28
「……ん…」
あっという間に朝が来た…
起きたらソファにオレ1人…オレの腕の中に由貴がいない…
やっぱり手錠で繋いでないと由貴はすぐオレを1人にする…
由貴は平気なんだよな…
「……痛い…」
由貴が言った通り首が痛くなった……でも由貴には内緒だ…
「由貴……由貴!由〜〜貴〜〜!!」
リビングのソファから大声で呼んだ。
「もうウルサイ!今朝ごはんの支度してるんだから……プッ!やだ……」
「ん?」
文句を言いながらリビングに入って来た途端由貴がいきなり吹き出した。
「何だよ?」
「だって…髪の毛…笑える…くっくっ…」
「は?」
言われて触ってみたらとんでもないくらい髪の毛が跳ねてた!
「げっ…」
「乾かさないで寝るからよ。」
言いながら由貴がオレの跳ねた髪の毛を摘む。
「抱かれたい男も形無しね…くすっ…」
「機嫌直った?」
「何が?」
「昨夜は怒ってたから…」
「だから怒って無いって言ってるでしょ…」
「そうかな…」
「頭濡らした方が良いんじゃない?」
「…うん……由貴。」
「 !! 」
由貴が腕を組んで引き攣った顔でオレを見てる。
「一体何のつもりかしら…惇哉さん?」
オレが両腕を広げて由貴を待ってるから。
「いやぁ…飛び込んで来て欲しいなぁ〜っと…」
「飛び込みませんから!まったく朝からバカな事止めなさいよね!早く支度して。」
「あ!……ちぇっ…」
由貴がサッサとキッチンに戻って行く……まったくはこっちで冷たいよな…由貴は…
でも………
由貴が笑ってくれた…オレは…それで満足だ。
「後で乾かしてあげるから先に食べちゃって!」
「ああ…」
濡らした髪を拭きながらキッチンテーブルで朝食にありつく…
何だか新婚みたいに思えて顔がニヤつく。
「もう朝ごはん食べながらニヤけるの止めてよ…気持ち悪いじゃない…」
「あのな 『 楠 惇哉 』 に向かって失礼な事言うな。」
「私にはただの髪の毛濡らした男よ。しかも手の掛かる。」
「水もしたたるいい男だろ!由貴の目は節穴か?まったく…」
「本当…あなたが人気があるなんて信じられないわ…」
「マネージャーがそう言う事言うな!」
「臨時だから!臨時!もう急いで!時間が…」
「じゃあ髪乾かして。」
「!!…ほら…やっぱり手の掛かる男じゃない。」
「由貴に構って欲しいの ♪ 」
「子供じゃあるまいし…」
そんな文句をブツブツと言いながら由貴がドライヤーを取りにイスを立った。
「ん!」
同時にオレの携帯が鳴った…あ…満知子さん?
由貴がオレのマネージャーになったのをオレと結婚したぐらいの勢いで喜んでくれてたけど…
本当に由貴と結婚したら満知子さんどうなるんだろ?
「ん?……へえ…マジ?」
送られて来たメールに目を通してそんな事を呟いた。
「ん?どうしたの?」
「いや…メルマガ。」
「そ…じゃあこっち来て。」
「ハーイ。」
「もう…本当子供みたいな返事。クスッ…」
由貴の暗い顔の原因がいくらオレで…
もしかしてそれがヤキモキだったとしてもやっぱり由貴には笑っていて欲しいと思う…
ふと 『 結婚 』 と言う言葉が頭の中を過ぎってる…
まだずっと先の事だとは思うけど…最終的にはそうなりたいと思う自分がいて…
由貴を自分のモノにする事ばっかりに気を取られてそこまで思い付かなかった。
「やだ…またニヤけてる…」
「いい事に気付いたんだ ♪ 」
「どんなこと?」
オレの髪を乾かしながら由貴が横からオレを覗き込む。
「由貴には内緒!いずれ話してあげる。」
「え?何よ…」
そう言ってキョトンとしてる由貴に向かって…
オレはニッコリと笑ってあげた。
私が彼のマネージャーなって早1週間…毎日が目まぐるしく過ぎて行く。
ドラマ撮影は毎日の事で最終回に向けて深夜までの撮影も当たり前になった。
私はそんな彼の撮影の合間に他の仕事の打ち合わせや挨拶や
入院中の三鷹さんを訪ねてアドバイス貰ったり…もうクタクタ…
プラス彼の面倒まで見て…違った疲れも襲ってくる…
結局ベッドを準備する時間も無くて…かと言って自分の部屋に戻る事を彼が許してくれなくて…
私も言い合うのが面倒くさくてこの1週間…彼のベッドで一緒に寝てる…
だって彼が忙しいのが分かってるから文句が言えないのよね…
「……はぁ…」
今日は何だかとんでもなく疲れた…
仕事的には普段と変わらないと思うけど休み無しの1週間の仕事は慣れないせいか
身体と神経のピークが来てるみたい…
明日の朝の準備と寝る準備を整えて彼よりも先にベッドに倒れ込んだ。
もう彼の事なんて構ってられなくなってる…
とにかく横になりたい!
