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「由貴これ見て ♪ 小道具さんからもらった ♪ 」
「え?」
惇哉さんが何故か得意げにソファの背もたれから身体を捻ってキッチンにいる私に話し掛ける。
あの熱愛報道から約3週間…いい加減周りも騒がしく無くなって…
一番の当事者の 『 楠惇哉 』 は最初から他人事の様に慌てる事無く
上手くマスコミをかわしてた…
『 由貴に大嫌い!って言われたのが一番堪えた。 』
って後で言われたけど私だってそれ以上に大変だったんだから…
そのくらい堪えてもらわなきゃ!
ほんの数日間のお互い1人の時間は…何だか変な時間で…
また惇哉さんの部屋で一緒に暮らす様になってから前以上に
惇哉さんが私を離さなくなった気がする…
「由貴!」
「ちょっと待っててよ。今コーヒー淹れてるんだから…」
「 ♪ ♪ ♪ 」
「なに?」
何だか上機嫌?
「今日の撮影でコレ貰った ♪ 」
ピラリと紙を見せる。
「何?ああ…」
映画の撮影の前に2時間もののドラマの撮影に入ってる。
以前放送されたドラマのスペシャル版で付き合う所で終わった2人が
今度は結婚するまでの話…
そんな撮影で今日彼氏役の惇哉さんが婚姻届けに名前を書けなくて
2人の間がちょっとこじれはじめるシーンだった…
「持って来たの?」
惇哉さんがピラピラとしてたのは婚姻届けだった。
「うん。何枚もあるって言うから…」
「本物?」
「コレは本物。」
「何で?」
「ちょっとした好奇心 ♪ 」
「物好き…」
ソファの前のテーブルに2人分のコーヒーを置いて惇哉さんの隣に座る。
「由貴。」
「ん?」
「試しに書いてみて。」
「…………は?」
「イテテテ!!やめっ!!何で鼻摘むんだよ!」
「だって…急に戯れ事を言うから…」
「本番前の練習!書き方教えて。」
「そんなの見ればわかるでしょ?指定されてる事書けばいいのよ。
名前に住所に生年月日…簡単じゃない。」
「用紙に書き込まれてるのを見てみたいの。由貴!」
「だから…」
「簡単なんだろ?」
「………悪用しないでしょうね?」
怪しくて…
「するわけ無いじゃん。どんな悪用?」
「……ううん…何でも無い…」
そうよね…悪用なんて…婚姻届けの使い道なんて1つしか無いんだし…
いくら何でも勝手に提出なんてしないだろうし…
だって…そしたら…夫婦になるって事で…
「まさかアカの他人の名前書いて出したりしないわよね?」
念の為に聞いてみた。
「オレが由貴を他人に渡すと思ってる?」
「 !! 」
ドキン!と心臓が跳ねた!聞いて失敗…墓穴掘ったかも…
「何で真っ赤?」
「な…何でも無いから!仕方ないわね…ちゃんと見てなさいよ!」
その場をごまかす為に慌てて婚姻届けを掴んだ。
「はい。ボールペン ♪ 」
「………」
随分用意が良いわね…なんて思いながらもボールペンを受け取った。
「ちゃんと真面目にね。」
「わかったわよ…えっと…ここが名前で…苗字と名前は別けて書くでしょ…」
「歳ごまかすなよ。」
「失礼ね!ごまかす様な歳じゃありません!それに私の生年月日知ってるでしょ?」
「 ♪ ♪ ♪ 」
何でそんなにニコニコなのよ…
「で…住所に…本籍と…あと証人2人…きっと役の上での親の名前になるんでしょうね。」
「へえ…こんな感じになるのか…他にも色々書く事があるんだな…」
「でこっちに惇哉さんの役の名前を書き入れて出来上がり。」
「ふーん…」
「あ!ちょっと…」
惇哉さんが私からボールペンを取るとスラスラと婚姻届けに書き出した。
「ちょっと…何書いて…」
「出来た ♪ 」
「もう…しかも役の名前じゃないじゃない!」
しっかり本名書いてるし…
「だってさ…いくら役っていっても生まれて初めての婚姻届けだよ。
