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歌手の花月園美雨と知り合ったのはオレがハタチになったばっかりで彼女が22の時…

由貴はオレの部屋の隣に引っ越して来たばかりで…
親しくなる前だったから殆んど由貴とは接点は無かった…

誰の紹介と言う訳でも無く…何処か皆で飲んでた場所で意気投合した。

その日のうちにあっさり身体の関係が出来て……
でもそれはお互いが相手の事を好きだからとかじゃ無かった気がする…

気に入ってたとは思う…でも盛り上がってお互い初対面の相手でも寝る事に気兼ねしないタイプで…

ただ楽しかったからか…


時間が合えば何処かのホテルで落ち合って一緒に過ごした…

抱き合えればお互いそれで満足だった…

そんな関係が半年ほど続いて…お互い仕事が忙しくなっていつの間にか会う事がなくなった…

自然消滅と言えるのか?
オレとしては付き合ってたのかも疑問で…確かに彼女はオレに好きだと言ってた…オレは…

オレはそう言われると 『 ありがとう 』 と言ってた気がする…


好きと言う言葉をせがまれた事もなかった…

彼女は 『 好き 』 と言う言葉を相手に言うのが好きだったらしいから…

会う度に身体を重ね合って…彼女はオレを好きだと言ってオレは拒絶しなかった…

やっぱりそれは…付き合ってたと言えるんだよな…

彼女は変わらず…今までのオレを責めもせず…
ちゃんと1度はオレとの間は終わったと受け入れてる…

今まで会わなかったかと言えば嘘になるけどお互い割り切ってさっぱりしたもんだった…

でも…何で今このタイミングで彼女がオレの目の前現れるんだ?

せっかく…由貴との距離が縮まりつつあるのに……





「…………」

シャワーを浴びた由貴がソファに座りながら上の空で濡れた髪をタオルで拭いてる…

その動作はただ腕を動かしてるだけで…無意識な動作にしか見えない…
だってそんな事をもう20分も続けてるから…

帰りの車の中でもオレの話に軽い相槌をうつだけ…
まあオレもそんなに話し掛けはしなかったから…お互い様か…

とにかくその後の遅くとった夕飯も食後のコーヒータイムも…何もかも!気まずい!!!

こんな事初めてかもしれない!!

また由貴がオレの事を気にしてくれてるんだと嬉しい反面…
今度のこの展開はマズイんじゃないかと…思うのはオレの気のせいか??


「…由貴…あの…」

ここは普通に…正直に…昔彼女と付き合ってた事を話せばいいんだ!
別に今はお互いなんでも無い事は今日のあの会話でわかってるはずだし…

オレは由貴の名前を呼びながら隣に座っ……うっ!!!

「飲み物……」

そう言って由貴がオレが座ったと同時に立ち上がってキッチンに入って行く…

なんで??オレ何も悪い事してないと思うんだけど?

元カノと会ったってだけで…しかも事務所で!仕事絡みで!皆の居る前で!!

なのに何でこんなに邪険にされる????

「由貴!!」

「ん?」

ペットボトル片手に由貴がキッチンからリビングを覗く。

「来て!」
「……なんで?」

何が 『 なんで? 』 だっ!!

「いいから!こっち来て!」

オレ命令だっての!

「……………」

もの凄い渋々顔だ…それでもオレの隣に座らせた…
気のせいかちょっとオレとの間のすき間がいつもより広い気がする…


「……由貴…」

「小西さんとはね…高校3年の時に付き合ってたの…」

「は?」

由貴がいきなりそんな事を言いだす…オレを見もせずに…


「初めて付き合った人で…知り合った時はとっても男らしくて…優しくて…
その頃私…母が喜ぶと思ってちょっと大人びた高校生してたから…
ほとんどの男の人が私の事イヤらしい目で見てたりしてたのに…
小西さんだけはそんな事なくて…とっても紳士的だった…」

「…………」

あの野郎…最初っから猫被ってたのか!?

「だからあっという間に私彼の事好きになって…付き合って欲しいって言われた時は嬉しくて…
その場でOKした…」

ズキン!っとオレの胸に痛みが走った……くそっ…

「それからは楽しかったな…2人で色んな所に出掛けて…色んな話して…」

「…………」

「でも…それも1ヶ月しか続かなかった…」
「1ヶ月?」
「そう…普段と変わった事なんてするもんじゃ無いわよね…
彼を驚かそうと思って彼の会社をこっそり訪ねたら浮気現場に遭遇しちゃって……」

「由貴……」

「浮気の現場を見たのもショックだったけど…それ以上にね…私なんかじゃ無くて…
『 有名な会社の社長の娘 』 って言う肩書きが彼は欲しかっただけだってわかった方が
ショックだった…それに高校生のお子様は趣味じゃ無いんですって…
そう浮気相手の女の人に話してた…ああ…浮気相手じゃなくて本命だったから…
その人が彼の彼女だったのよね…私の方が遊び…ううん…遊び相手以下か…
母の社長って言う肩書きが欲しかっただけなんだから……」

「…………」

由貴がワザと何でも無さそうに話してるのがわかる…
なんで?どうしてそんな話オレにするんだ?きっとオレに話すだけでも辛いと思うのに…

「由貴…」

「だから私……それから男の人が私に言う言葉は全部嘘だと思う様にしたの…」

「え?」

「だって…信じてバカをみるのもうイヤだし…」

「…え?って…由貴?」

「だから今まで惇哉さんが私に言ってた言葉も全然気にしてないし…
されてた事も遊びだと割り切ってるから…気にしないで良いわよ。」

「はあ??」

何だ?そのにっこり笑顔は???

