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「由貴…」


何とも言えない気持ちがさっきからオレの胸の中で渦巻いてる…

あんなにムカムカとしてた感情が今は恥ずかしい様な後悔の様な…

由貴にだけこんな気持ちになる…

由貴は怒ってないって言った…でも…呆れられたんじゃないかって…

疑ってたとか…そんなんじゃない…ただ…
由貴が他の男と一緒にいるのが…他の男が由貴の隣にいるのが無償に嫌だった…
オレにウソをついてまで男に会ってたのが許せなかった…

でも…満知子さんの再婚相手の結婚してる息子で…もしかしたら義理の兄貴になる相手…

それにもとはオレにその事を隠す為…


「……………はあ…」


浴室のドアの反対側の壁に寄り掛かりながら廊下に座り込む…

知らなかったとは言え…超無様だ…オレ…



「……無い…」


風呂上がり…ちゃんと持ってきたつもりが下着も…パジャマも…無い!!
バスタオルに包んで持ってきたはずなのに…

「何で?」

忘れた落とした…?

「とにかく部屋に…」

バスタオルを身体に巻いて何も考えず浴室のドアを開けた。

「お!」
「え?」

目の前に彼が座ってた!

「なっ…」

バ タ ン !

お互い目が合って慌てて浴室のドアを閉めた!!


「ちょっと!何で惇哉さんがそんな所にいるの!もしかしてずっとさっきからそこに?」
「うん…」
「も…信じられない…とにかくあっちに行って!」
「何で?」
「何でって…あなたがそこにいたら私が出れないから!」
「だから何で?着替えて出てくればいいじゃん。」
「…出れないから言ってるんでしょ!」
「もう…だから何でだよ?」

「…う……き…着替え…忘れちゃったみたいなの!持ってきたはずなのに無いの!
だからこの格好で寝室に行くから惇哉さんあっち行ってて!」

「何だよ…ならオレが着替え持ってくるよ。」

「ダ…ダメ!いいから!余計な事しなくていいから!」
「何で?」
「何でって…」

下着見られたら恥ずかしいでしょっっ!!

「遠慮しなくていいよ。どうせ出してはあるんだろ?」

確かに出した記憶はあるけど…どんな状態で置いてあるのかが問題なんだってば!
下着が思いきり上にあったらどうするのよ!!

でもだからってこのバスタオル1枚で惇哉さんの目の前に出る勇気無いし…

ってちょっと!!

「待ってて。」

惇哉さんが歩き出した気配がして…

「だからいいってばっ!!」

「え?」

浴室のドアが勢い良く開いて由貴がバスタオル1枚で出て来た!

「 !! 」

物凄い慌ててオレの横を走り抜ける…

「由貴?」

寝室に入ろうとスピードを緩めた由貴が…滑ってバランスを崩して……コケた。


「 あ っ !! 」

惇哉さんがいいって言ったのに私の忘れた着替えを取りに行くそぶりを見せるから
慌てて浴室から飛び出した。

惇哉さんを追い抜いて寝室に入ろうとした時…
スピードは緩めたつもりだったのに…身体がついて来なくて………コケた!!!

「きやっ……」

「由貴!!」

ド サ ッ !!

「痛っ……」

く無い?何で?思った程衝撃は無くて…あ…!

「はあ…大丈夫?由貴…」
「惇哉さんこそ…大丈夫?」

気付けば床に座ってる惇哉さんの膝の上に背中向きで抱き留められてた。

だから首を捻って惇哉さんを見上げた。

「ちょっとキツイ…かも!」

スライディング状態で倒れ込んでくる由貴を抱き留めたのはよかったんだけど
腰と背中の角度が限界!

「うっ!」
「きゃっ!」

ベシャっとオレは床の上に由貴はオレの上に2人重なって仰向けに倒れた。

ゴ ン !!

「イテッ!」

床に後頭部ぶつけて思わず声が出る。

「大丈夫!?」

惇哉さんの上に仰向けになってた身体をクルンと反転して覗き込んだ。

「んー…ちょっと痛いかも…」
「え?どこ?頭?背中?腰?どうしよう…明日撮影あるのに…」
「ここが痛い…」
「え?」
「ここ…」

そう言って惇哉さんが自分の胸を触った。