やっぱり相手は由貴でなきゃ ♪ 」
「いつもはそんな事気にしないじゃない…」
「最近気にするようになったの ♪ 」
「変なの…じゃあもう良いでしょ。それちょうだい!」
「え?何で?」
「惇哉さんが持ってるのが不安だから。」
「何?不安って?」
「ふざけ半分で提出しそうだから。」
……きっぱり言い切ったな…由貴…スルドイな…
「だから出さないって!出すわけ無いだろ?人の一生の問題なんだから。」
「そうだけど…」
「じゃあ破く?」
「え?やだ…何だか縁起が悪い!」
それは何の思惑も無くそう思った。
これから先するかどうだかわからないけど
何となく破いたら結婚生活が上手くいかなそうで…
「は?…くすっ…じゃあどうする?」
「だからこう言うの嫌だったのに…」
「じゃあ寝室のサイドテーブルの引き出しに入れとくから。
あそこなら由貴の目も届くし…ね?」
「いいけど…本当に勝手な事しないでよ!」
「しつこいなぁ…しないって!それとも遠回しにしてくれって言ってる?」
「言ってない!」
そんな話をしながら 『 あれ? 』 って思う…
何だか結構大事な話…されてたような気がするんだけど……
「んー?」
ま…いっか…あんまり深く考えずに冷めかけたコーヒーを飲んだ。
由貴が何事も無かった様にコーヒーを飲んでる。
何気に大胆な事言ったのに由貴は気付いてるのかいつもの天然か…反応はイマイチ。
撮影で婚姻届けを使ったのは本当だけどこの今書いた婚姻届けは別に
用意してもらった本物の用紙だ。
流石に勝手に出したりしないつ・も・り・だけど…この先どうなるかわからない。
いつか出せる日が待ち遠しい ♪
「三鷹さん…退院したからもう少しね。」
「自宅で療養して…しばらく内勤して復帰かな。」
「映画がマネージャー最後の仕事かしらね。」
「………」 「………」
何だか変な沈黙で…
「大分慣れたのにな。」
「まあ細かい打ち合わせとかスケジュール調整とか大変だったけど…
事務所の皆も協力してくれたし…それに…」
「それに?」
「相手が惇哉さんだったから…
きっと知らない人だったらこんなにスムーズに行かなかったと思う…」
それは本心…
「そうだろ…オレ随分マネージャーに協力的だったもん ♪ 」
「!!」
言いながら私の方を向いて私との距離を縮めて来る…
「色々手間も掛けさせられたけど…!!」
惇哉さんの指先が私の頬に触れた…身体が震えたの…わかったかしら…?
「でも…充実してただろ?」
「ね…ねえ…」
「ん?」
更に近付いて来る彼の気を逸らすように話し掛けた。
「これで…貸しは帳消しになるのよね…?」
そう…最初の約束で貸しを返す為に始めたマネージャーの仕事だもの…
「さあ…どうかな…」
「な…何で!どうして?」
「貸しの大きさの問題!」
「大きさ?」
「由貴の貞操の危機を助けた ♪ 」
「あ…あれは…もとはと言えば惇哉さんの…せ…」
また更に近付かれた…
「アイツについて行ったのは誰だっけ?」
「だからそれは……や……んっ…」
またキスされた!
しかも私の唇に微かに触れるくらいの絶妙なキス…
私は唇が弱いからこんなキスされると…
「…ぁ……」
自分ではどうしようもない声が出ちゃう…恥ずかしい…
「やめ……う……んっ…」
顔を逸らすと今度は息が出来ないくらいのキスをされる…
「惇…哉さ…ちょっ…」
「由貴…」
また…最後はお互いがお互いを求めるキスに変わっていく…
いつから…そんなキスをするようになったんだろう…
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「あ…携帯…鳴ってる…」
私の携帯が鳴りだした…
「こっちが優先…」
「…も…ん……」
ずっと携帯が鳴り響く中…
身動き出来ない様に……惇哉さんがギュッと私を抱きしめてた。