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「…はっ!」

目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

「!」

起き上がろうとした身体が重い…

「ああ…」

いつもの如く彼の腕が私の身体に巻き付いてる。

「ちょっと…」

起きれないから困るんだけど…
でも鍵が無いから私にはどうする事も出来なくて…
彼に起きてもらわないと何も支度が出来ない。

だからこの寝方って彼にとって不便だと思うんだけど…

まだ起きるには時間があったからそのままベッドの中で大人しくしてた…
彼はまだ気持ち良さそうに眠ってる…

彼のゆうべの言葉… 『 見方を変えないとわからないかもな… 』 って…

「見方を変える…ねぇ…」

じっと彼の寝顔を見てた…寝てるくせに整った顔…

「一体何人の女性がこの寝顔を見たのかしらね…」

だからもっとちゃんと相手をしてくれる人と付き合えばいいのに…


ち く ん !


ん?今…なんか?





「……惇哉さん起きて…」

普通に言ってみた…反応無し。

「惇哉さん起きて…」

耳元で囁いたらちょっとだけピクンとなった。

「惇哉さん起・き・て・ ♪ 」

そう言って彼の唇を人差し指でつっついたら目は瞑ったまま口元がクスッっと笑った。

起きたらしい…

「あ!」

彼が私の首筋に顔をうずめてスリスリするから…

「いい加減に起きなさいってのっっ!」
「イテッ!」


バシリ!と頭に1発入れたら流石に起きた。



「何だよ…誘うから乗ってやったのに…」

「からかっただけよ!いつもからかわれてばっかりじゃ癪に障るから。
これ外して!支度出来ない。」

手錠に繋がった手を少し動かした。

「…………」

彼が座ったまま動こうとしない。

「?」
「答え出た?」
「考えてない。」
「何で?」

「必要無いから。私はお母さんにあなたの世話役を頼まれて…
社長からあなたのマネージャーをする様に言われただけだから…
私はそれをこなすだけだもの…」

「……人に言われたからオレの傍に居るって事?」
「だって最初からそうだったじゃない…」
「…………」
「なに?」
「…いや…」

またフリダシか…まったく…

「じゃあこうやって一緒にいるのも苦痛?」
「別に苦痛ではないわよ…」
「一緒に1つのベッドで寝るのは?」
「…出来れば止めて欲しいけど…鳥肌はたたないかな…」
「鳥肌?」
「前に居酒屋で隣の席の男の人に絡まれた事あったでしょ?
あの時は傍に来られただけで鳥肌がたっちゃって…」

オレとそんな男を同じレベルで比べるのか…

「だから慣れって怖いわね。」
「怖くない!それは慣れじゃなくて由貴がオレを受け入れてるって事じゃないの?」
「!!」

由貴がとんでも無く驚いた顔をした。

え?もしかして今気付いた…とか?


「と…とにかく鍵!」

焦ってる…

「くすっ…」
「!!何で笑うのよ!」
「やっぱり由貴っていいなって思ったから…」
「?どう言う意味?」
「色んな意味。」
「!ちょっ…」

彼の腕が伸びて抱き寄せられた。

「だからこう言うのやめてってば…他の…ちゃんとあなたの相手してくれる人としなさいよ…」

「…………」

近付くと逃げる…本当手が掛かる……

「だって今は由貴しかいないじゃん…」
「私で間に合わせないで…」
「…………」
「?」

彼がじっと動かなくなった…

「 こんなにも好きなのに何でわかってくれない… 」

抱きしめられた耳元に囁かれた…

「え?」
「って次のドラマのセリフがあるんだ。だから練習…」
「…そうなんだ…」
「焦った?」
「まさか…だってあなたが私にそんな事言うはず無いもの…」
「……………」


