27
「由貴!」
「!!」
撮影の合間をぬって彼が私の所に近付いてくる。
「どうしたの?」
「今日は時間掛かるから由貴は先に帰ってろ。」
「え?でも…」
「オレは1人で大丈夫だから…」
「そんなに掛かるの?」
「多分…だからこれはオレの命令!マネージャーは役者の言う事聞く!わかった?」
「…でも他の人達だって…」
「オレが帰れって言ってる。」
「!!……わかった…」
「夜道危ないからタクシーで帰れよ。」
「わかったわよ…」
それだけ言うと彼は足早にセットの方に戻って行く…
私は何でだか気持ちが宙ぶらりんの様な感覚で…変な気分だった…
彼の言う通りタクシーでマンションに戻った。
彼がいないから自分の家に帰る…
「はぁ……」
慣れないのもあるけど何だか疲れた…
時計はもう11時を廻ってる…それでもまだ彼は帰れないんだよね…
「とりあえずシャワー浴びよう…」
沈んだ気持ちでシャワーを浴びてソファにドッサリと座った。
コテリとそのまま横になったけど…ああ…髪の毛乾かさなきゃ…
なんて思ってムックリと起き上がって自分の部屋に向かう…
自分の部屋で髪の毛を乾かした後またソファに戻った。
まだ彼が帰って来てないのにベッドで寝る気にならなくて…
時計はもうすぐ1時になる…
「こんなに遅いのなんて珍しいわね…」
そんな事を思いながらクッションを抱えてぼーっとしてたらウトウトとしてくる…
寝ちゃダメだと思いながらいつの間にか私は眠り込んでた。
車を駐車場に停めて自分の部屋の玄関に着いたのは
腕時計の針が1時を少し過ぎた所だった。
「あれ?」
入った玄関に由貴の靴が無い。
「いないのか?……由貴?」
寝室にはいなかった…リビングも電気が消えてて由貴はいない…
「自分の家か……まあ仕方無いか…」
オレはちょっとガッカリ…
1番最初にオレの部屋にいる由貴に会いたかったのに……
「……ん…?」
何だか身体が 『 狭い 』 と言う感覚を教えて来る。
「なに?」
「ただいま由貴…」
「え?…惇哉さん?帰って来たの?」
「何でオレの部屋で待ってない?」
「…だって…1人だから…」
「オレはベッドに入って待ってて欲しかったな…」
そんな会話を彼はソファで寝てた私を背中から抱きしめながらしてる…
大人2人が寝るには幅が狭いから彼がものすごく私に密着してる…
だから狭いなんて感覚がしたんだ。
「!!冷たい…」
顔に濡れた何かが当たった。
「ああ…ごめん…髪がまだ濡れてるから…」
「乾かしてないの?」
「うん…面倒くさい…」
「乾かそうか?」
「いい…今は由貴とこうしてたい…」
「………」
2人で黙って…しばらくソファで横になってた…
「由貴…」
多分彼が持って来たんだと思うけど…私の部屋の掛け布団が掛かってた…
「……なに…」
「由貴……」
2度由貴の名前を呼んで背中越しに顔を覗き込みながら
由貴の顎を軽く指先で持ち上げてそっと唇を近付けた…
あれ?抵抗しない?
思わずそのままの勢いで由貴の唇を奪う…
「ちゅっ…」
「……ん……」
舌を滑り込ませたらいつもと違ってすんなり受け入れられた…どうした?
そんな戸惑いを感じながらもオレは由貴とのキスを繰り返す…
「…ふ…ンン…」
由貴が慣れないキスの合間にこれまた慣れない息継ぎをする…
由貴はキスをしながら息が出来ないんだよな…可愛い ♪
慣れて無いって事はそれだけ経験が無いって事で…相手がいなかったって事だ。
ずっと由貴の顎を押さえたままだけどそっと手を添えてるだけだ…
拒まれなくてどんどんその気になる…
由貴の首の下に腕を入れてオレの方に引き寄せて深い深いキスを繰り返す…
もうどれだけの時間由貴とキスをしてるんだ…何で嫌がらないんだ?
