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あの後美雨さんの事務所でもオレとの交際の事実は無いと発表して騒ぎは終息に向かってる…
ここぞとばかりに昔付き合ってた事なんかほじくり返されたけどそれは本当の事だから
反論するつもりは無い。

そんな中の 『 花月園美雨 』 の新曲 『 MEMORY 』  は話題を呼んで
その週のオリコン1位になった。

オレはと言う相変わらずで…あれから由貴はオレの部屋で寝る事は無かった…

ちょうど仕事もオフに入ってたのもあったしマスコミ除けに何処かに行く時は
事務所の車での移動だったから必ず事務所の人間がいて
由貴と2人っきりになんてなれなくてまだ由貴に謝ってない…

食事の支度はちゃんとしてくれるし朝だって起こしに来てくれる…

でもオレの事はほとんどがシカトだ……



はあ…由貴を…抱きしめたい…

由貴を抱きしめて眠りたい…

気の済むまで…由貴と…キスがしたい……




「え?パーティ?」

「そんな大袈裟なものでは無いらしいんだ。あの曲作りに係わったスタッフやら
スタジオ関係の内輪でのパーティでホテルの一室貸し切ってやるそうだ。
一応惇哉君にも参加して欲しいって話が来てるんだけど…
あの事の後だからね…君に聞いてからと思って…彼女も…花月園さんも来るし…」

事務所の社長室で社長直々の仕事の話だ。

「参加しますよ…仕事として話が来てるんでしょ?なら行きます。」

「……そうかい…じゃあ明日の7時に 『 ダイヤモンド・ホテル 』 だから。」

「はい…」

「ところで…柊木君には…許してもらえたのかね?」

社長がコソッとオレに聞いてくる。

「……まだです…」
「彼女真面目だからねぇ…真面目でいいんだが融通のきかない所もあるし…」
「はあ…」

まさにその通り…

「まあいつか許してもらえるんじゃないかな?」
「だといいんだけど…」

オレは苦笑いを社長に返した。




「別に来なくたって良かったんだぞ…」

「仕事ですから!私だって仕方なくです!!」

相変わらず由貴は怒ってる…オレの話なんて聞く耳持たない感じで…
ちょっと時間が経ち過ぎて気持ちがややこしい事になってる気がする……



「いらっしゃい  ♪ 」

部屋に入った途端美雨さんが出迎えてくれた。

ホテルの一室と言ってもメインの部屋は舞踏会でも開けるんじゃないかと
思えるほどの広さでその中に丸いテーブルが10個ほど置いてあって
料理と飲み物が溢れんばかりに置かれてる。

そこから個室に繋がるドアが3つあってきっとゲストルームか…

しかし…金掛けてんな…オリコン1位はそんなに儲かるのか?


「来てくれないかと思ってた…」
「仕事だから…」
「相変わらずね…今日はマネージャーさんも来たんだ。」
「こんばんは…お招きにあずかりまして…」
「いいのよぉ〜今回のヒットは惇哉のお陰でもあるんだから…
まあ…お互いお騒がせだったけどね…ってもう済んだ事だし…
今日はお祝いだから楽しんで行って。」

そう言って美雨さんはオレの腕を引っ張って行く…

由貴はそんなオレ達の後ろをちょっと離れてついて来た。


部屋の中は常に人が100人近くいる…
だからザワザワ…BGMも流れててそれに人が多くて…

何だかんだと声を掛けられ…知り合いに会えばこの前の事を根掘り葉掘り聞かれ…
気が付いた時には由貴を見失ってた…

由貴……オレの傍を離れるなって…言っとけば良かった…



「柊木!」

「氷野君…」

「何だ来てたのか?」
「ええ…彼の付き添い…」
「アイツも来てるのか?」
「だって関連深いでしょ?」
「まあ…今回の曲が売れたのもアイツの…いやアイツと美雨のお陰か?」
「…………」
「良くまあ来れたもんだ…どんだけ面の皮厚いんだ…」
「彼はただ花月園さんと飲んだだけだって言ってるわ…
花月園さんだって2人の関係は否定してるじゃない。」

そう…2人の間には何も無かったのわかってる…わかってた…

「そうか?そんなのお互い口揃えてるだけかもしれないだろ?」
「氷野君は何が言いたいの?」
「アイツ等2人は楽しくやってるって事だよ。2人して仕事を隠れみのにしてな!」
「そんな事…」
「見ろよ!」
「え?」

彼が視線だけ違う方を見るから私もつられて視線を向ける……

その視線の先に…

部屋から出て行こうとドアを開ける花月園さんと
その後を腕を引かれてついて行く惇哉さんの姿が見えた……


一瞬で……私の周りの全ての音が消えた…


「な…ああ言う事だよ…上手くやって楽しんでるんだ。」

「…………」

そんな私の耳元に氷野君が何か言ってたけど………

私の耳には……何も聞こえなくて…


ただ……2人の消えたドアが…

今…ゆっくりと閉まったのだけが見えてた……