09





由貴が出掛けて自分の部屋で1人…ソファでゴロゴロしてた…

考えるのは由貴の事だ…ああ…もう…一体どうしたんだオレ……
1人でいても余計な事考えるだけだし…
そうだ!事務所行って暇つぶしして…

ああ!由貴と昼一緒に食べるか!そうだ!そうしよう!!

オレは何かと理由をつけて由貴の傍にいたかった。

そうと決まると現金なもんで鼻歌交じりで支度をし始めた。

昼までにはまだ多少時間があったけど待ちきれずに事務所に向かう。
着いたら早速由貴を連れ出すつもりだ。
時間外なんてのはオレの権限で周りも由貴も黙らせるつもりだし
誰も文句なんて言わないし言わせない。

それがたとえ社長でも!だ。


「 ♪ ♪ ♪……ん?」

事務所の入り口で見覚えのある顔を見付けた。
あいつは…ワールド企画の…小西…

「ああ!楠君!」

ニッコリと笑ってオレに近付いて来る。

「何であんたが?」

疑いの眼差し100%で睨んだ。
まさか由貴に会いに来たわけじゃないよな?

「昨夜お近付きになれたからさっそく仕事の話を…ね。事務所通しに来ました。」
「………」

どうもコイツは信用おけない…そうオレの直感が教える。

「また後日打ち合わせに伺うので…じゃ…」

「小西さん!」
「はい?」

「ちょっと…時間あります?」



事務所から多少離れた喫茶店に2人で入った。
一応由貴に見られない為に…


「えっと…仕事の事かな?だったら君の言った通り事務所で…」
「そんな話じゃ無いです。プライベートの事で…」
「君が俺とプライベートの話…?」
「由貴の事…」
「由貴…?」
「そう…小西さん由貴とどう言う関係ですか?もしかして元恋人?」
「え?……何でそんな事君に…」
「オレ由貴の母親と親しくしてて留守がちな母親に由貴の事頼むって言われてるんで…
昨夜あなたに会った後の由貴の態度が妙に変だったから…一体何があったのかって…」
「由貴の母親に…?」
「ええ…」

本当は逆で由貴がオレの面倒見ろって母親から言われてるけどこの際関係ない。

「由貴からも話は聞きますけどあなたの話も聞きたいと思って。」
「……君に話さなきゃいけない事かな?」
「はい。後々由貴のフォローに廻るのに必要不可欠な事です。」

こんな時はとにかくこっちが正論を言ってると思わせるしかない。
由貴が話さない以上この男から聞くしかない…だから脅してでも聞きたい気持ちを
グッと抑えて丁寧かつ穏やかに聞いてる…こんなの演じてると思えば簡単だ。

「んー…困ったな…そんな威張れる話じゃ無いからな…」
「お願いします。」
「………じゃあ…簡単に話すよ…昔の事だし…由貴も話して無いみたいだし…」
「………」

いいからサッサと話しやがれっ!!!

「由貴が高校3年の時…由貴の母親の仕事絡みで知り合って…ちょっとの間付き合った。」
「………高校…」
「さっき事務所で会った時は驚いたよ…あんな地味に…いや…普通にしてる由貴初めて見たから…」

ちっ…何だ…事務所で会ったのか…
失敗した…もっと早く事務所に行けば良かった…

「知り合った頃由貴は母親の影響で高校生にしては大人びてて…綺麗でね…
普段も昨夜のパーティの時の由貴みたいにしてて…周りの…特に男共の目を惹いてたよ…
だからオレもすぐ由貴に交際申し込んで…付き合ったんだ…」
「へぇ……で?何で別れたんです?」
「……俺も…若かったし…今の会社も立ち上げたばかりで…焦ってたんだ…
だから…色んな事ですれ違って…誤解もあったりして…別れた…」
「……それから1度も由貴とは?」
「ああ…どうやら俺由貴に避けられてたみたいでね…それから1度も…
まあ自分の仕事の方も忙しくなったのもあるけどね…だから昨夜会った時はびっくりしたよ。」


本当にさわり程度の話だったとは思うが2人が付き合っていたってのは確認できたし…
色々な事がわかった…ただ…何処までアイツの話を信じるかだけど…

『この事は別にして仕事の方宜しく!』

とにこやかな笑いを残してアイツは帰って行った。


先にアイツが帰ったあと1人喫茶店に残って携帯を取り出す。

「…出てくれるかな?」

時間は昼ちょっと前だからもしかして出てくれるかもしれない…
由貴はきっと話してくれない気がするから…満知子さんが頼みの綱だ。

『はい。どうしたの?惇哉クン ♪ 』
「あ!満知子さん忙しいのにゴメン!ちょっといい?」
『惇哉クンからの電話なのよ ♪ 大丈夫に決まってるでしょ!…それに余程の事なんでしょ?』
「ありがと…満知子さんに聞きたい事があるんだ…」
『え?何かしら?』
「由貴が昔付き合ってた……小西って男の事…」
『え?小西君?どうしたの?惇哉クン…急にそんな事…』
「昨夜のパーティでその小西って奴に会った…そしたら由貴の態度が急に変になって…
しかも男の方はまた由貴と接点持とうとしてる…昔付き合ってたって言うのは男に聞いた…
でも…何かイマイチ話が信用出来なくて…由貴は話したがらないし…
だから…教えて…満知子さん!」
『小西君が…また由貴に…?』
「今度うちの事務所…奴の会社の仕事するらしい…」
『…そう…じゃあ由貴…彼に会っちゃったのね…』
「うん…昔奴と何があったの?」
『…………』


