05





「ちわ!」

「あ!惇哉君!いらっしゃい ♪ 」
「お疲れ!これ差し入れのケーキ。」
「ありがとう ♪ 早速頂くわね ♪ 」

事務所の女の子達がはしゃぎ始める…やっぱこれが普通の反応だよな。

「あれ?由貴は?」
「森さんと出掛けてますよ。」
「何で?」

森って確か男だよな?

「仕事です。」

「…………」

そりゃそうだろうけど…事務の由貴が何でまた?


そらから15分ほどして由貴が男と一緒に帰って来た。

「ただ今戻りました…!!」

って…事務所に入ったら本当に彼が来てた!

「…………」

シカトシカト!

「柊木さん惇哉君から差し入れですよ ♪ 」
「あ…じゃあ私コーヒー淹れます。」
「あ!ありがとう。」

別にワザと自分から申し出た訳じゃなかったのに…


「何で避けんだよ。」
「別に避けてなんかいないわよ。」

そう文句を言いながら彼が給湯室に入って来た…

「あ!ドア閉めないで!」
「?何で?」
「2人っきりで個室なんて怪し過ぎるから!」
「別にどって事無いだろ?自分トコの事務所なんだし。」
「そう言う問題じゃ無いの!これでも私は嫁入り前の娘で変な噂立つのは困るし
あなただって変な噂立ったら困るでしょ?色んな業者の人出入りしてるんだから…」
「由貴は心配しすぎ!大体オレと由貴でどんな噂が立つんだよ?」
「………まあ…そうだけど…念の為よ。昔はそんな噂でワイドショーや週刊誌賑わしてたじゃない。
忘れた頃に騒がれるなんて事あるんだから気を付けなさいよ。」

「………アイツと何処に何しに行ってたんだ?」
「?アイツ?」
「森だよ!森!!」
「ああ…って森さんでしょ?いくら何でも目上の人じゃない。」
「いいから!」
「?別に忘れた書類届けただけよ。で森さんも事務所に帰るって言うから
一緒に帰って来ただけだけど?」
「車でか?」
「?そうだけど?」
「助手席?」
「後部席。母にそう言われてるから…余計な誤解招くから男性の車に乗る時は
後ろに乗りなさいって…それに荷物が凄くて後ろも危なかったんだから。
助手席なんて乗れたもんじゃないわよ。タバコ臭いし…!!」

彼が流しに向かって立ってた私の後ろから私の身体を囲む様に両手を広げて流しの縁を掴んだ。

「ちょっと火傷するわよ。」

彼の温度を顔のすぐ横に感じながら振り向きもしないで呆れながらそう言った…
いつもの事だから。そう言うと彼は…

『どれだけの女の子がこうされたいか…有り難い事なんだぞ。』

って恩着せがましく言う。
そんな事私には関係無いって言うの…もう…
何でこんなに彼の事を何も感じず過ごせるのか…
不思議だけどきっと彼の事を知ったキッカケが悪かったんだと思う。

「オレのコーヒーは飛び切り美味しくな ♪ 」
「そんな時間あるの?」
「無くても由貴のコーヒーだけは飲んでく。」
「はいはい。」


言いながら人数分のコーヒーをトレイに乗せて運ぶ由貴の後ろ姿を見て…

何でだかホッと胸を撫で下ろしてる自分がいた。





「いいか!ホテルのロビーで待ってろよ。」

「わかったわよ…もうそんなに念押さなくても…子供じゃあるまいし。」

創立記念パーティの日まで撮影で外泊する事になってるから出掛ける前に
これでもかってほど由貴に念を押す。

「それから戸締まりな!」
「もう子供じゃないってば!ここの防犯対策がちゃんとしてるって言ったのあなたでしょ?
それに明日はお母さんも帰ってくるし…」

満知子さんは由貴の支度の為に帰って来るんだよな…それも相談済み。

「じゃあ行ってくるから。」
「うん…事務所の為に稼いできてね!」
「……淋しくても我慢しろよ。毎日ラブコールしてやろうか?」
「淋しがるのはお母さんよ!それにそんな事する暇があるなら仕事に集中しなさいって。」

「…じゃあな。」

「いってらっしゃい。」

由貴が閉まるエレベーターのドアの前でオレに手を振る。
下まで見送ってくれてもいいだろうに…そう言ったら 『 自惚れるな! 』 
と一喝された…薄情な奴だ。



淋しいのは……オレ……か?

    最近どうもおかしい…気がする…



彼が撮影で家を留守にした当日…

「ふわぁ〜開放感 ♪ ♪ 」

1人でソファにドボリと座った。
ご飯も催促されず纏わり付かれず…ああ…何て静かな夜……

「…今頃まだ仕事かなあ…」

デジタルの時計はPM8:30…
今回のドラマの仕事も恋愛モノだったよね…相手はハタチの人気女優…
大学生の役だったと思ったけど…お約束のラブシーンは今の所キスシーンだけだけど…
必ずと言っていいほどそれはある。

前は新婚の年下の旦那さん役で毎回5回はキスシーンがあったし…
ってなんでそんなに細かいかと言うと母が悔しがりながらそんな事を言ってたから…

でも彼の共演した女優さんは大体が母のエステのお客様だから露骨に怒りはしない…
その陰に彼の活躍がある事は言うまでもない。

「コーヒーでも飲もうかな…」

自分だけのコーヒーを淹れてソファに座ってコクリと一口飲んだ。

『美味い!やっとオレ好みの味になったな由貴 ♪ 』

「…………」




    何だか褒めてもらえないのが…物足り…ない?