「やっぱりいくらマネージャーって言っても若い男女が一緒の部屋で
1つのベッドで寝るって言うのもおかしいから今日から私自分の部屋に戻るわね。
惇哉さんの事は部屋が別々になってもちゃんとするから安心して。」

「ちょっと!!由貴!」

「なに?」

「いきなり何でそんな事言うんだ?」
「だって…女性と付き合うのにこんな生活やっぱりマズイでしょ?いい訳も出来ないわよ。」
「いいわけって…誰に?」
「これからお付き合いする人。」
「だから誰?」
「誰って…自分が一番良くわかってるじゃない。」
「だから誰の事だよ?」
「……………」

「誰だって言うんだよ!」

「……花月園…美雨…さん…」

「……何で?」
「だって彼女は付き合う気満々だったわよ。それにあなたとならお似合いだし…
つり合いも取れてるし…話題性もあるし……きっと…そうなるもの…」
「オレがそうするって思ってる?」
「……さあ…わからないけど…あの 『 花月園美雨 』 だもの…悪い気はしないでしょ?」

確か歳は彼よりも上だったと思うけど…
綺麗でスタイルも良くて活発で…人気もあって…申し分ないじゃ無い。

「まあ…昔付き合ってたのは事実だけだけどさ…だからって今は付き合う気なんて無いよ。」

「そう?」

「あ!何だよ!その疑ってる眼差しは!!」

「別に…私は正直な事を言ってると思うけど?」
「大きな勘違いだよ!」
「さあ…どうかしら?一緒に仕事を始めればわからないじゃない…
また気持ちが復活する事だってあるし…」

「して欲しいの?」

「え?」

「そんな気持ちを復活させて欲しいのかって聞いてるの。」

「それは惇哉さん次第でしょ!私にそんな事聞いても意味無いじゃない。
だからもしそうなった時に今のこの状況はマズイから私は自分の部屋に戻るから。」

「…………それはダメだって今まで何度も言ってる…由貴…」

「そうだけど…今までと状況が変わったんだから仕方無いじゃない………」

「それってさ……」
「?」

どうしよう……

「由貴さ…」

聞いても……良いのか??

「 彼女にヤキモチ妬いてるの? 」

「 ! ! ! !  」

うわっ!由貴がもの凄い驚いた顔してる!!!


「……ばっ…バカじゃ無いの!

何で私が惇哉さんと花月園さんとの事にヤキモチ妬かなきゃいけないのよっ!」

「由貴…凄い慌ててるけど?」

「私は…マネージャーとして…世話役として…女性として言ってるのっ!!自惚れないでよ!」

「……へぇ…そんなにオレの事心配してくれてるんだ…」

「まあ…ね…私だって惇哉さんのプライベートまで口出しするのもなんだけど…
今は一緒に仕事してるんだし…一応臨時でもマネージャーだから…」

「ふーん…それはご苦労様…何だか悪いな…由貴にそこまで心配掛けちゃって…」

嫌味半分の言い方に由貴は気付いたかな?

「だったら私の言う事聞いてよね。今夜から自分の部屋で…」

ダメだ…わかってなかった…

「それはダメだって言ってるだろ?由貴!何度も言わせない!」

「 !! 」

「三鷹が戻って来るまで由貴はオレのマネージャーでここで一緒に暮らす。」

「…でも…」

「オレが一緒に暮らすって言ってる…由貴…わかった?」

「…………」

「由貴…オレが言ってる…わかるよな?」

「……わかったわよ…そのかわり知らないから…」
「何が?」
「彼女に…花月園さんに誤解されたって…」
「別に…オレは構わないけど?」
「?どうして?」
「さっきから言ってるじゃん!オレは花月園美雨とは付き合わないって。
だから由貴がここから出て行く理由は無いんだよ。」
「……なんでそんなにキッパリと言い切るのよ…そんなのわからないじゃない…」
「わかるよ…」
「?」

「 オレにはちゃんと心に決めてる人がいるから。 」

「 え? 」

「だから他の誰も好きになったりしない…」

由貴をまっすぐ見つめてそう宣言した。

これって…もう…思いっきり由貴が好き宣言だろ!


「…なんだ…そんなに好きな人がいたんだ…」
「え?」
「やだ…ごめん…私あんなに一緒にいたのに全然気付かなくて…」
「は?」
「今まで私にしてた事ってみんなその人と出来ないからそんな気持ちを紛らわす為だったのね。」

「…………」

な…なんでそうなる???

「違っ……」

「あ!もうこんな時間!明日撮影の時間朝早かったんじゃない!もう寝ないと!」

「…由貴…」

「じゃあ先に寝るね…何だか疲れちゃった…」

「………」


由貴がさっさと寝室に入って行く…

マジかよ…またこのパターンかよ…何で由貴は素直にオレの言葉を受け取らない!

これは追い駆けて…ちゃんと言った方が……


でも…あの由貴の雰囲気じゃ絶対素直に頷かない気がする…