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「まったくあの男は…」
「何?柊木さんまた惇哉君の事?」
「え?あ…いえ…」

事務所で仕事中に呟いてた独り言がかなりの大きさの声だったらしい…

「仲いいわよね…2人って。」
「いえ…仲がいいなんて…」
「柊木さんって確か惇哉君と同じマンションなんでしょ?」
「え?あ…はい…階は違いますけど…」

隣同士なんてのは皆には内緒…変な勘ぐりされるのは勘弁して欲しいから。

「はい。大藪エンタープライズです。」
そんな話をしながら寺本さんが掛かって来た電話に出る。
「あら噂をすればですね…お疲れ様です。
え?違いますよ…良い噂です…それより柊木さんですか?代わりましょうか…」

え?!もしかして…彼?いいから!話しなんて無いから!

「え?違う?社長ですか?はいいらっしゃいますけど…え?ええっっ!?
三鷹さんが倒れたぁ!!!」

「 !!! 」

事務所の中にいた全員が驚いた!




「大丈夫ですか?」
「はは…面目ない…」

仕事が終わった後事務所の女の子皆で病院に寄った。

「しばらく入院して検査の結果次第で手術になるらしいです…」
「そんなに酷いの?」
「胃腸がやられてるらしくて…」
「それなのに何でそんなに太ってんだか…」
「ちょっと!余計な事言わない!」

彼の腕を肘で小突ずいた。

「しばらく皆には迷惑掛けるけど…惇哉君の事お願いします。」
「ガキじゃ無いんだから…大丈夫だよ。」
「本当に惇哉君には申し訳ない…」
「いいって…こっちも無理させてたし…ゆっくり休んでしっかり治せよ。」
「ありがとう…」

ベッドに横たわって点滴を受けてる三鷹さんはとっても痛々しかった…



「惇哉君はまだ仕事残ってるのよね?」

「ああ…ちょっと抜けさせてもらっただけだから…」

病院のロビーの入り口の前で女の子4人彼1人が立ち話。
時々横を通る人が彼を見て驚いてる…まあそうよね…

「残念!たまには一緒に飲みに行きたかったなぁ〜」
「はは…また今度。」
「じゃあたまには女の子だけで行きましょうか!」
「賛成〜!柊木さんも行きましょうね!」
「えっっ!?」
「だって普段付き合い悪いんだから!酔った柊木さん見てみたい ♪ 」
「そ…そんな…たいしたモノじゃ…」
「いいから ♪ いいから ♪ 」

ガシッ!!っと両脇を抱えられた!

「そ…そんな逃げませんから……」
「ふふ ♪ ♪ 逃がさないわよ〜じゃあね惇哉君!また明日〜 ♪ ♪ 」
「ああ…気を付けてね ♪ ♪ 」
「…………」

チラリと見た彼の顔は何事も無く…にっこりと笑ってた…けど…

笑顔だったのに……まるで作った笑顔みたいで冷たい感じがした…




「ねえ彼女達一緒に飲まない?」

「え?」

彼と別れた後居酒屋に入って女4人でワイワイ飲んでたら隣の席で飲んでた
数人の男の子(大学生らしき年齢だったから…多分年下?)が声を掛けて来た。

「こっち男ばっかでさぁ〜いいでしょ?なんか俺たち気が合いそうだし ♪ 」
「え〜…でもこっちも久々に女同士で飲んでるんだよね…」
「いいじゃんいいじゃん ♪ 仲良くやろうよ〜〜 ♪ ♪ 」
「…………」

図々しくも勝手に席に割り込んでくる。
ちょっと…狭いし近いし……馴れ馴れしく触らないで!!!

「彼女達可愛くて綺麗な人ばっかじゃん ♪ もしかしてOLさん?」
「…そうだけど…ちょっと誰も座って良いなんて言ってないけど?」
「まあまあそう固い事言わないでさぁ〜お!こっちの彼女メガネ最高!
俺メガネ好きなんだよねぇ〜それにいかにも真面目の顔がいいなぁ〜」
「…………」

ガバッと肩に腕を廻された!それにお酒臭いしタバコ臭い!!!
その瞬間鳥肌が全身を覆った感覚がした!

「ちょっ…馴れ馴れしく触らないでっっ!!」

露骨に男の人の腕を振り解いた。

「え?何テレてんの?ますます可愛いなぁ〜ホント俺好み ♪ 」

「……!!」

頬を指でつんつん!ってされたっっ!!!