「……ちゅっ」
散々由貴とのキスを堪能してやっと由貴を離した。
「ん…はぁ…はぁ…」
由貴が目を瞑ったまま浅い息を繰り返してる…ホント息するの下手だな…
「由貴…」
「…はぁはぁ…」
「由貴……何で嫌がらない…?」
思わず聞いてしまった…まあ理由は何となく分かってたけど…
「別に…」
「どんな心境の変化?」
「……」
「由貴!」
「あなたの…真似しただけ…」
「オレの真似?」
「……」
由貴がオレから視線を外してそんな事を言い出した…オレは意味がわからない?
「どう言う意味?」
「……」
「由貴!」
由貴の顎を掴んでオレに向かせた。
「遊びだと思えば…どってこと…無いもの…」
「は?」
由貴は何を言ってるんだ?
「遊びって何だよ?」
「…遊びは遊びよ!あなたにとってキスなんて…私とのキスなんて遊びでしょ!」
「……由貴………何だよ?何怒ってんの?」
「別に怒ってなんかいないわよ!」
「嘘つけ!どうみても怒ってるよ。」
「怒ってないっっ!」
「…意地っ張りだな…」
「意地なんて張ってない!」
「ふーん…まあいいや…じゃあ遊びって思ってるならまた遊んでもらおっと ♪ 」
「え?」
「由貴!オレと遊んで ♪ 」
「ええ!…うっ!!!んぐっ!!」
さっきよりも更に激しく濃厚に由貴とキスをした。
舌の絡み合う音も半端ない…
クチュクチュとイヤラシイ音が静まり返ってるリビングに響いてる。
「…ン…ンン…」
あんな事言ってた由貴が慌て出してる…でもオレは止めない…
だって今オレは猛烈に嬉しいから…
由貴とキス出来てる事も嬉しいけどそれ以上に由貴の態度が嬉しい。
由貴の態度が変になったのはオレが昔遊びで女の子とキスしてたって真理に聞いてからだ…
それを聞いて自分とのキスもそうなんだと思って怒ってる…
由貴自身はわかって無いらしいけど…
まあいつもの由貴の考え方なら当然と言えば当然だ…
でもそれって由貴の中でオレを意識してくれてるって事だよな…
どうでもいい相手なら気にしないでいつもみたいにオレとのキスを嫌がるか
遊びで女の子とキスしてたのを知って呆れるはず…
なのに由貴は怒ってる ♪ 由貴……
オレは何もかも忘れて由貴とのキスをずっと続けてた…
ああ…何だかオレしあわ…ゴ ン ッ ッ !!
「…!!いってっっ!!」
頭に衝撃が走って星が見えた!
「!!??」
なんだ?何が起こった??
「いい加減に…ハァハァ…しなさいよっっ!!し……つこいっっ!!」
「由貴?」
由貴の右手の握りこぶしがワナワナと震えてる。
あれで殴られたらしい…相変わらず手加減しないんだから…
「ヒビ入ったらどうするんだよ!!」
「いっその事脳震盪で気絶しちゃえばいいのよ!…あっ!ちょっと!」
負けずに由貴を背中から抱きしめた。
「由貴 ♪ 今日は2人でここで寝よう ♪ 」
「ここでって…ソファで?」
「うん。」
「だって狭いし寝心地だって…」
「オレは由貴と密着して寝れるから構わない。」
「朝身体が痛くなっても知らないわよ?」
「大丈夫……」
「もう…子供みたい…」
「言っただろ…オレは由貴で癒されるって…」
「ちょっとくすぐったい…」
目の前の由貴の項に頬ずりした。
流石にこのソファの上で由貴と向き合って寝るのは苦しい…
「由貴…」
そのまま由貴の耳元に口を動かして囁いた…
「おやすみ…」
「ひゃん!」
由貴がそんな声を出して身体がピクンと跳ねた。可愛い ♪
「おやすみ…」
もう一度普通に言った。
「……おや…すみ…あ…何時に起こせばいいの?」
「今日頑張ったから明日…ああ…もう今日か…9時にスタジオ入り…」
「じゃあ7時で間に合う?」
「うん…」
「わかった…おやすみなさい…」
しばらくすると由貴の小さな寝息が聞えて来る……
由貴……オレちょっとは自惚れても…いいのかな…
由貴の身体を抱きしめながら……そんな事を思ってた……