55
「ただいま…」
ってまた部屋が暗い…
「惇哉さん?」
玄関に靴はあったからいるはずなんだけど…
リビングの電気が点いてないって事はもう寝ちゃったのかしら?
でも時間はまだ10時過ぎ…
「ひゃっ!」
リビングの電気を点けたらソファに惇哉さんが座ってた!
「や…もうびっくりするじゃない…どうしたの?明かりもつけないで?」
「……由貴は?」
「え?」
「由貴は今まで…何処で…何してた?」
「惇哉さん…?」
何だか…惇哉さんがいつもと違く感じたから…
「ご飯食べたの?」
「……………」
「…じゃ…じゃあコーヒー淹れるわね…」
そう言ってキッチンに歩き出した私の後ろから惇哉さんが近付く…
「きゃっ!!」
いきなり腕を引っ張られて近くの壁にまた万歳の状態で両手を押さえ付けられた。
肩に掛けてたバックが外れて床に落ちて…中身が飛び出した…
「惇哉…さん…?」
「由貴…オレが聞いてる…今まで…何処で…何してた?」
いつもみたいに惇哉さんが目の前に…唇がくっ付きそうなほど近くにいるのに…
でも…いつもの惇哉さんじゃ無い……
「ねえ…由貴…教えて…」
「だ…だから…友達と食事して…話し込んでたの…遅くなったのなら謝るから…離して…」
「ふーん…友達…ね…」
「 ? 」
「どんな?」
「どんなって……こ…高校の時の…」
「クラスメイト?」
「…え…ええ…」
「女の子の?」
「そう…だけど?」
「へえー…今時の女は男物の上下のスーツ着てホテルの部屋で落ち合うんだ?」
「…え?」
「本当の事…話してよ…由貴…」
「惇哉さん…どう…して?」
「どうして?よく言うよ…
あんな見え見えなウソと挙動不審な態度見れば誰だっておかしいって思うだろ?」
「見え…見え?」
「なに?もしかして気付いてなかったの?そんなに相手の男に会えるのが楽しみだった?」
「惇哉さん……違……あっ!」
由貴が床に視線を落とすと慌てた声を出した。
「ん?……なっ!!!」
床にぶちまけられた由貴のバックから…あれは…見覚えがある…
「婚姻届け?」
「あ!まっ…違うのっ!!」
「何でこんな所にあの婚姻届があるんだよ…」
「だから…違くて!!!」
床の由貴のバックから飛び出してる婚姻届を拾うのを由貴が邪魔するから…
何とかその手を逃れて婚姻届を鷲掴んだ。
「何だよこれ…」
拾い上げて広げた婚姻届は…この前オレと由貴が書いた物じゃ無い…
用紙には1人分しか名前が書いてなかったし…その名前が…
「若林…哲也?」
「か…返して!!」
横から手を伸ばしてくる由貴を背中で遮った。
「誰だよ?この若林って?こいつがホテルで会ってたあの男なのか?」
「違う!」
「ウソつくなっ!由貴!!!ならちゃんと説明しろっ!!!あの男は誰でこの用紙は何なんだ?」
「…………」
「由貴っ!!!!」
「…………」
「……そっ…か…言いたくない…か……」
由貴はオレから視線を逸らして無言だ…唇をぎゅっと噛み締めてる…
オレが…こんなに言っても…そんな態度かよ……まったく…
「 はあーーーーー 」
「ん?」
由貴が急に大きなため息をついた。
「全部話すから…電話1本掛けさせて。」
「は?」
いいと言う前に由貴は自分のバックから携帯を取り出して掛け始めた。
オレは訳がわからなくて…呆然とその様子を見てた。