07





「じゃあ惇哉君お疲れ様。」

「お疲れ様。」

パーティの終わったホテルの地下駐車場からマネージャーの運転するワゴン車で
マンションに向かう。もちろんオレの隣には由貴が座ってる。

「三鷹さんお身体大丈夫なんですか?」
「メタボ男の事なんて心配すんな。コイツは自業自得だっての!」
「ちょっとそんな言い方ないでしょ!」

フン!って感じでオレはソッポを向く。
言っとくがオレはまだ超機嫌が悪いんだからな!気付け!

「はは…惇哉君の言う通りで…趣味が酒とタバコなんて身体壊すの当たり前なんです。」
「お医者さんには?」
「ちゃんと薬貰って飲んでますよ…でもそれも最近効きが悪くて…」
「あら…酷くなってるって事ですか?」
「はあ…何だか…」
「あら……」


そんなくだらない話しを頭の隅で聞きながらオレはあの小西と言う男の顔を思い出してた…

6・7年前って事は…由貴が高校生の時…か?



「じゃあおやすみなさい。」
「気をつけて帰れよ。」
「はい。お疲れ様でした。」

私達のマンションの前で車から降りて入り口に向かう。
私は内心ハラハラする…こんな所誰かに見られたら…

「心配するなよ…誰もいない。」
「……だから地下の駐車場で降りるって言ったのに…」
「別にやましい事してないんだからコソコソする事無いだろ。」
「あなたは芸能人だからいいけど私は一般人なんですからね!もう少し気を使ってよ!」
「………」

こう言う時だけ芸能人扱いか…


「?どうしたの?ずっと機嫌悪いわよね?」
「そう?」
「疲れたの?」
「かもね…」
「なによそれ…変なの…」

その後はエレベーターの中で2人無言になった。
そのまま無言で廊下を歩いてあっという間に玄関の前だ。

「…じゃあ…お疲れ様…おやすみなさい…」

「…由貴!」

「 !! 」

身体が勝手に動いて…由貴の鍵を持った手を掴んでた。

「オレの部屋でコーヒー淹れて。」
「え?あなたの部屋で?」
「そう…たまにはいいだろ?」
「……じゃあ着替えてからそっち行く…」
「そのままでいいから…今オレの部屋に来て。」
「……でも…」

「由貴!」

強めに言われて…言い返せず引かれるまま彼の部屋について行った。

「強引なんだから…」
「いつもの事だろ…」


彼の部屋に入って私は真っ直ぐキッチンに…
彼はリビングでスーツの上着を脱いでネクタイを外しなからタバコに火を点ける。


「えっと…」

彼の部屋は久しぶりで…コーヒー豆何処にあったっけ?

「ねぇ…」
「ん?」
「コーヒーの豆どこ?」
「ああ…」

彼がキッチンに入って来て私の後ろから手を伸ばして頭の上の戸棚を開ける。

「ん!」

新しい豆の入った袋を頭の上から渡された。

「ありがとう…!!ちょっ…」

受け取った瞬間後ろからまた流しの縁を私の身体を囲む様に彼が掴んだ。
でも今日は彼の顎が私の肩に乗っていつもより彼の身体が私に密着する。

「これじゃ動けないでしょ…離れて。」
「ホント今日の由貴…綺麗…」
「だから嬉しく無いってば…」
「オレが心底真面目に褒めても?」
「…どうせからかってるんでしょ…」
「だから真面目にだって…」
「や…くすぐったいってば…」

露わになってる項に彼の唇?が触れてくすぐったい…

「ぁん…息…掛かって…る…」
「由貴…」

彼の唇が私の項を優しく滑るから…

「も…だから…………くすぐったいってばっっ!!」

ゴ ン ッ !! 」

「痛って!!」

後頭部で頭突き喰らったっっ!!

「……っ痛……!!!」

鼻が…痛い!

「何すんだよ!」
「だってくすぐったいしコーヒーの準備出来ないでしょっっ!」

すんげー怒られた!

「…………」

まったく…コイツはぁ〜〜!って…オレ今由貴に……何しようとしてたんだ…?



