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「…あ…」

頭がクラクラする…

「うっ……ンッ…」

あんまり激しくキスされるから彼の身体にしがみついた…

クチュクチュと舌が絡む音がずっと響く…もう力が抜けちゃう…




「…はぁ…はぁ…」

やっと彼が離れたけどまだ唇は微かに触れてる…

「…も…どう言う…つも…り…」

悔しいけど頭クラクラの息がはぁはぁの心臓がドキドキで…情けない!

「最初に言った…練習 ♪ これじゃ愛情表現しすぎかな?」

「…人の…唇…何だと…思ってるのよ…」

ほら!涙まで込み上げて来た!

「練習台 ♪ なに?泣くほど感激した?」
「もっ…!!バッ…!!」

殴ってやろうと思ったのに彼に手首掴まれてた!

「だから台本にそんなの無いって ♪ 」
「私のアドリブ!!」
「へえ…積極的 ♪ じゃあオレもアドリブ ♪ 」
「ちょっ…ストップ!これ以上したら…」
「したら?」

目の前に彼の顔があって…さっきから視線が合いまくってる…

「なんで…」
「ん?」
「何で急に…こんな事するの?」

「由貴が落ち込んでるから…」

「 ……… 」

「オレ以外の男の事で…」

「 !! 」

「由貴はオレのことだけ考えてればいいんだよ…
オレ以外の奴のこと考えるからそうやって落ち込むんだ。」
「は?」
「由貴…」
「なに?」

「オレがいつも由貴の傍にいるから…」

「え?」

「だから由貴はオレのことだけ考えて…そうすれば何も悩む事なんて無いから…」

「…………」
「由貴…」
「なに?」
「返事!」

「………承諾しかねます!ほらもう練習は十分でしょ?どいて!離して!
後は本当の相手としなさいよ!」
「由貴…」
「なに?」

「もう一度…キスしよう…」

「な…あ…だめ……」

口ではそんな事言って…でも彼を拒んでない自分がいる…

「由貴………ちゅっ……」

彼が触れるだけのキスをした…
そんなキスでピクンと身体が跳ねて舌の先で唇を優しくなぞられたら身体が痺れた…

「あ…」

そんな小さな声を出しただけなのに彼の侵入を簡単に許しちゃう…

「ンンッ…」

また…彼のいい様に自分の舌が遊ばれてる……

ああ…慣れって言うのは恐ろしい…

嫌悪感と生理的に無理!と言う感覚が無いから強引だけど
こんな事されても抵抗しなくなってる…

でも本当に…彼…どうしたんだろう…?



「……由貴」

どのくらい時間が経ったのか…彼が優しく私の名前を呼んだ。
私は俯いてた顔を上げて瞑ってた目をゆっくりと明ける。
目の前に満足げな彼の顔があった。

「……………」

私は無言のまま彼をジッと睨み付けた。

「顔真っ赤の涙目で見つめんなよ…可愛すぎるぞ由貴…」
「なんで?何でこんな事…」
「だから練習って言っただろ?他に何がある?」
「!!…他に…?」

私は言葉に詰まる…確かに他に…

「私をからかうため!どうせ付き合ってる相手もいない女だからって!」
「確かに由貴がどんな反応するか見てみたい気持ちはあったかな…」
「ほら…やっぱり…」
「怒った?」
「呆れた!人の唇軽視してるし私の気持ちも無視だし…次やったら許さないからっっ!」
「わかった。」
「!?」
「何?」
「ううん…やけに素直だから…」
「十分参考になった。」
「ホントに?こんな素人相手に?」
「それが新鮮。」
「…………」

「由貴…」

「何?」

「昔の男が忘れられないならオレが忘れさせてやろうか?」

「!!」

「どう?」

「……結構です!別に忘れられないわけじゃ無いから!」
「そう?思いっきり引きずってんじゃん…すぐわかるよ。」
「……自分の中でちゃんと消化したつもりだったのに…実際彼に会ったら
ちょっと動揺しただけだから…大丈夫だもの…流されたりなんかしないから…」
「そう…ならいいけど…」
「大体私のプライベートに首突っ込み過ぎよっっ!!」
「いけない?」
「は?」
「オレが由貴の心配したら?」
「……それは…」
「由貴だってオレの心配してくれるだろ?それと同じじゃん…何でオレだけダメなの?」
「別にそんな事言ってないじゃない…」

何で私の方が反省させられてるのよ?おかしいでしょ??

「とにかく!今日みたいな事はもうしないでね!じゃないとこの部屋出入り禁止にするから!」
「しないって言ったじゃん…しつこいな…由貴は!」
「しつこいって…誰のせいよ!!大体あなたがあんな事するから…」
「はいはい…もうわかったって!コーヒー淹れ直そうっと ♪ 」
「 『 はい 』 は1回!!」
「はい。由貴は?飲む?」
「飲むわよ!口直しに!」
「は?何それ?凄い屈辱なんですけど!?」
「そう?」
「あ!軽いなぁー!!オ・レ・とのキスシーンだよ?泣いて嬉しがる所だろ?」
「自惚れるなっていつも言ってるでしょ!!私は俳優の『 楠 惇哉 』 には興味無いの!」
「ふ〜ん…じゃあオレには興味あるんだ ♪ 」
「興味なんか無いわよ!ただ…」
「ただ?」

「手の掛かる幼稚な男!」

「はあ!!??何だよそれ!!」

「言葉通りでしょ?やっぱり年下はダメね!」
「だから年下って言っても2ヶ月だろっ!!たったの!!」
「その2ヶ月の違いは大きいのよ!」
「屁理屈言うなっ!!」



そんな小さな小競り合いを繰り返しながら…

由貴の落ち込んだ顔が無くなって笑ってくれてる…


セリフの稽古なんてあんなのどうでも良くて…たまたま次の台本が使えそうだから使ったまで…

次はこの手は使えそうに無いけど…どうやら嫌われる事は無さそうな気配…

由貴と本気でキスしてるのにからかってる素振りを見せるのはなかなか難しいけど…

何とか上手くいってるらしい…


稽古でキスを迫るのはダメだと言われたから…次からは…


由貴とキスしたいから……って正直に言ったら…


  由貴はオレと………キスをしてくれるのか?