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「美雨さん何?話って?」

はぐれた由貴を探してたら美雨さんに話があるって言われて…
人に聞かれたくないって言うから2人で廊下に出た。

「惇哉は今回の事…どう思ってるの?」
「どう?どうって?」

「事務所通して2人の関係は何でも無いって言ったけど…あたしはこのまま有りでもいいなぁって…」

「は?」

「そんな顔しないでよ!あたしは惇哉ともう一度やり直したいの!」
「だからオレはその気無いって最初から言ってるだろ!」

「………そんなにあのマネージャーがいいの?」
「いい。」

「あたしよりも?」
「美雨さんよりも。」

「相手にされて無いんでしょ!」
「そんな事無い…ちゃんと好かれてるよ…お互いに…ね…」

「ウソ…」
「本当だって…」
「そんなに好きなの…」
「そんなに好きなの ♪ 」

「そう…何だかそんだけはっきり言われると意地悪したくなる。」

「え?どんな?」

「!!何で嬉しそうな顔してんのよ!」
「いやぁ〜障害ある方が燃えるかな…って ♪ 」
「もう…なら逆にマスコミにリークしてさっさとまとめてやるから!!」
「あ!それはパス!」
「え?何で?」
「そんな事したら逆に意地張ってオレの事全否定されるから…」
「はい?」
「難しいんだ…」
「だから燃えるの?」
「当然!」

「そっ……なんか…やっぱり惇哉変わってない…か…」

「そう?」

「うん…」





「美雨!」
「どうしたの?」

部屋に戻った途端美雨さんのバンドのメンバーが寄って来た。

「祥平知らね?」
「祥平?見ないけど…」
「いないんだよ。」
「もう少ししたら演奏あるだろ…だからそろそろスタンバイしとかないとと思ったんだけど…」
「廊下には誰も出て来なかったから…中にいるはずよ。」
「でも…いないんだよな…」

「ハッ!由貴は?うちのマネージャー見なかった?」

「あんたのマネージャー?見なかったかな…なあ?」
「ああ…そう言えばいなかった。」

「 !!! 」

美雨さんの言う通り…廊下には誰も出て来て無い……
って事はこの中にいるはずなのにいないって事は……

「 まさか…… 」




「 !! 」

目の前が暗くなって我に返った。

「え?ここ…」

見回すと…10畳ほどの洋間の部屋の真ん中にベッドが1つ…
電気は点いてなかったけどレースのカーテンの窓から差し込んでくる外の明かりで
照明の明かりが無くても何となく部屋の中が見える…

でも…なんで私こんな所に?

「ゲストルームでさ…酔った客の為に用意してあるんだけど…違う使い方してる連中もいる…」

私の後ろからそんな声がした…振り向くと…

「氷野君…?」

何だろう…頭の中がボーっとしてて…上手く廻らない…
だって…惇哉さんが……花月園さんと……2人で……

「俺達も楽しくやろう…柊木…」
「え?」

彼が私の肩に手を掛けた……その重さで我に返った!

「ちょっ…一体何のつもり?」
「今更何言ってんだよ…柊木。すんなりここまでついて来たじゃんか。」
「ちょっと考え事してたのよ!どいて!」

やだ…いつの間にこんな所までついて来ちゃったんだろう……

「どくかよっ!いい加減覚悟決めろよ!あっちはあっちで楽しんでるんだ!」
「それと私があなたとこうなる事と何の関係がある…きゃっ!!」

言ってる最中に突き飛ばされてベッドの上に仰向けに倒された!
スプリングが利いてるベッドで身体が大きく跳ねる。

「……つっ…」

モタモタ起き上がってたら彼に馬乗りされた!

「いやっ!!どいて!!大きな声出すわよっ!!」
「叫んだって聞えやしないさ。あの人数にBGMに…
誰も俺達の事なんて気に止めてる奴なんかいない。」

「あっ!!……いや!!!」

ビリッ! とブラウスの前を力任せに左右に広げられた。
その勢いで何個かボタンが弾け飛んだ!