「はぁ〜美味しい ♪ 流石私 ♪ 」

「阿保か…」

ソファで2人…由貴の淹れたコーヒーを飲みながら由貴が自画自賛してるのを横目で見てた。

「あなただって褒めてるでしょ?呆れるならもう淹れてあげない!自分で淹れなさいよ!」
「すぐ拗ねる。」
「誰のせいよっっ!」
「由貴のせい。」
「はい?何で?」
「由貴…」
「なに?」
「3日ぶりだな…」
「そうね…!!」

彼の手が伸びて私の頬に触れる。

「ホント今日の由貴は綺麗だ…」
「もうだから…」
「綺麗…」

逸らした顔を指先で優しく彼の方に向かされた…

「どうしたの?いつもこんな事しないのに…」
「由貴が綺麗だから…」

ニッコリと微笑まれた…流石イケメン俳優…言い回しが堂に入ってるわ…

「私を褒めても何にも出ないわよ?」
「…別に何も期待してない…」
「そう?」

「……綺麗だけどやっぱオレはいつもの由貴がいいや…」

「何で?」

由貴がちょっと驚いた顔をした?なんでだ?

「え?……んー…そっちが見慣れてるから…」

「 ! 」

本当は他の男共にチョッカイ出されそうだから…
って言いたかったけど…なんか恥ずかしいからやめた。

「由貴って結構胸あるんだな…」

何も考えずに由貴の見えてる胸元を人差し指でプニッっと押した。


「 ん な っ !!!ぎゃああああっっ!!このエロ男ーーーっっ!!!」


「え?あ…バカ…」

いきなりコーヒー片手に由貴が立ち上がるから…
カップを持ってた手首に思いきりコーヒーが掛かった!

「…熱っっ!!」

「由貴!」





「……まったく…ドジだな…」

流しでコーヒーの掛かった手首を水で冷やしながら彼がぼやいた。

「誰のせいよ!」
「由貴が初心なせい。」
「は?」
「まだ痛む?」
「…大丈夫…淹れてからちょっと経ってたし…熱湯ってわけじゃなかったから…」
「良かった…」
「心配したんだ…」
「当たり前だろ…今薬出してやるから。」
「…うん…」

何だか妙に彼が優しい…だから文句も言わず言う事を聞いた。



「…………」

無言で黙々と薬を塗って包帯を巻いていく…

「大袈裟ね…」

「…………」

無言ですか?

「?気にしてるの?私は大丈夫だって…」
「あの男と…どんな関係……」
「え?」

「あの小西って奴…」

「……………」

包帯を巻きながらボソッっと聞かれた…

「……言いたく…無いか?」
「…………」
「じゃあ1つだけ…」
「 ? 」

「…今も…付き合いあんの?」

フルフル…と無言で由貴が首を振った。

「ふうん……」


由貴がここに越して来てから男と付き合ってたとは思えない…

最初の頃はオレにもわからないが…ここ2・3年はいないはずだ。


「今日…」

ああ…オレ…

「ん?」

一体何を…

「由貴と一緒に…」

言おうとしてる…?

「なに?」

「寝たいな。」

あ…言っちゃったよ…


「?明日仕事早いの?」
「え?」
「仕事!」
「あ…いや…まあ…」

明日はオフなんだけど…

「なら起こしに来てあげるわよ。何時に起こせばいいの?」
「…………」
「さっきからどうしたの?」

彼が何とも言えない顔してる。

「…由貴って…超真面目!」
「え?何よ?」
「そのまんまだよ。」
「は?」

「……鈍感なのか?いや…天然?」

いや…もしかして…

「だから何よ!」

一番厄介な…男として見られてないってやつか?前からの事だけど……

「はあ……」

ナゼかオレはがっくりと項垂れた…力が抜けるのがわかる…

「?」

由貴は相変わらずキョトンとした顔してるし……ああ……




結局その日の晩はお互いがお互いの部屋で寝る事になった。

オレ…本当にどうなってんだ?自分で自分が理解出来ない…