「………すぅ…」
横になった瞬間睡魔が襲う。
「由貴?」
「…………」
「由貴…」
無防備にベッドで由貴がもう眠ってる…
「何だよ…つまんないじゃんか…」
最近の由貴は家でやる事をサッサと片付けてサッサと寝る。
オレの相手もしないで…
由貴を跨ぐ様に四つん這いでベッドに乗る…由貴はまったく気付かない…
「疲れてるのか…仕方ないけどさ…」
慣れない仕事で休み無しだもんな…
オレの面倒もみて…ご飯の支度から洗濯なんかもしてるし…
ホントに 『 主婦 』 みたいだ…
「オレの奥さんみたいだって言ったら由貴怒るだろうな…」
指先で由貴の頬を撫でた…
「ピクリともしないな…もう熟睡?」
指先で唇を撫でた…やっぱり動かない…
「ちゅっ…」
キスをして抵抗の無い由貴を舌で攻めた…けどすぐ離れた。
「うーん…何の反応も無くてつまんない…まったく…そこまで熟睡するなよな…」
由貴の前髪をグシャリとして苦笑いだ。
「話もあったんだけどな…明日でいいか…」
眠ってる由貴を抱きしめてオレも眠りにつく…
最近の由貴はベッドを用意しろって言わなくなったし自分から
オレのベッドで寝てくれる様になったから…オレは大満足だ。
「おやすみ由貴…ちゅっ ♪ 」
触れるだけのキスをした。
「…ん…」
あ!今度はちょっと反応してくれた ♪
「……ふあ………ん〜〜〜あ!」
目が覚めてノビをしたらすでに起きてた彼とバッチリ目が合った!
「おはよう由貴。」
「お…はよう…」
「良く眠れた?」
「うん…あ…ごめんなさい…」
「何が?」
「先に…サッサと寝ちゃったから…一応ここ…あな…惇哉さんのベッドなのに…」
「別に今更だろ?オレは気にしてない…それに由貴が疲れているのわかってるし…
それよりいい加減すんなりオレの事 『 惇哉さん 』 って言えないの?」
「だって…」
まだ恥ずかしいんだってば…
「まあいいけどさ…名前で呼んではくれてるんだし…」
いいなんて思ってないんでしょ……改まって私に言うって事は…
「さて…目も覚めた事だし朝ごはんの支度でも…」
「まだいいって!」
「え?」
起き様とした私の身体に彼の腕が廻されてベッドに引き戻された。
「まだ起きるには早いじゃん…もう少しこうしてよう…由貴…」
「でも…ぐっすり寝たから…」
「由貴!オレがまだ寝てようって言ってるだろ?」
「…わかったわよ…」
私は渋々と元の場所に収まった。
「あの…」
「ん?」
「腕…外して…」
「え?何で?」
「だからセクハラだってば…」
「1つのベッドで寝てるのに?今更だろ?」
「だってそれは…」
「由貴…」
私の文句を遮る様に彼が話し出した。
「…何よ…」
「今日の仕事はオレ1人で行くから由貴は事務所で待機してて。」
「は?」
珍しい…彼が自分から私を遠ざけるなんて…
「どうしたの?そんな事珍しいじゃない…私何か仕事で失敗した?」
「いや…」
「じゃあ…何で?」
「何ででもだよ!」
「だって変じゃない…今日の仕事って…?」
頭の中にスケジュール帳を開く…確か今日は…
「あ…」
思い出した…
小西さんの会社の仕事だ…確かコーヒーのCMの仕事…
「そう言う事?」
「……だから由貴は行かなくていいから!」
「何で?私は平気よ。」
「……」
オレが嫌なんだよ!
でも…そんな事正直に言えないし……
「行きますからね!」
「…ちぇっ」
「何よ!その舌打ちは?」
「由貴にはわからないよ!」
「?」
「由貴…」
「ちょっ…苦しい…」
彼が力任せに私を抱きしめるから…苦しい!!!
「由貴……」
「な…によ…もう………もう少し力…緩めて!」
「何かあったら…オレの所にすぐ来いよ。」
「何かあったらって?」
「何かだよ!!もう…鈍感な由貴にはわからないよ!!」
「??何よ?何1人で怒ってるの?それに彼が現場に来るかなんて分からないじゃ無い!」
「いや…来るよ…あいつは…」
「何でわかるの?」
「何ででも…オレの直感!」
そう…あいつはきっと来る…
由貴が目当てと言う訳じゃ無いだろうけど…何となくそう思う…
だから由貴は遠ざけておきたかったのに…
融通を利かせろっての!まったく…