「暴れるなよ…サッサと済ませないと俺も時間が無いんでな。」
「何言って……やめてっ!!どいてっ!!」

どんなに彼を押し退けても…もがいても…彼はビクともしなかった…

「あっ!!」

暴れる両手を彼の片手に掴まれて頭の上に押さえ込まれる。

「………!!!」

キスされそうになって思い切り顔を背けたらそのまま首筋に彼の口が触れた。

「……うっ……」

舌の感触が首筋を這ってる……やだ!……気持ち悪い!!

「いやあ!!」

「運が悪かったと思って諦めるんだな…」

彼が馬乗りのままそんな事を呟く…

「?……どう言う……意味?」
「楠惇哉のマネージャーなんてやってるからこんな目に遭うんだ…」
「え?なに?どう言う…こと?」

惇哉さんと…何か関係があるの?

「お喋りはお終いだ…本当は高校の時にこうしたかったけどな…」

「…やっ…!!!」

ブラウスの下から彼の手が乱暴に入って来て素肌を撫でられる……

「やめ……」

強引に足の間に割って入って来られて……勝手に足も開く……
彼の手が胸から腿に移動して……スカートの中に手が……

「あ…あ…いや…いやああ!!惇哉さんっっ!!惇哉さんっっ!!!!」

助けてっっ!!!

「…………」

「 …? 」

何故か氷野君の動きが止まる…目を明けたら驚いた顔して私を見下ろしてた…

「お前……」

「………?」

その時…

「 由貴っ!!! 」

惇哉さんの私を呼ぶ声がして…勢い良く入り口のドアが開いた。

「惇哉さん!!!」

「由貴!!」

もうこの部屋しか無いと思って飛び込んだら部屋の真ん中のベッドに
由貴がアイツに組み伏せられてた!!

「由貴から離れろっ!!!」

「 !!! 」

「あ…ダメ!惇哉さん!!!待って!!」

彼に殴りかかる惇哉さんの腕にしがみ付いて止めた。
惇哉さんが入って来たと同時に氷野君は私の上から退いたから…


「由貴離せっ!!何でこんな奴庇う!!自分が何されたかわかってんのかっ!!!」

「そうだけど!!!惇哉さんに暴力事件なんて起こさせるわけにはいかないからっ!!」

惇哉さんの腕に必死にしがみ付きながらそう叫んでた…
だって…私のせいで…惇哉さんに迷惑なんて掛けられない……

「由貴……」

「………うっ…」

「……はあ………わかったから…腕離して…」

惇哉さんがため息をついて…私の頬にそっと掌で触れたから…
ぎゅっと瞑ってた目を明けた。

「……惇哉さん……」
「大丈夫?」
「……うん…あ…」
「 ちゅっ… 」

惇哉さんが氷野君がいるのに…私に触れるだけのキスをした。

「何だ…お前等そう言う関係かよ…」

「さっさとここから出てけ!二度と由貴に近付くなっ!」
「あんた…美雨とヨリ戻すんじゃないのかよ?」

「は?何だよ…」
「昔付き合ってたんだろ?今回の仕事でヨリ戻すのかと思ってたよ。」
「オレはもう美雨さんと付き合うつもりなんて無い…美雨さんだってわかってる…」

「なんだ…そうか……」

「早く出てけ!」

「ああ…………柊木…」

「 !! 」

氷野君に名前を呼ばれただけで身体が震えた…
でもそんな身体を惇哉さんがぎゅっと抱きしめてくれた…

「嫌な思いさせて悪かったな…もうこんな事はしないから…忘れてくれ。」

「………氷野君…」


なんで急に氷野君の態度が変わったのか……私にはわけが分らなかった…


氷野君が出て行ってパタンと入り口のドアが閉まると…

また部屋の中がボンヤリと暗くなった…