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「お疲れ様でーーす!最後のシーン撮影終わりましたぁ!!ありがとうございました!」


そんなスタッフの声でスタジオの中に拍手が起きる。
1度別れた2人が最後にまた結ばれる話…やっぱりハッピーエンドはいいなぁ…

出演者の人達にスタッフから花束が渡されて…彼の手にも大きな花束が渡された。

「はい由貴あげる ♪ 」
「え?でも惇哉さんが貰ったんでしょ?」
「由貴も初めてのマネージャーの仕事だっただろ?だからオレから由貴に ♪ 」
「……ありがとう…帰ったら部屋に飾るわね…」
「うん…」

そう返事をした彼の笑顔が何とも言えない優しい…それでいて素敵な笑顔で…

ド キ ン !!

「!!!!」
「由貴?」

「楠さーん ♪ 」
「ん?」

彼が他の共演者に呼ばれて離れて行く…

私は…心臓がドキドキ……え?何で???


もう……本当に自分が変で……イヤだ……




「やだ!由貴さん飲めるクチなんですね!!」

「そんなでも…」


ドラマの打ち上げで皆が大盛り上がりで飲んでる…
最初は遠慮してた私も色んな人に誘われ仕方なくお酒の飲んでるうちに結構な量を飲んでる…

だって…タイミングが悪いわよ…なんでこんな時に…
お酒が進むのも仕方ないじゃない…

「メガネちゃんまた潰れんなよ。」
「大丈夫…です…もうあんな失態は…」

そう言えば前鏡さん達と飲んだ時は酔い潰れて彼に迷惑掛けちゃったんだっけ…

「惇は飲んでねーのかよ?何だよ…」
「車の運転があんの。」
「へぇーー…真面目だねぇ…タクシーで帰れば良いだろ?車は後で取りに来れば。」
「やだよ…めんどい。」
「お姫様を無事送り届けなきゃ…か?」
「まあね。」
「VIP待遇なマネージャーだな? 『 楠 惇哉 』 が運転手か?」
「由貴は特別だって言っただろ。」
「なんだ?お前等まだ付き合ってないのか?」
「色々障害が…な…」
「障害?お前が?」
「そう…本気の恋はなかなか上手くいかない…」
「はぁ〜〜〜惇がそんな弱気初めて見たぞ。」
「由貴に余計な言うなよ。」
「ああ?何で?惇が惚れてるって周りの奴が言ってやれば結構上手くいくんじゃねーの?」
「だからダメだってば!周りから余計な事言われてコジレるのは勘弁だし…
オレが自分の手で絶対由貴を手に入れるんだから!」

そう…絶対オレのモノにして……由貴に…
         
        オレの事が好きだって…言わせるんだ…



「って由貴の奴飲み過ぎじゃね?」

さっきから結構な速さでコップの中身が無くなって行く…

「由…」

「えーー由貴さんって付き合ってる人いないの?」
「はい…いませんけど…そんなに驚きます?」

由貴がそんな会話をしてたから思わず傍で聞き耳を立てた…由貴には気付かれない様に。

「だって……真面目だし見た目結構いけると思うし…プロボーションだってなかなかだし…」
「ありがとう…でも…そんな大したもんじゃ無いですから…」

由貴は容姿を褒められるの好きじゃ無いからな…

「理想が高いとか?」
「そんな…違います…」
「じゃあ何で?こう言う仕事してると出会いなんて一杯あるでしょ?」
「……男の人…ちょっと苦手で…」
「え?そうなの!!何で??昔酷い目に遭ったとか?」

鋭い突っ込みだな……

「えっ!?そんな………でも…そうかもしれない…」


昨夜からの変な気分と…お酒で気持ちが緩んで彼女のそんな質問に
何だか素直に答えてもいいかな…なんて思ってる自分がいて…
いつもより簡単に口が開いた…

誰かに聞いて欲しかったのかも…自分の思ってる事…


「1度付き合った人がいたんですけど…酷い別れ方して…それから人を好きになるのが怖くて…」
「人を好きになるのが怖いの?」
「………」

由貴が無言で頷いた……そっか…そんな風に思ってたのか…

「また…好きになった相手に同じ事されたらと思うと…怖くて…」
「でもさ…皆が皆そのヒドイ事した人と同じとは限らないじゃない?」
「頭ではそう思うんですけど…実際そうなると身体が拒否反応しちゃって…」
「え?どうなるの?」

「……その人の前から逃げたくなって…その人の事が受け入れなくなっちゃう……」

昨夜やられたよ…まさにその通りだよ…

「変なの…なんで?普通好きなら逆に受け入れちゃうんじゃない?何で拒否?」
「そ…それが自分でも良く分からなくて…」
「じゃあやっぱり相手の人の事が好きじゃ無いんじゃないのかな?だから無意識に拒否!」

えっ!?そうなの??

