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由貴に好きだと言ったら拒絶された。
でもそれはオレが嫌いだからじゃなくて初めての恋で彼氏にヒドイ形で裏切られたからだ…
オレの本気の好きと言う言葉は由貴にその時の事を思い出させる…
元カレの事は忘れても元カレにされた事は忘れないんだ…
「あいつ…一発ぐらい殴っとけば良かった…」
今更な怒りが込み上げる。
「はぁ……」
これは…マジで前途多難かもしれない…
「……惇哉さん…」
「由貴?」
由貴がリビングのドアを少しだけ開けて立ってる。
「どうした?眠れない?」
「…………」
コクリと由貴が頷く。
「じゃあこっちに来れば?」
「……いい…の?」
「何で?」
オレは苦笑い…
「だって…さっき私…惇哉さんにヒドイ事言ったから…」
「別にヒドイ事なんて言ってないじゃん。オレの方が由貴の事からかったんだからさ…」
本当は真面目な好きだったんだけどね…
「本当…に?いいの?」
「来て下さい。」
なかなか由貴が入って来ないからオレからお願いした。
本当は由貴の傍にいたかったから…でもさっきは由貴に負担が掛かると思って言わなかった。
「…………」
由貴がバツの悪そうな顔で入って来る…その姿がなんとも可愛い。
「コーヒー飲み過ぎた?」
毛布を広げてソファに座った由貴の身体に掛けた。
違う理由なのはわかってたけどあえて触れなかった…
「惇哉さんの方が沢山飲んでたじゃない…」
「そっか…そうだった…」
「やっぱり眠れなかった?」
「人恋しかったかな。」
「?」
「最近由貴と寝てたから…………由貴…」
「ん?」
「傍に寄っていい?」
「……うん…」
オレは毛布の上から由貴の肩を抱いた。
「初めて聞かれた…」
「当たり前じゃん…流石に気を使うって…」
「ごめんなさい…」
「だから由貴が謝る事じゃないって…」
「だって…」
「明日でドラマの撮影が終わるから…そしたら2人で出掛けようか?」
「2人で?」
「2人で!」
「出掛けるの?」
「出掛ける。」
「無理よ…」
「何で?」
「すぐあなただってバレちゃうもの!それに2人きりなんて変な噂になったら大変だし…」
「平気だよ。そうなった時はそうなった時で!」
「何言ってるのよ!軽く考え過ぎ!」
「軽くていいんだよ ♪ なんなら泊まりがけでもいいけど?」
「スケジュール的に無理。」
「そんなに詰まってんの?少しは休みたいんですけど…マネージャー!」
「でも仕事があるなんて有り難い事でしょ。この仕事したくても出来ない人だってい…」
「はいはい…わかったって…愚痴ってスイマセン!」
「 『 はい 』 は1回…」
「はい…」
「くすっ…」
「ん?」
「なんか…変なの…」
「どんな風に?」
「だって…さっきはここから出ていこうとしてたのに…今はこうやって惇哉さんの隣に座ってる…
なんかね…惇哉さんとは家族みたいで…ホッとするのよね…」
由貴がそんな事を言うのは初めてだ…
「へえ…まあいつも一緒にいるからな…」
「そうね…喧嘩ばっかりしてる弟みたい。」
なっ!男からも格下げ?オイオイ…
「だから2ヶ月しか違わないって言ってるだろ…」
「それでも年下は年下でしょ…」
「由貴…」
「ん?」
「ゆっくりでいいから…」
「え?何が?」
「色々…」
「仕事の事?」
「それもある…由貴は真面目だから…」
「あとは?」
「だから色々!少し肩の力抜けって事だよ。」
「そんなに肩に力入ってるかしら?普通だと思うんだけど?」
「入ってるよ!カチカチのゴチゴチ!」
「なっ!そんな言い方ヒドイじゃない!失礼でしょ!」
「由貴…」
「何よ…んっ!」
また彼が…私の隙をついてキスをした。
「…ぁ…ん……」
優しく舌を絡ませられて…静かに彼が私から離れた…
「良かった…拒まれなかった…」
「だから…私で遊ぶの止めてってば…」
「今のはおまじないのキス…」
「おまじない?」
「2人ともぐっすり眠れる様に ♪ 流石に寝ないと朝が辛い。」
「そうね…」
「オレはここで寝るから由貴はベッドてゆっくり休んで…」
「でも惇哉さんの方が撮影あるんだし…惇哉さんがベッドで寝て!