満知子さんの話だと今から7年前…満知子さんのエステサロンのCMの仕事を
奴の会社が請け負ったらしい。

そこで由貴と知り合った…

『あの子ちょっとお化粧しただけでとっても綺麗なってね…あたしの自慢だったの…
だからいつも綺麗にして洒落た服着せて…大人びて見えてたわ…
だから男の人に結構モテテね…あの頃は大変だったのよ。』

だろうな…あんな顔の高校生…彼女にしたら自慢だろう。

『その中の1人が小西君で…まあ仕事柄もあったのか女性の相手するのも
慣れたもんで由貴彼の事好きになったらしくて…付き合いだしたの…
でも…それからたった1ヶ月で別れたわ…』
「どうして?」
『由貴もあんまり詳しく話してくれなかったけど…
由貴が言うには『 彼が好きだったのは私の顔だけだ 』って…そう言ってた…』
「は?顔だけ?何それ??」
『さあ…由貴ってばそれしか言わなくて…小西君にも聞いたんだけど彼も納得して
なかったみたいで…でも由貴は頑なに彼の事遠ざけて…今まで会わずに来たみたいね…
それからあの子絶対お化粧なんてしなくなって…就職してちょっとはする様になったみたいだけど…
メガネも掛けて…服装も地味になって…でも…何だかあたしも由貴に無理させちゃってたのかと
思って強く言えなくて…好きにさせてるんだけど…
だから昨夜久々に由貴のお化粧した姿見て感激だったわ ♪ 』

「ああ…由貴すっごく綺麗だった…」

本当にそう思った…

『でしょ?あの子磨けば光るんだから ♪ 』



満知子さんの話でもハッキリと2人が別れた理由はわからなかった…
とにかく2人は昔付き合ってて…そしてキッパリ別れたって事はわかった。

しかも由貴から別れを切り出してる…でも男の方は未練ありそうな気配が漂うけど…


オレの中でハッキリと気持ちが1つになる…

オレは…由貴の事が好きだって気持ち…

他の奴に取られるなんて…そんなの我慢できないし許せない。

だから…由貴は誰にも渡さない!!

今までそんな不安無かったから自分の気持ちに気付かなかった…

今横から由貴を掻っ攫われそうになって初めて気付いた……

オレ……由貴の事が……好きだ!




「由貴 ♪ 」

「あれ?どうしたの?今日休みでしょ?」

事務所のいつもの場所に由貴はいた…アイツに会ったせいか俯き加減でちょっと暗い。

「昼飯一緒に食べるぞ!」
「…いいけど…」
「じゃあ支度して。」
「うん…」

すんなりと由貴は頷いた。


「少しは眠ったの?」
「いや…」
「そう?なんかやけに機嫌良さそうだから…寝てスッキリしたのかと思った。」
「そう…好い事があったんだ ♪ 」
「へえ…いいわねぇ…」
「何?由貴は好いこと無かったのか?」
「え?…ああ…うん…どうせあなたにもわかるから言うけど…
あの小西さんの所の仕事受けるらしいの…だからちょっと気が重くて…」
「なんで?」

わかってて…あえて由貴に聞いた。
由貴は話してくれるのか?

「昔あの人とちょっとあって…あんまり会いたくなかった人だから…」

「ふーん……でももう過去の事だろ?」
「え?」
「なに?まだその小西って奴の事引きずってんの?」
「あなたにはわからないわよ!私が今どんな気持ちかなんて!」
「わからないに決まってんだろ?由貴オレに何にもアイツとの事話してくれないんだから。」
「…プライベートな事だもん!何であなたに話さなくちゃならないのよ…」
「まあいいけどさ…」

いつか話してもらうけどね…今は我慢するよ…由貴…

「さて…と!何食べるか?」
「何って…いつものお店じゃ無いの?」
「え?何でだよ?」
由貴が納得いかない顔でオレを見る。
「だって他のお店行くとファンの子達が集まって来るんだもの…落ち着いて食べれない。」

いつものお店は結構穴場のお店で表通りからちょっと引っ込んでる店だ。

「確かにあそこならそうそう人は来ないけど…メニューが少ないんだよな…」
「仕方ないじゃない…あなた顔が知れ渡ってるんだから。」
「えー!!オレ今無性にオムライス食べたいのにっっ!!」
「仕方ないわね…じゃあ夕飯に私が作るから今は和食で我慢してよ。」
「え?ホントに?夕飯由貴作ってくれんの?」
「……仕方ないじゃない…」
「じゃあ昼はオレの奢りでいいぞ ♪ 」
「そんなの当然でしょ!!誘ったのそっちなんだし!」
「え?最初っからそのつもりかよ?」
「だってそのつもりで財布持って来てないもん。」
「……図々しいな…お前…」
「稼いでるのにセコイっていっつも言ってるでしょ!!男なら太っ腹でいきなさいよっ!!」

「はいはい…」

「 『 はい 』 は1回!」

「……………」


そんな会話で由貴がちょっとだけ元気になったから…まあいいか…

さてさて…どうやって由貴に迫ろうかな……

なんて事を密かに心の中で考えていた。



「なに?何ニヤニヤしてるの??やだ…気持ち悪い!!」


「…………」



こんな時だけ勘の良い由貴がオレを見てそんな事を言う…