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「え?休んでる?」

やっと時間を作って事務所に顔を出せば由貴は出勤してなかった。

「なんで?」
「具合が悪いそうです。」
「具合が?風邪?」
「さあ…ただ調子が悪いからって…」
「…………」

なんだよ…じゃあ今朝はオレが家を出る時は由貴の奴部屋にいたのか…

まったく…携帯を活用しろっての!
由貴はオレと携帯のやり取りをあまりしない…いや全くと言っていいほど…

『 ほとんど毎日会っててウチに入り浸ってるのに何で携帯でやり取りしなくちゃいけないのよっ! 』

って超嫌な顔されて文句言われた事がある。

撮影の合間だったからそんなに時間が無い…
速攻マンションに戻って由貴の家の玄関のドアを叩いた。

がちゃ………大分経って玄関が開いた。



「……もう…うるさい……」

「……大丈夫か?」

「大丈夫に見えるの?」

「 ………… 」

確かに…大丈夫には見えない!
顔は真っ青だし苦痛に顔が歪んでる…こんな由貴初めて見た…

「どうしたの?仕事は?」

ソファに崩れ落ちる様に倒れ込んでオレを見上げてる。

「時間が空いたから…事務所行ったら今日は休んでるって言うから…
どうした?風邪か?」

ソファの前にしゃがんでぐったりしてる由貴のオデコに手を当てた。
熱は無いみたいだけど…

「風邪じゃ無いから…もう放っといて…仕事戻りなさいよ…」

「医者は?ちゃんと診てもらったのか?」
「医者なんて必要無いから…寝てれば治る……」
「由貴!!ちゃんと医者で診てもらえよっ!」
「だから…大丈夫だってばっ!!…っつ…痛っ…」

オレに怒鳴ってお腹を押さえてる…

「何だよ…お腹痛いのか?何か変な物食べたんだろう?食い意地張らすからだ。」

「おバカっ!!あなたじゃあるまいしそんな事しないわよっ!!…いて…」

「じゃあ何だよ?下痢?ゲホッ!!…痛ってっっ!!!」

ド カ ッ !! っと寝てる由貴がしゃがんで覗き込んでるオレのお腹に踵を叩き込んだ!

「そんなんじゃないって言ってるでしょっ!!いいから早く仕事行きなさいよっっ!!」
「…あのなぁ……」

オ・レ・に!!蹴りを入れるなんて…お前くらいだぞ………

ってオレに蹴りを入れた由貴の顔が何気に赤い…何でだ??

「あ…もしかしてお前…アレ?」

「 !!!! 」

一気に由貴の顔が赤くなる。

「 こ・の・っっ!!! 少しは女性に対して気を使いなさないよっっっ!!!バカ男っっ!!!」

また足が飛んで来たから今度は足首掴んで捕まえた。

「ちょっ…やだ…離して!!」
「女なんだから仕方ないだろ?別にからかった訳じゃ無いって…
男にはその痛みはわかんないからな…女優の中にもそれで苦労してる奴結構見てるし…」
「…………」
由貴が急に大人しくなった。

「薬は?飲んだのか?」
「飲んだけど…効かなくて…いつもはそれで何とかなるんだけど…」
「そう言えばそんな時期なんだ…」
「は?」
「だって由貴ってそれになる前すっごくイライラして怒りっぽいからさ。いつもはわかるんだけど…
最近会ってなかったから忘れてた。」

「 ……………!!!! もう本当っっ!!デリカシーないっっ!!最低!!! 」

ああ…余計な事言ったかな?って思ったけどそんなの撮影じゃ結構オープンなんだけどな…

「 あっ!!ちょっ…何?? 」

彼がヒョイっと私をソファからお姫様抱っこで抱き上げた。

「歩くの辛いだろ?ベッドまで運んでやる。」
「い…いいわよ…そんな大した距離じゃ無いし…自分で歩けるってば…下ろして!!」
「無理すんな。それにもう着いたし。」
「……もう…」

彼が優しく私をベッドに下ろす。

「辛いの今日くらいだから…寝てれば少しは楽だし…」

何でだか彼がそのままベッドに腰を掛けて私を黙って見下ろしてる…
だから黙ると気まずくて…ずっと喋り続けてた…

「だから…!!!」

彼の人差し指が私の唇の動きを止めた。

「なるべく早く帰って今日はオレが由貴の看病してやる…だからそれまで大人しく待ってろよ。」

コクン…

話せないし…何だか気恥ずかしくてとりあえず頷いた。

「本当は由貴が寝るまで傍にいてやりたいけど…時間的に無理だから…」

コクコク…

わかったから!!って意味で何度も頷いた。
早く…行って…何だか様子が変だもの……

何でそんなに優しい瞳で私の事見てるの?

「由貴…」
「………?」

「良く眠れるおまじないと…早く良くなる様に……」

「………あ…」

彼の人差し指が離れた瞬間…そんな言葉が私の口から洩れた…
だって……指が離れる寸前に…彼の顔が私に近付いたから……

「 ………んっ…… 」


一体…何が起こったんだろう……

自分の唇に…彼の唇が触れてる…の?
え…でも…それって…それって…私…彼と…

キスしてるって……こと?



「……ンンッ……」

ぎゅっと彼の肩を両手で掴んで握り締めた…
何でだかしっかりと目を瞑ってた…
どうしてだか彼の舌をしっかりと感じて…ちゃんと受け止めてた…


いつまでも続きそうな…キスを……ずっとしてた……



「ちゅっ…」

「………ハァ…ハァ…」

やだ…心臓がドキドキして…息が浅く早くなる……きっと目が…潤んでる……

「これでぐっすり眠れる……」
「…う…ん…」
「じゃあ鍵持って行くからな。外に出ないだろ?」
「うん…もう…寝るから…」
「ゆっくり休めよ…ちゅっ ♪ 」
「 !! 」

オデコにチュッってされた。

「これはオマケ!じゃあオレ行くから…」

彼がそう言って寝室から出て行った…

「うん……仕事…頑張って…」


私はそう言って彼を送り出した…




その後は何だか頭がボーっとして…

わけがわからなくて…お腹の痛みもちょっと薄れてた…

薬が効いてきたのか…彼のおまじないが効いたのか…

私にはわからなかったけど…とにかく眠くて眠くて仕方なくて…

私はいつの間にかとっても気持ちのいい眠りに落ちていた………