それに私マネージャーだし…役者の管理はちゃんとしないと…」
「いいよ…今日はオレソファで…」
「何で私にそんなに気を使ってくれるの?」
「…別に気を使ってるわけじゃないけど…今のオレには1人のベッドは広すぎるから…」
「?」
「おやすみ由貴…明日から…ああ…もう今日か…とにかくこれからもよろしく。」
「うん…こっちこそよろしく…」
由貴がオレを振り返りながらリビングを出て行く…
本当はオレだって由貴と一緒にベッドで寝たい…でも今夜は…流石に気を使う…
「遊び…か…」
遊びだと割り切れば由貴はオレとのキスは受け入れてくれる…
やっぱり由貴の中でオレは特別な位置にいると思って良いんじゃないかと思う。
でもそれはあくまでも由貴をからかう対象として見てるオレが相手と限定されて…
由貴の事が好きなオレだと即拒絶される…
「はあ…」
好きと言う言葉は……オレと由貴の間で禁句だ…
きっと由貴の心の中はその言葉でオレですらシャットアウトされる…
あんなに…オレに色々許してくれてるのに…だ!
「でも確かめたいな…」
由貴がオレを特別だと思ってて…本当はオレの事が好きだって…確証が欲しい…
「好きだと…言えない恋か…」
オレはソファで寝転びながら…本気の恋はなかなか大変なんだと思い知らされた…
でも…由貴は必ず手に入れてみせる…
「はあ…」
久しぶりに1人で寝るベッドで大きな溜息をつく…眠いのに眠れない…
惇哉さんはもう眠ったかしら…何だか気を使わせちゃって悪かったかな…
好きだなんて…小西さん以外初めて男の人に言われちゃった…
しかも惇哉さんに…嘘だって言ってたけど…あの時いきなり『好き』なんて言われて…
びっくりと言うか…慌てちゃったって言うか…頭真っ白になったと言うか…
でもその反面…怖いと思った…また…あんな思いするのかと思ったから…
もう…恋なんてしない…もう…男の人なんて好きになんてならない…
そう思ってた…なのに……何でこんなに胸が苦しいんだろう…
それに惇哉さんと一体何度キスしたんだろう…
いくらふざけた遊びのキスだって…やっぱりおかしいよね?
いつも…強引だし隙を突かれるし…でも…何で嫌じゃないの…
初めて惇哉さんとキスした時は台詞の稽古だって言われて…
あの時から嫌じゃ無かった……やだ…何で?どうして?
『 ス キ ダ カ ラ 』
「!!!なっ…違う!違うもん!そんなはず…ハッ!」
いきなりベッドの上にガバッっと起き上がって叫んだから慌てて自分で自分の口を塞いだ。
「…………」
そんなはず…だって彼は私の事なんて女として見てないし…
世話やきの身の回りの事をやってくれる都合のいい奴くらいにしか思って無いはずだし…
からかうには調度いい相手と思ってるだけで…
「もう…やだ…わかんない……」
私…どうしちゃったんだろう…
「どうしたの?2人共?」
ドラマの撮影のスタジオに入った途端共演者の真理さんに言われた。
「寝不足…」 「昨夜寝れなくて…」
2人同時に答えた。
私はあの後色々考えてたら眠れなくなっちゃって…でも惇哉さんは何で?
「やだぁ〜2人して寝不足なんて〜一体どんな夜更かししてたんですかぁ?」
真理ちゃんが意味ありげな顔でそんな事を言うから…
「ちっ…違います!そんな…変な事してませんからっっ!!」
由貴がやたら慌てふためいて否定する。
「ムキになるなよ由貴…冗談だよ…真理ちゃん由貴は真面目って言っただろ?からかうなってば。」
「!!」
私はそれを聞いてビックリ!あなたが言うんだ!ソレを!!
「前の日のCM撮影でコーヒー半端無いくらい飲んだからね…オレはそれで。」
本当はアレコレ色々考えてたら眠れなかったんだけど…由貴は何でだ?
「やっぱりソファが良くなかったんじゃない?やだ…撮影に影響したらどうしよう…」
由貴が申し訳無さそうに小さな声でオレにそう言った。
「そんなんじゃ無いって…寝不足なんて慣れてるから大丈夫だよ。」
「あ!」
そう言って惇哉さんは私の頭をポン!って撫でてセットの中に入って行った…
彼が俳優の 『 楠 惇哉 』 になった……
「………はぁ…」
今朝から…普通を装うのがちょっと大変…
「気持ち切り替えなきやっ!!」
そう言って…パシン!! と自分の頬を両手で叩いて気合を入れた。