「嫌いって…訳じゃ無いと思うんですけど…
一緒にいても全然平気だし…自分に害は無いって言うか…」

害が無いって…オレ一体何なんだよ…!?

「ふーん…由貴さん今恋してるんだ ♪ 相手楠さん?」

「ええええっっっ!!!こっ…こっ…恋っっ????そそそ…そんな事無いですからっ!!!!」

由貴がとんでもなく慌てて否定した。

「そう?あたしには思いっきり恋してる様にしか見えないけど…」

お!ナイス突っ込み!頑張れ!真理ちゃん!!

「ほほほ…本当に…ちちち…違いますからっ!!勘違いですからっっ!!
惇哉さんなんて…そんな…!!!」

否定に力込め過ぎだろ…何だか凹むって…

「由貴さん動揺し過ぎだって…顔引き攣ってるよ。」
「!!!!」
「わかり易いんだよねぇ…由貴さんて…見てて面白いし可愛い ♪ 」
「わかり易い…ですか?」
「今のは特に…ね…」
「……………」

由貴が黙りこくってお酒をグイグイ飲んでる…大丈夫か?

「私…彼の事が好きなんですかね……」
「え?自分でわからないの?」
「お恥ずかしい事に……わかりません……」
「………あら…それは…」

楠さんも大変ね…

「もう誰も好きにならないって…決めてたんです…恋なんてしないって…
なのに人を好きになるなんて事あるのかしら…」

由貴…

「思ってた以上に好きな人が出来たって事でしょ?それって素敵な事だと思うけど ♪ 」

「素敵な事?」

「あたしも小さな頃からこの仕事してるから嫌な事もあったわよ。
露骨に仕事あげるから身体の関係要求されたり興味本位で付き合いたいって
言って来る人沢山いるしね…でもいつか本当に運命の人と出会うかもしれないじゃない?
何度も何度も人を好きになるのって別に良い事なんじゃ無いかな。
そりゃ世の中色んな人いるから時々嫌な奴もいるけど…そんな奴の為にこれからの
自分の幸せ引き換えにする事無いんじゃない?逆にそいつに見せつけてやるくらいの
気持ちで良いんじゃないのかな?」

「真理さん…」
「なんて年下のあたしが言うのも何だけど…でも人生経験はあたしの方が沢山ありそうだし…
恋愛経験も ♪ 」
「ありがとう…参考になりました。」
「本当?ここだけの話…あたしも今恋してるんだぁ〜 ♪ だから今とっても充実してるの。」
「…それは…何より…良い…事ですね…」
「由貴さん?」

「由貴飲み過ぎ!また潰れるぞ。」
「…大丈夫…ちゃんとしっかり意識ある…」
「嘘つくな…フラついてるじゃん…もう酒はおしまい。
真理ちゃんありがとうな…由貴の相手してくれて。」
「いいえ…あたしも楽しかったし…また一緒の仕事したいな。そしたらまた由貴さんに会えるでしょ?」
「さあ…どうかな?由貴は三鷹の代役だから…
アイツが戻って来たら由貴のマネージャーはおしまいだし。」
「ええーそうなの?じゃあこっそり病院に行って三鷹さんを…」
「何怖い事言ってんだよ。真理は!」
「いたっ!もう頭小突かないでよ!痛いじゃん!暴力男!」
「愛情表現だろ?俺は本当は優しいんだから…」
「もうレンジさん酔ってるでしょ?レンジさんのマネージャー何処?ちょっとコレ引き取って…」
「コレってなんだ!コレって!!!」


「仲が良いんだ…あの2人…」
「そうだな…寄ればあんな感じで2人でふざけてるかな…」
「……そう…」
「そろそろ帰るか?」
「うん…でもいいの?主役が先に帰っても…私なら1人で帰れるし…」
「とりあえず役目は果たしたろ?後は飲みまくるだけだからオレがいなくても大丈夫。それに…」
「それに?」

「眠い!早く帰って寝たい。」
「そうね…私も流石に眠いかも…」


珍しく2人の意見が一致した。