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いつもと変わらない2人の夜を過ごして…
惇哉さんがいつもと変わらず私の隙をついて触れるだけのキスをする…

高校の顔も知らなかった同級生にふいに挨拶だと言ってキスされて…
落ち込んでた私はそんなキスでちょっとだけ機嫌が直ったのに…


♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

「ん?」
「惇哉さんの携帯鳴ってるわよ。」
「誰だ?今頃……はい?」

かったるそうに惇哉さんが携帯に出た……一瞬ちょっと顔が強張った様な気がしたけど…

「……何?どうしたの?…え?今からなんて無理だよ…うん…悪い…じゃあ明日…」

明日??って事は……

「今の…花月園さん?」
「うん…今から一緒に飲もうって…行く気無いから断った。」
「…そう…」

「 …………… 」  「 …………… 」


それから何だか気まずい空気が流れて………由貴がテレビのスイッチを入れた。







「おはようございま〜す!惇哉 ♪ 」

「おはよう…」
「おはようございます。」

私は深々と頭を下げる。

「もう昨夜は冷たいんだから!昔ならすぐに来てくれたのに!」
「もう遊びは卒業したの。それにあんな時間から出れないっての…」
「横着者になったわねぇ…ジジイじゃない?」
「ジジイで結構!落ち着いたんだよ…」
「その歳で落ち着くの?やだ…ホントどうしたの?惇哉…昔からは想像できないよ。」

そんな会話を聞きながら…惇哉さんって本当に昔遊んでたんだなぁ…って思う。
なのに殆んど何も騒がれずに来たって事はどれだけ上手く隠してたんだろう…



今日は昨日と同じ場所で…でも…場面は雨っていう設定。
だからホースで水が掛けられる…その中で2人でキスをするシーン…

彼のキスシーンなんていやって言うほど見てるから…気になんて…ならないもん……

リハーサルは…したつもりで終わったけど…いよいよ本番だ…




「昔を思い出すわね…何年ぶりの惇哉とのキスだろう…」
「仕事だから…オレは別に…」
「ホント…つれない男になったわね…もしかして好きな子がいるの?」
「ああ…いる。」

いないって…言うと思ってたから即答されて驚いた。

「 !!! …そうなんだ…へぇ……でもまだ付き合ってはいないんでしょ?」
「うーん…多分付き合ってると思うけど…複雑って所かな?」
「何よそれ?」
「オレの事はいいから…仕事に集中しろよ。NG出すなよ。ワザと!」
「ムカついたから出してやろうかな…10回くらい…」
「そんなのオレが許さないよ…」
「惇…」

そんな会話の最中にスタートの声が掛かって…
惇哉は本当に恋人同士がする様な激しいキスをあたしにした…

あたしは撮影だってわかってたけど…身体がドクンと痺れて…NGを出す所じゃ無くなって…

1発でOKが出て…惇哉が離れると…自分では立ってられなくて惇哉に支えてもらった…




「ちゃんと温まってよ!」

「はいはい…」

「もう 『 はい 』 は1回!」

「はい。」


雨の中でのシーンが終わってスタッフが用意したキャンピングカーの
シャワールームを使って惇哉さんがシャワーを浴びる。

濡れた身体はあっという間に冷えるから子供に言う様に惇哉さんに注意する。



「はぁ〜温まったよ。由貴!」

「 !!!!ちょっ…もうバカっ!!! 」

「え?」

惇哉さんが腰にタオル1枚で頭を拭きながら出て来た!!!

「由貴コレくらいで動揺しない!」
「も……わた…私…外出てるから!」

由貴が慌てて外に出ようとするから呼び止めた。

「由貴!髪の毛乾かして!」

「 !!!! 」

どんな引止めの言葉より確実な言葉だ ♪



「もう…ちゃんと着替えてから出て来てよ。」

由貴がオレの髪の毛を乾かしながらお小言だ。

強制的にちゃんと下着から上下上着…全部着る様に命令された。

渋々従うオレ…でもしょうがない…由貴がとんでもんなく怒るから。


「だって中狭いんだよ。湯気で暑いし…」
「だからって…女性の前にあんな格好で出て来ないで!」
「免疫付けさせてあげてるの!オレ限定の免疫だけど!」
「何訳の分からない事言ってるのよ…」

こんな話も狭い車の中でオレはベッドの端に…
由貴はベッドの上に膝で立ってオレの髪の毛を乾かしてる。

これは…チャンスじゃ無いのか?
休憩も兼ねて時間はタップリとある!まあ急激に迫ると相手は由貴だから
拒絶される可能性があるからここは慎重に……

「はい。大体乾いたわよ。後は自然に乾くでしょ。」
「ありがと。…由貴」
「ん?」
「ヤキモチ…妬いた?」
「は?何で?一体誰に?」
「美雨さんに!」
「キスシーンなんて何度もやってるじゃない…それと同じでしょ…」

そう…そう自分に言い聞かせたんだから…蒸し返さないでよ…

気にしてないと言えば嘘になるけど…
でも…気にしちゃいけない…特に今は私は彼のマネージャーだから…

「由貴…」

「!!」

ベッドの上にいた私の目の前に彼が向き合う様に乗って来て…
車の備え付けのベッドがギシリとなった。

「なっ…なに?」

ビックリして彼を見上げた…だって彼の方が背が高いから…

「キスしよう…」
「え?な…なんで?今?」
「そう…今…オレは今由貴としたい…」
「だ…皆が外にいるし…」
「キスだから誰にも気付かれないよ…」
「でも…仕事中……」
「今は休憩時間だろ。」
「でも…」

「由貴…オレは今由貴とキスがしたいって言ってる……してくれるだろ?」

「…………」


また…その言葉で私を縛るんだから……



「座って。」

「……」

私は仕方なく言われた通りにベッドの上に正座で座った。

もう心臓がドキドキ…惇哉さんも正座で座る。

「由貴…」
「な…何?」

「由貴がキスする相手はオレだけだから…」

「!!」

「この唇に触れる事が出来るのはオレだけ…わかった?」

そう言って惇哉さんの人差し指が優しく私の唇の上を滑った…

ポロ…

「!!由貴!?」

「…う」

今頃…涙が込み上げた…

「何だよ?どうした?」

惇哉さんがいきなり泣き出した私に焦ってる。

「な…何でも…ない…ぐずっ…」
「何でもないはずないだろ!泣いてるじゃん!」
「違う…」

本当は氷野君にキスされてすごくショックで…嫌だった…それが今頃になって…

「由貴…?」

「だって…それって…口説き文句みたいだから…」

「もしかして嬉し泣き?」

「……ナイショ」

「は?」

「いつか…教えてあげる…」

「は?」
「フフ…」
「由貴…」
「ん…」


最初は触れるだけのキスからこの前したみたいな激しいキスをされた…
そのまま後ろに倒されてベッドに仰向けに寝転んだ…
それでも惇哉さんのキスは終わらない…でもこのキスは彼のベッドで何度かした事がある…

「由貴…」

身体が勝手に動いて惇哉さんの背中に腕を廻した…

惇哉さんが私の身体の上に覆いかぶさって来ても逃げなかった…

「惇哉さ…ん…」

忘れたかった…惇哉さんじゃない人とのキスなんて…忘れ…た…

トントン!

「惇哉?あたし…」

「!!」


車のドアがノックされて………ビクン!と身体が跳ねた!