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「……はあ…」


部屋に戻っても由貴はいない…きっと今夜はオレの部屋には来ないだろうと思う…

知り合った頃の由貴に『大嫌い』って言われても笑ってられた…

でも今は由貴に『大嫌い』なんて言われると堪える…



久しぶりにタバコに火を点けて1本吸った…

普段あんまり吸わないからたまに吸うと結構キツイ…でも今は吸わずにはいられない…

美雨さんとの事は時間が経てばあっという間世間の噂から消えるから何も心配なんてしてない…

オレと彼女の間には何もないから後ろめたい事も無い。


「問題は由貴だな…」

由貴に気を使ったつもりが逆に由貴を傷付けた…

「でも…由貴怒ってたよな…マネージャーとしてじゃ無くて…怒ってたよな…」


本当は由貴に会いたかった…

会って話をした方がいいと思ったけど
今夜は前から監督と会う約束があったから…





「おう!惇哉久しぶり。」
「どうも…こんばんは。」

監督の行きつけのお店で挨拶を交わした。
今夜は仕事の話じゃなくてただ飲む約束してた。

「大丈夫だったのか?別に今日じゃなくても良かったんだぞ。」

北館雅司監督…歳は30代後半で20代の頃からメキメキと実力を発揮して
数々の話題作を作った人だ。
昔1度この人の映画に出た事があってその時意気投合してそれからの付き合いだ。
兄貴肌で豪快で裏表も無くて…多少頑固でとっつきにくい所もあるけど
オレは監督の事が気に入ってる。

「別に気にしてませんから…まあちょっと追っかけられたりしましたけど…
慣れてるし…すぐに飽きますよ。それに北館さんだって忙しいでしょ?」
「余裕だな…また付き合う事にしたのか?」
「まさか…彼女とは終わってるし飲むのを付き合っただけで…彼女も何かあったみたいだし…」
「ほー…モテる男は辛いな。」

「本命には誤解されて避けられちゃいましたけど…
そっちの方がオレには一大事ですよ…」

「本命?お前がか?」
「変…ですか?」
「変と言うか…意外と言うか…びっくりだ。女に本気になるとわね…
そっかそっか!今夜はじっくりとその話聞いてやる!さあ飲め飲め!」

そう言って空のコップにビールをドクドク注がれた。

「いただきます。」

オレはそれを一気に飲み干した。




「……はあ〜〜〜〜」

久しぶりの自分の部屋のソファ…
確か前にここで生活したのはお母さんが戻って来た時に3日間程…
今はそんな1人の部屋で缶ビールを飲み続けてる…もう3本目だ。

「飲まずにいられますかっての!」

今日は1日電話の対応追われた…

『 彼の交際の事実はありません。 』

って言い続けてる自分が途中からおかしくなってきて…変な感じだった…

だって私…彼に…惇哉さんに 『 大嫌い!! 』 って叫んじゃったんだもん……

あの時は本当にそう思ったから……

いくら彼が花月園さんとは何も無かったとしても…素直にそれを受け入れられない…

あんなに……私の傍にいてくれたのに……


今までの彼の言葉は…本当に…本心だったのかな……

なんてそんな事まで思い始める……やっぱり男の人の言葉なんて信じるもんじゃ無いのかも……



でも……信じたい……と思うのは何でなんだろう……



じっとソファの端に置かれてる携帯を見つめてた……彼からは1度も携帯は鳴らない…

昼間お母さんからこの世の終わりでも来たのかと思える程の狼狽振りで掛かって来たくらいで…
何とか納得させて落ち着かせた。

そんな自分がバカみたいで……だから飲まずにはいられなくて……

「ああ…そっか…彼…今日は映画の監督と飲む約束してたんだっけ…」

グビグビと3本目のビールを飲み干して4本目のビールに手を伸ばした…

「あ…明日に響いちゃうか……」

そう思って掴んだ缶ビールから手を離した。

明日も惇哉さんのマネージャーの仕事は続く……大丈夫かな…

そんな事を思いながらソファで膝を抱えてウトウトしだした…
そう言えば惇哉さんもう1人で寝れない…なんて言ってたけど…本当かしら…

だったら…今夜どうするんだろう……

なんて思いながら眠ったら…彼が花月園さんと一緒に惇哉さんのベッドに寝てる夢を見た…

もう嫌になる……



朝から夢見の悪さと二日酔いに近い状態で気分も体調も最悪で…

それでも惇哉さんの部屋に彼を起こしに行った…