オレは由貴に好きと言わない…

いや…言わないんじゃなくて言えないんだ…

オレ…由貴にオレの事が 『 好き 』 って言ってもらえる自信が無い……

こんなに親密な関係でも…どこか由貴にはかわされてて…本気にされていない…

でもだからってこっちが本気を出すと由貴はオレとの間に距離を置く…



「手出して…」
「え?玄関じゃないの?」
「同じ場所に隠す訳無いだろ…」

そう言って彼は枕の下に手を入れて引き出した時には小さな鍵を摘んでた。

「え?昨夜から…鍵そこにあったの?」
「あったよ。」

素知らぬ顔で手錠の鍵を外しながら彼がそんな事言うからカチン!と来た。

「あ!カチンと来たんだろ?」
「わかる?」
「わかるよ…由貴の事なら…何でも…」
「…じゃあ今私はどんな気持ちだと思う?」
「オレに1発入れたいと思ってる ♪ 」
「正解!」

ブンと飛んで来た由貴の腕を掴んだ。

「甘い!」

更にもう片方も飛んで来たからまた掴んだ。

「お手上げだろ?」

ブンと頭突きが来たから後ろに避けた。

「ホント由貴って甘い。」
「んっ!」

自分から近づいて来た由貴の口をお仕置きとばかりに奪った。

「ウーーーっっ!!」


ベッドに押し倒して両腕は押さえ付けてるから由貴は抵抗出来ずに
オレにされるがまま…ああ…気分いい ♪


「プハッ!ちょっ…!!」

大分経って由貴から離れた…由貴の顔が真っ赤だ。

「抵抗しなければわかるって言っただろ?」
「…はぁ…はぁ…」
「由貴!」
「な…なによ!」
相変わらず強気…顔真っ赤のクセに。
「お腹空いた!朝飯早く作って ♪ 」
「!!」


この男はぁーーー!!ニッコリ笑ったって許さないんだから!!





「由貴!何でソコ?」
「前言わなかったかしら?男性の運転する車に乗る時は後部座席に乗るようにしてるって。」
「それはオレには適用しなくていいんだよ!それに由貴はマネージャーだろ?」
「そうだけど…」
「何でそんなに警戒するんだよ。」
「セクハラの常習犯なんだから警戒するの当たり前でしょ!」
「オレと由貴の間でセクハラなんて無いんだよ!いいから助手席に乗って。」
「…………」

「由貴!オレが助手席に乗ってって言ってる。」

「…ちょっとでも触ったら別々に行きますからね!」

「はいはい。」
「 『はい』 は1回!」
「はい。」

仕方なく彼の車の助手席に乗った。
私が免許を持っていないから電車がタクシーで事務所に行こうと言ったら
『ならオレが運転していく!』 って言い張って…

「免許持ってたのね…」

シートベルトを締めながら今更の様に聞いた。

「前は良く運転してたけどね…」
「大丈夫なの?あな…惇哉さんが運転してる所なんて初めて見るかも!」
「任せなさいって!上手いもんだよ。これからはオレの運転で移動するから由貴は助手席な。」
「え?いいの?」

「由貴とドライブできるし2人っきりになれるからオレはその方がいい ♪ 」

「でも無理しないでよ。私は免許持ってないから代わってあげられないんだから…」
「大丈夫だって ♪ 由貴 ♪ 」
「な…なによ…」
「今日からよろしく ♪ オレも由貴が1日でも早く仕事に慣れる様に協力するから。」
「うん…ありがとう…」

彼が急に真面目な顔で言うから…私も真面目に返事をした。

「マネージャーの初仕事のお祝い ♪ 」

「あ!ちょっと!!」

「遠慮しないで受け取って…由貴…オレの心からの贈り物だから…」

「や…待っ…」

「由貴……チュツ…」

「ん…!」


がっちりと両手で顔を押さえられてまたキスされたぁーーー!!

もう!!人で遊ぶのはやめて欲しいっ!!




車の中で彼はずっと上機嫌だった。

心配してた車の運転も本人が言う様になかなかの腕前で安心して乗ってられたし…

仕方なく引き受けたマネージャーの仕事…

生まれて初めての事でちょっと不安もあるけど引き受けたからにはちゃんとこなしたい…

ただ…仕事以外の心配事の方がかなりの部分をしめてるのはわかりきってる事で…



そっちの方が上手く乗り切れるかどうか……心配でしょうがない……