「………」
「あれ?大人しくなったね?感じちゃった?」
「ちょっとあなた達もう向こうに行ってよ。何か失礼よ!その態度!!」
「そう?緊張を解してあげようとしたんだけどなぁ〜なあ!」
「そ!さあ飲もう飲もう!」
「ちょっと…あんた達…」

私達は一瞬顔を見合わせてちょっと困ったなって思い始めてた…そしたら…


「お待たせーー ♪ 遅くなってゴメン !」

「 !!! 」

そんな声がして振り向いたら…彼がにっこり笑って手を上げてた…

何で?何で彼がココに??

「惇哉君!どうして…」

皆も知らなかったみたい…

「仕事早く終わってさオレ達も一緒に飲もうってなって皆連れて来ちゃった ♪ ♪ 
ん?誰?この人達は?」

「え?あ…隣で飲んでた人…勝手に座っちゃって…」
「ふーん…君達の席は隣だってさ。オレ達一緒に飲む約束してたから退いてくれる?」
「あんた… 『 楠 惇哉 』 ?」
「は〜い ♪ 初めまして ♪ 悪いけど君達早く退いてくれる?連れが気が短いから危ないよ ♪ 」

「 え? 」

一斉に皆が彼の後ろを向く。

「 !!! 」

彼の後ろに7.8人の男の人がいてどれも見た事のある役者さんの顔…
確か…元ヤンキーと噂の高い 『 鏡 レンジ 』 さんと
数々の武勇伝のある 『 七瀬 優二 』 さんの顔も…

「何?オレ等の相手に手ぇ出してんの?」
「いいから早く酒飲もうぜ!仕事終わってからずっと我慢してんだからさ!
早く席空けろよっ!!お前ら隣なんだろ?オラ!図々しいんだよっ!!」

人数的にとオーラ的に敵わないとわかった彼等は早々に店を出て行った。

「何も帰る事無いのにな。」
「レンジが睨むからだろ。」
「俺は早く酒が飲みたかっただけだ!よしっ!!飲むぞっ!!今日は惇の奢りだからな!
ジャンジャン飲む!!」
「どうぞ ♪ 好きなだけ飲みなよ。」
「…………」
「?どうしたの?寺本さん?さっきから震えてるけど?」
寺本さんがさっきから両手を胸の前で握り締めて震えてる?

「あ…あ…あたし……鏡さんの大ファンなんですぅ〜〜 ♪ ♪ いやぁ〜〜ん ♪ 嬉しいぃ〜〜 ♪ 」

もう目からハートが飛び出してる!?

「へえ…良かったじゃんレンジ。こんな可愛い人がお前みたいなののファンだってさ。」

彼がお酒の入ったグラスを傾けながらからかう様に言う。
誰相手でも直ぐにからかうねの……

「うるせぇ惇!分かる奴にはわかるんだよ。」

それからは皆で大盛り上がりで盛り上がった。


「…ねえ…」
「ん?」

しっかりと私の隣に座ってる彼に話し掛けた。

「どうしてここにいるってわかったの?」
「ああ…祥子ちゃんにさっきメールで聞いてたんだ。オレも飲みたかったし…」
「こう言う席って好きなの?」
「え?ああ…昔は毎晩の様にこんなんだったよ。でも今日は…」
「?」

「由貴と一緒に飲みたかったから…今まで外で由貴と飲んだ事無かったろ?だから…」

「ちゃんと仕事終わらせて来たんでしょうね?」
「当たり前だろ。オレ仕事とプライベートはちゃんと分ける男なの ♪ 」
「ならいいけど……」
「…由貴…」
「ん?」
「あいつ等に変な事されなかったか?」
「……うん…」
ちょっと頷くのに間が出来ちゃった…
「?あ!何かされたんだろ?」
「別に…そんな大した事じゃ…」
「何だよ…言えよ!」

そんな会話を皆に気付かれない様にヒソヒソ話してた…
って言っても皆盛り上がっててこっちの事なんて見てないけど…

「…肩…組まれて…頬をちょっと触られた…くらい…」
「それってくらいじゃ無いだろっ!!くらいじゃ!!!」
「だ…だって…避けようが……」
「ったく……メガネ萌ってのは何処にでもいるんだな…ちっ…」
「は?」


それから彼はまったくその話には触れなくて…皆と盛り上がって騒ぎ始めた。