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玄関のドアを閉めて由貴から預かった鍵で鍵を掛ける…
鍵が掛かったのを確かめてドアを背に寄り掛かる。

心臓が…破裂しそうだ…

今の…大丈夫だったろうか…由貴は…嫌がらなかったんだろうか…どうだった?

でも最後はオレに仕事頑張ってって言ってくれたよな?怒ってなかったよな…


オレ…由貴と……

        キス…したんだよな…


自分の唇を指先でそっと触れた。

由貴の唇に触れたオレの唇…由貴の唇ってどんなだった?え?どんなだったっけ?

「……ガキじゃあるまいし…どんだけ舞い上がってんだ…オレ…」

心臓は未だにドキドキだ…ファーストキスの時だってこんなドキドキしなかった。


「……とりあえず一歩前進…か…」



オレはドア越しに多分もう眠ってるだろう由貴を見つめて…エレベーターに向かって歩き出した。



「…き…」

「…………」

「由……貴……」

「ん……」

「由貴…ただいま…」

「……!?…ん……お…かえり…」

誰かか帰って来て…私の名前を呼んでる……
とっても心地良い眠りで…ぬくぬくの布団で…やだ…起きたくない……

「由貴…起きろ…」
「や……気持ち…いい…から…まだ…」

言いながら布団の中に深く潜り込んだ…

「そんなに?」
「う…ん……」

本当よ…あったかくて…気持ち良いの…お腹も随分楽になって…

「由貴……」
「……ん……誰?…お母さん?」

気持ち良い肌触りの…暖かい掌が私のオデコから頬を撫でてくれる…

「あ……」

って…何でそんな声が?
だって…頬を撫でながら多分親指だと思うけど…指が私の唇をなぞるから……

「くすぐったい……」
「じゃあ起きて…じゃないとおはようのキスする。」
「?おはようの……キス???」

ってお母さんじゃ無い!!??
お母さんがそんな事言うはず……

「 !!!きゃあっっ!!! 」

薄暗い部屋の中で見慣れた顔が目の前にあった!

「何で驚くんだよ…心外なんだけど…」
「…な…何してるの??」
「心配して見に来てやったんだろ…飯食べれるか?」
「……ご飯?え?あ…今何時なの?」
「午後7時過ぎたトコ。」
「7時…?え…私何時間眠ってたのかしら……」
「それだけダメージがあったんだろ?どう?少しは良くなったのか?」
「え…あ…うん……大分…」
「起きれる?」
「うん…」


2人で寝室を出てリビングに向かう…前を歩く彼の後ろ姿を見ながら…何か違和感?

あれ?私…何か忘れてる???何だろう…なんかとっても大事な事があった様な……



「えーーー!!これあなたが?」

テーブルの上に煮込まれたビーフシチューとご飯があった。
彼が料理出来るなんて初めて知った…今まで料理してる所なんて見た事無かったし…

「これなら由貴も食べれるかと思ってさ。」
「ありがとう…ん…美味しい…」

一口食べてそう言った。
本当に美味しかったから…

「そうか?最近のレトルトは美味しいんだな。」
「は?レトルト?」
「そう。」
「あなたが作ったんじゃ無いの?」
「オレが作れるわけ無いだろ!買って来たの。」
「もう…褒めて損した。」
「何でだよ?用意しただけでも感謝だろ!」
「威張って言わなきゃ感謝ですけどね!まあ…でもありがとう…助かった…」
「そ?じゃあ今度お返ししてもらおう ♪ ♪ 」
「え?何?見返り狙い?」
「当然! 『 楠 惇哉 』 が看病してやってるんだぞ!当然だろ!もっと感謝してもいいだろ?」
「………はいはい…どうもありがとうございます。感激で涙が出そうです。」
「 『 はい 』 は1回だろ?」
「……はい…」

何だか…こう納得いかないのは……なんで???



「はぁ…さっぱり ♪ 」

お風呂に入ってさっぱりして気分が良い。

「大分調子戻ったみたいだな。」
「!!まだいたの?」

まさかまだ彼がソファに座ってるなんて思わなくて驚いた。

「何だよ!?ヒドイ言われ様だな…」
「だって…疲れてるんじゃないの?」
「そりゃね…」
「じゃもう自分の部屋に戻りなさいよ。私はもう大丈夫だから。」
「…由貴…」
「ん?」
「ちょっと…」

チョイチョイと呼ばれた。

「なに?」
「座って。」
「?」

言われるまま彼の隣に座った。

「あ!」

コテン!と彼が私の膝に頭を乗せて寝転んだ!!

