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………最近…とってもマズイと思うの…
惇哉さんのマネージャーになってもうすぐ1ヶ月を迎えようとしてる。
歌手の花月園さんの新曲のプロモーションビデオの撮影も順調に撮り終えて
発売日まであと数日となって 『 楠惇哉 』 がビデオ出演してるのと
花月園美雨とのキスシーンが話題を呼んで発売前から結構な関心を持たれてる。
ってそれも気になる事なんだけど……
「由貴」
ドキン!
「何?」
「ドラマの撮影も終わって単発の仕事も終わって…ちょっとはゆっくり出来る。」
「でも…今度映画の話もあるんでしょ?」
「そう。映画なんて久しぶり。」
ちょっと前に彼ご指名で映画の話が来た。
「監督と前飲んだ時に盛り上がって今度自分が撮る映画出てくれって言われてたからさ ♪ 」
「いいの…そんな決め方で…」
「いいの。その話が明後日の夜だからそれまでゆっくりしてよう。由貴 ♪ 」
「私は仕事ですから!1人でゆっくり休んでて下さい。」
「え?1日くらいどうにかなるだろ?」
「なりません。」
「由貴!」
「……」
私はスタスタと夕飯で使った食器の後片付けでキッチンへ入って行く。
もうあの時から私は彼のちょっとした仕草と言葉でドキドキして…
一緒のベッドも毎晩緊張するの一言に尽きる…
前はあんなに自然に出来てたのに…あの頃が懐かしいかも…
「由貴 ♪ 」
「!!」
彼が流しに立つ私を後ろから抱きしめる…前は流しの縁を掴んでたのに…
「ん?」
「やりにくい…」
「もう慣れただろ?」
「前は流しの縁を掴んでたじゃない…」
「本当はずっとこうしたかったよ…我慢してた。」
「……やっぱり今更だけどベッド用意して!」
「本当今更…何で急にそんな事言うの?由貴…」
「だって…初めはそう言う約束だったでしょ?約束守って。」
「……嫌だ。」
「何で?」
「もう1人じゃ寝れないから…いいの?由貴…オレが寝不足で仕事に行っても?」
今は私が寝不足なのよ!
「だって…」
「だって?じゃあ由貴は何で一緒に寝れないの?」
「え?」
「だって今までそんな事言わなかったのに…オレが納得する説明して。」
「説明って…だから…最初からそう言う約束だったから…」
「違くて何で今更そんな事言うのかの説明。」
「……それは…」
え…何で…まさか惇哉さんを意識しちゃって寝むれないなんて言えないし…
言ったらどんな事になるか…
「ん?」
「……」
う…どうしよう…
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「あ…惇哉さんの携帯鳴ってる!」
良かった…思わずホッとしてしまった…
「あ!露骨にホッとしたな…」
ぎくっ!
惇哉さんが携帯をリビングに取りに行きながら私の方を見てメッ!って顔をした。
「そ…そんな事無いわよ…」
「まったく……ん?何だよ……はい?」
「?」
誰?
「…まあ…別にいいけど…わかった…じゃあ後で…」
「どうかしたの?」
携帯を切った惇哉さんが軽いため息をついたから…
「ちょっと出掛けてくる。」
「今から?」
まあまだ夜の8時過ぎだけど…惇哉さんが1度家に帰ってまた出掛けるなんて珍しい。
「ああ…遅くならないと思うけど…出来れば寝ないで待っててほしいな…」
「…そんなに遅くないなら…」
「じゃあそう言う事で。」
「友達?…あ…別に言いたくなければ…」
「クスッ…気になる?」
「な…ならないわよ!でも気をつけてね… 『 楠惇哉 』 だってわかったら…」
「大丈夫だよ。慣れてるから。」
「…………」
「由貴…」
「ん?」
「行ってくる…」
「うん…」
「由貴…来て…」
また…ドキンとなる…
でも足は…惇哉さんが待つ玄関に向かう…
「1人で寝るなんて言わないで…今夜も一緒に寝よう…」
「…………」
「何でそんなに意地張るの?」
「意地なんて張ってない…普通の反応でしょ…」
「そう?じゃあそれでオレを誘ってる?」
「なっ…何で誘うって事になるの?」
「逃げると捕まえたくなる…」
「逃げてるわけじゃ…」
「そう?じゃあ攻めてみる?」
「?」
「行ってらっしゃいのキス ♪ して欲しいなぁ〜〜 ♪ 」
「 !! 」
「ダメ?」
「ダダダダ…ダメ!」
「ダメなの?」
「ダメなの!」
「おまじないのキスでも?」
「おまじない?」
「オレが無事に帰って来れます様に……って…」
「……………」
「由貴…オレ行っちゃうよ…おまじないのキス無しで…後悔しない?オレにもし何かあっても…」
「おまじ……ない……?」
「おまじない…由貴からして欲しい……きっと効くよ……」
そう言って惇哉さんがちょっとだけ私の方に屈む…
「してあげるなんて…言って無いわよ……」
何よ…その期待一杯の顔は……
「ありがとう…由貴…嬉しいよ……」
「……だから…」
彼がそっと目を瞑るから……仕方なく…そう…仕方なくなんだから…
「 ちゅっ…… 」
そっと触れるだけのキスを……初めて私から彼にした……
「……………」
うわぁ〜〜〜恥ずかしい!!!顔から火が出そう……
「行って来ます…由貴…ちゅっ♪」
今度は惇哉さんが…私のオデコにキスをして…
玄関のドアがパタンと閉まった……