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一昨日の夜……
美雨さんから電話をもらったあの日…
「惇哉!こっち!」
美雨さんが街の歩道の真ん中でオレに向かって手を振る。
「美雨さん…」
「来てくれて嬉しいわ ♪ 」
「だってプロモのスタッフが集まって呼んでるって言われたら来ないわけいかないじゃん。」
「惇哉って結構律儀なのよね〜」
「仕事の繋がりは大事にするタチなの。」
「マネージャーさんは?」
「留守番。」
「へえー…そんなに大事なんだ…」
「いいから…何処?」
「あっちよ。」
「!」
美雨さんがオレの腕に自分の腕を絡ませる。
「腕組むくらいいいでしょ?」
「もう酔ってんの?」
「嬉しいんだってば ♪ 」
「もう…」
「フフ…」
オレは半分美雨さんに引っ張られる形で歩き出した。
「どう言う事?」
美雨さんに連れて行かれたお店の個室には誰もいなかった。
オレと美雨さんだけ…
「美雨さん?」
オレは呆れた眼差しで美雨さん見る。
「怒らないでよ。惇哉と2人で飲みたかったの!」
「だからあんなウソ?オレは仕事絡みだからと思って来たんだよ。」
「だって個人的に誘ったって惇哉絶対来てくれないでしょ?だから…」
「美雨さん…」
「帰らないで…惇哉!騙したのは謝るから…
でもちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃない!!」
美雨さんが必死な顔で訴えるから……
「……はぁ…仕方ないなぁ…じゃあちょっとだけだよ。」
「うん!ありがとう惇哉 ♪ 」
本当に嬉しそうに笑う美雨さん…でも昔はこんな事する様な人じゃ無かったのに…
「美雨さん大丈夫?」
「フフ…大丈夫 ♪ 大丈夫〜 ♪ 」
「ホント?」
どう見ても酔っ払ってるじゃん…
配分も考えずに結構な量のお酒をガンガン飲んでたから…
「今タクシー拾うから…それともマネージャーに来てもらう?」
「大丈夫って言ってるでしょ―まだ飲める!惇哉ぁ〜まだ飲もうよぉ〜」
「悪いけど帰るから…」
オレは道路に視線を向けてタクシーを探す。
「……惇哉…」
「ん?」
「あたしんち…おいでよ…そしたら惇哉の気持ちも変わるよ…ね?」
「美雨さん…」
美雨さんがオレに寄り掛かりながら首に腕を廻して抱き着いて来た…
「行かないよ…どうしたの?美雨さんこんなに弱い人じゃ無かった…」
「………男なんてさ…皆同じだよね…」
ボソリと美雨さんが小さな声で呟いた…
「もういいわよ!大人しく帰れば良いんでしょう?この臆病者!」
「何で臆病者なんだよ?」
「浮気の1つも出来ない男になっちゃってさ!」
「もともと浮気なんてしない男なんだけど?」
「えーー?そうだったっけ?」
「そうだよ!あの頃だって美雨さん1人だったんだから…」
「ホント?」
「ホントだって…オレそこまでいい加減じゃ無いってば…
って…もしかして他にも女がいるとか思いながらオレと付き合ってたの?」
「んーーー…どうだったかなぁ?忘れた!」
「ったく…あ!タクシー掴まった!ほら!しっかりちゃんと自分の家まで帰りなよ。」
「ああ…もう…うるさい!!惇哉なんて嫌い!」
「嫌いで結構!じゃあ…ちゃんと行き先言いなよ。お願いします。」
運転手に頭を下げて身体を引っ込めるとパタンとタクシーのドアが閉まった。
スムーズに車が走り出してあっという間に見えなくなった…
「何か遭ったのかな…美雨さん…」
ちょっと意味ありげな事言ってたしな…
「さて…由貴心配してるかな…って11時過ぎちゃったか…まだ起きてるよな?どうかな?
怪しいんだよな…由貴冷たい所あるからな…一応連絡入れとこ…寝ない様に言っとかないとな…」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「あれ?出ない……まさか…もう寝ちゃったのか??由貴〜〜〜〜!!!頼むよぉ…」
オレはもうガックリで…今度は自分の為にタクシーを必死になって探す羽目になった…
やっとの思いで帰ると…由貴はしっかりとベッドで寝てた……
「……さ…ん…」
「……ん…」
「惇哉さん…」
「んーー……」
「惇哉さん起きて…」
「ん……あ…由貴…?」
由貴に肩を揺すられて目が覚めた。
「朝ご飯用意してあるから…今日1日はここで大人しくしてなさいって…社長命令だから。」
今惇哉さんに仕事が入ってなくて良かった…
「は?何?どう言う事?由貴一緒に食べないの?」
「……食べたくない…じゃあね…」
そう言って由貴がサッサとオレに背を向けて部屋から出て行こうとする。
「 由貴 !! 」
「…………」
「いつまで拗ねてんだよ!オレと美雨さんとは何にも無いってあれほど言ってるのに…
何で信じないんだよっ!!」
寝起きで…ベッドの上から由貴に叫んだ。
本当はもっと優しく言うつもりだったのに…寝起きに由貴の態度に…
それから1人寝の寂しさが後押しをして思わず感情のまま由貴にぶつけてしまった。
「あんな写真撮られた事自体が許せないのっ!!
自分でもどうしようもないんだもの…仕方ないでしょ!バカッ!!」
「由貴!」
バタン!!
と玄関の閉まる音がして…その後は部屋の中がしん…と静まり返った……
「……マジで怒ってるな……そう…怒ってるよな……」
オレはそう呟きながら…でも内心は嬉しい…何でって……
由貴がヤキモチを妬いてるから…
それはオレの事を好きだと言ってる様なものなのに…由貴は気付いてないらしい…
「オレって 『 M 』 だったのか?くすっ…」
キッチンテーブルの上にはオレの好物のモノばかりが作ってあった。
ちゃんとコーヒーも淹れてある……
「口ではあんなだけど態度に表れてるよ…由貴…」
そう言えば由貴に謝ってなかったな……
美雨さんとは何も無いって言ってるだけで…
謝ったら…少しは機嫌直してくれるかな……
「美味い……」
由貴の淹れたコーヒーを1人寂しく飲みながら……そんな事を思った…