「もう…図々しい!」
「ちょっとだけ…夕飯の支度してやっただろ…後片付けも…」
「チンしただけでしょ!指1本じゃない…」
ホントに大袈裟なんだから!
「なあ…」
「ん?」
「………」
「?」
「やっぱいいや…」
「何よ?言いなさいよ!」
「………」
「ちょっと!」
「鍵もう1つスペアある?」
「あるけど?」
「じゃこの鍵貰っとく。」
「え?何で?」
「念のため。オレの所の鍵持ってるだろ?お互い様で!」
「えー!?」
「口答えは許さない!さて…と…じゃあ帰るか。由貴も早く寝ろよ。」
「…うん…」

由貴が何か言いたそうな顔だったから…

「なに?」
「え…あ…ううん…」
「?どうした…」
「!!」

彼が起き上がったままで…すぐ目の前に彼の顔があって…
何でだか寝てて忘れてた事をいきなり思い出した!

「 !! 」
「?」

私…この人と…この人と…確か…

「由貴?」
「なっ…何でもない!」
「は?」
「き…今日はありがとう…」
「由貴?顔真っ赤だぞ?」
「!!」

覗き込まれて焦った!

「由貴?」

「……あ…あのさ…」

「ん?」

「あ…あなた…さ…」
「オレが?」
「わ…私に…」
「由貴に?」

「……した…でしょ?」

「した?何を?」

「何をって…その…」

私に言わせるのっっ!?

「おまじない?」

「ひゃっ!!」

そう言った瞬間彼の手が伸びて親指が私の唇を掠めて行った…

「…………」

私は両手で自分の口を抑えた。

「顔真っ赤だぞ…由貴。」
「誰のせいよ!」
「でもおまじない効いただろ?」
「効いた…の?コレ?」
「効いたんだろ?気持ち良さそうに寝てたし。」
「………」

確かに…楽にはなったけど…え?でもそれで納得していいの?

「でも…あれって…キス…でしょ?」
「おまじない!」
「違う!」
「じゃあキスでいいよ。」
「!!」

にっこりと微笑んだ彼の顔が…今まで見た事ないくらいの優しくて…素敵な顔だった。

え?素敵?

「…………」
「ホント由貴って初心だな。」
「やっぱりからかったんだ。」
「クスッ ♪ 」


本当はとんでもなく真面目にどんだけの勇気が必要だったか…由貴にはわからないだろうな…

全然平気で何も無かった素振りだからそこまでオレは意識されてないのかと

ちょっと落ち込んだけど…どうやら眠って記憶が飛んでたみたいだ…

何故だか今思い出したらしい…真っ赤な顔して…可愛い所もあるんじゃん ♪


「由貴〜 ♪ 」
「な…なによ…」
「何年振り?」
「何が?」

「 キ ス ♪ 」

「!!!バカ者っっ!!」

ブン!と振り上げた由貴の腕を掴んで捕まえた。

「!!」
「由貴…」
「あ!」

グイッっと引っ張られて…彼の胸に倒れ込んだ。

「ちょっ…」

「今度はオレにおまじない…」

「え?…なに?」

「オレの願いが叶います様に。」

「え?」
「ダメ?」
「…あ…あのねぇ…ふざけないで!」
「怒った?」
「…怒らないけど…ちょっと困る…」
「そう…怒ってないならいいや…」
「何がいいのよ?」
「こっちの話し!由貴 ♪ 」
「何?」
「もう少しここにいてもいいか?」
「いいけど…明日仕事平気なの?」
「由貴と一緒にいたい…」
「……ホントどうしたの?最近何か変よ?何かあったの?」
「何がどう変?」
「んー何だか浮かれてるし…機嫌良すぎだし…私の事すぐからかう…」
「だから好い事があったんだよ ♪ 」
「ずっと?」
「そうずっと ♪ 」
「フーン…それは良かったわね。」

「ああ…」



そんな事をその好い事の張本人が…

不思議そうな顔でオレの胸の上で聞いて来るから…

思わず塞ぎたくなる由貴の唇からやっとの思いで視線を逸らした。