は怒ると言うか…嘆くから…

彼もそんな私達親子の関係を良く知ってていつもこんな態度。

「で?何?」
「いやさ…醤油ちょうだい!オレんとこの無くなったからさ。」
「………」
無言でキッチンに入って収納庫から醤油を1本取り出した。
「はい!どうそ!!」
ドカッと彼の手の中に押し込んだ。
「うわ!何その渡し方?可愛くない!」
許しもしないのにチャッカリと部屋の中に入ってくる…しかも当然の様に!
「可愛くなくて結構!それにしても女性1人の部屋に良く遠慮もしないで入って来るわね?
それにあなた自分の立場わかってるの?こんな所撮られたら困るでしょ?」
「え?そんな事気にしてんの?だってここ住んでる奴以外そう簡単に中に入れないし
部外者は管理人のチェック厳しいし…望遠でオレの事狙ってる奴なんていなさそうだし…
別に撮られても完全否定するから心配無い。」
「…そりゃどうも」
「何だよ飯の前に酒かよ?」
私が持ってる缶ビールを見つけて呆れた様に言って来た。
「いいでしょ!誰かさんのせいで気分悪かったんだから!」
「ふ〜ん…ま!いいやなら飯!」
「は?」
「これから作るなら2人分作れるだろ?」
「自分で作ってたんじゃないの?」
抱えてる醤油を指差した。
「え?ああ無かったの思い出しただけ。」
「なら明日にでも自分で買いなさいよ!」
彼が抱えてる醤油を掴んでそう言った。
「セコイ事すんなよ!一度オレにあげたもんだしオレが貰ってやるんだぞ!」
「セコイのどっちよ!稼いでるんでしょ?うわっ!」

彼がいきなり私の顔目掛けて自分の顔近付けたからびっくりして慌てて後ろに飛びのいた。

「初心だなぁ〜 ♪ 処女?」

「そんなわけあるはずないでしょ!これでも恋愛経験ありますから!
っていきなり何するのよ!エロ男!」

「どうせ逃げると思ったし…手も離すと思ったから。」

「……ワイドショーに密告してやる!」
「なら由貴の名前出す!」
「なっ…大体年上に向かって名前の呼び捨てなんて失礼でしょっっ!」
「オレは『 楠 惇哉 』だからいいんだよ!」

ムカッ! っと来た!

「生意気!その大事な顔に一発入れられたくなかったら
とっととここから出て行きなさいよ!」
「お前本当に可愛げないな…だから男の1人も出来ないんだよ。」
「ホント余計なお世話だっての!」
「いいから早く飯にしようぜ…オレ腹減った。」
「このおバカッ!!」

流石に俳優の顔を殴る訳にもいかず…口だけで文句を言って我慢した。




「もう…いっつもこうで疲れる…」

自分で作った野菜炒めを箸で突っつきながらビールを飲んだ。

「由貴が騒ぎ過ぎなんだよ。普通にすればいいのに…過剰反応しすぎ。
そんなにオレいとるのが嬉しいのか?嬉しいよな!」

「…勝手に言ってなさいよ…別に何とも思わないわよ…年下の男になんて…」
「年下って言ったってたがが1つだろ?しかも由貴が3月でオレが5月だから
ほんの数ヶ月じゃん。」
「それでも学年は1つ上なんだから先輩じゃない!態度デカイっての!」
「でもさ…由貴って本当にオレの事芸能人って思ってないよな…
しかもオレだよ!オ・レ・!!今大注目の『 楠 惇哉 』が2人っきりで過ごしてるってのに…」
「だって『 楠 惇哉 』の事なんて興味ないし…
どっちかって言えば私は渋めのダンディな男が好みなの!
大人の男!が好きなのよ!!おわかり?お坊ちゃま〜〜♪」

「ちっ!ファザコンがっ!!」

「なっ…何よ!別にそんなんじゃ無いわよ。」

「満知子さん言ってたよ。由貴はお父さんっ子だったって…
だから旦那と別れた時それだけが由貴に悪かったって言ってた。」

「もう…お母さんは何でもかんでもあなたに話しちゃうんだから…」

「信頼されてるし愛されてんの ♪ 満知子さんには ♪」

「その言い方やめてよ!何だかいやらしく聞えるでしょ!」

当然母と彼の間にはファンと言う関係しか存在していない。
大人の…男と女の関係ではないらしい…きっとそんな事になったら母は卒倒もので
即心臓麻痺を起こしかねない…彼も母の事は良き相談相手と遊び相手と言う関係らしいし…

でも母のファン意識は度を越えている…
自分の娘をこの最低最悪男に使えさせてるなんて……

「やっぱ由貴の手料理は美味しいな。」

さっきから彼は手と口を休めずに私が作った野菜炒めと味噌汁とご飯を頬張り続けてる。

「そうやって素直になればまだ可愛げあるのに…」
「それはこっちのセリフ!由貴女の可愛げホント無いぞ。」
「あなたなんかに私のそんな所見せる訳無いでしょ?ちゃんと見せる人には見せてるわよ!」
「え?そんな奴いるのか?」
「?…何よその疑いの眼差しは…そりゃ…今はいないけど昔は…ね…
ちゃんと恋愛経験あるって言ったでしょ!!」
「でもそれでもダメだったんだろ?やっぱ無いんだよ…由貴には…」
「!!!うるさい!!もうそれ持って帰んなさいよ!!まったく…ぅ…」
「お前酔ってるだろ?顔赤いぞ。酒弱いくせに飲むんだから…」
「そう言えばあなたは飲まないの?」
「オレ明日朝からロケあんの。飲んだりなんかしたら顔が浮腫むだろ?
少しは考えろ!オレの事務所で働いてるクセに…ったく…」

「あのね!事・務・所・で働いてるだけで別にあなたのマネージャー
やってるわけじゃ無いんですっ!あなたのスケジュールなんて知るわけないでしょっ!」

就職も母の意向とコネの力で彼のプロダクションの事務に就職させられた。
コレと言ってなりたかったものも無かった私はそうそう反対もせず入社したのだった。

もうきっと私は母に洗脳されてるんだろう…

「ヘイヘイ…おかわり!」

そう言って何事も無かったかの様に空の茶碗出された!!

「 !! 」

……ガタッ…


酔ってても…素面でも…熱があっても…どんな時でも…
結局私は彼のおかわりの茶碗に新しいご飯をよそう為に席を立っちゃうのよね……

恨むわよ…お母さん…はぁ…