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「オイ!惇哉こっち!」
「!」
映画監督の北館さんに呼ばれて北館さん行きつけの店を訪れた。
仕事絡みだけど雑談混じりの飲む延長だから由貴は居なくてオレ1人だ。
「悪いな忙しいのに。」
「いえ…ドラマの撮影も終わったんで。」
「じゃあこれで俺の方の仕事に集中してもらえるのか。」
「はい。」
いつもの様に早いペースでお酒が消費されていく…2人とも多少のお酒じゃ酔いもしないから。
「撮影入るのはまだ先だけどな。」
「オレってどんな役なんですか?」
そう言えば詳しい話は聞いて無かった。
「ああ…そっか…まだ台本は出来上がって無いから見せられないが…話は推理サスペンスだ。」
「推理サスペンス?」
「今までの惇哉のイメージからすると役柄は180度違う役だな。」
「180度?」
「ちょっと“ココ”がキレるが性格は危ない奴!」
そう言って自分の頭を人差し指でトントンと叩いた。
「へえ…面白そうだ。」
「相手役はオーディションで決める。」
「へえ…」
「だから外見もちょっと変えてほしいから髪少し伸ばせ。」
「…わかった。」
「お前タバコ吸えるよな?」
「うん…」
「脱アイドル俳優だな。」
「何それ?」
「今までみたいなモテ男な役じゃないからな…イメチェンになるけど…大丈夫か?」
「仕事ならオレは平気。」
「よし。…あ!それとな惇哉…」
「ん?」
「お帰りなさい。どうだった?北館監督の話…」
玄関のドアを開けると由貴がお出迎えをしてくれた…
やっぱり部屋に帰って由貴に1番に会えるっていいもんだな…
オレはそれだけで上機嫌になる。
「大まかな事は聞いた。今度正式に事務所に来る。」
「そう。話はもう社長にも通ってるから心配する事無いし…?どうしたの?」
ちょっと惇哉さんの様子が変で…
「いや…ちょっと酔ったかな…」
「?」
「由貴…」
「ん?……あ!」
惇哉さんの腕が伸びて簡単に後ろから抱きしめられた。
「惇哉さん?」
「しばらく…こうしてて…由貴…」
そう言って惇哉さんが唇を私の頭から項から首筋に押し付ける。
「くすぐったい…あ…」
そのまま頬に啄むキスを何度もするから…私の身体がピクンと跳ねる…
「や…惇哉さ……」
勝手にそんな声が出ちゃう…もう…恥ずかしいのに…やめてくれない…
「由貴…」
後ろから由貴の身体の胸と腰の辺りをちょっとだけ力を込めて抱きしめる…
由貴の身体の形がわかっていつもオレは内心嬉しくて仕方ないんだよな…
「ちょっ…どうしたの?監督と何かあったの?」
「いや…やり甲斐のある仕事だと思ってさ…」
「そうなの?」
「ああ…オレにとって記念すべき作品になる…」
「そんなに?」
「ああ…」
由貴の頬にオレの頬をくっ付けたまま頷いた…
きっと由貴にとっても記念すべき作品になるよ…
「ん?」
「いや…」
オレが心の中でそんな事を呟いてたなんて由貴は知るはずも無く…
いつまでも抱きしめてるオレから必死に逃げようとしてた…
由貴がオレの腕の中で眠ってる…
無理矢理寝てた最初の頃に比べたら何の苦労も無くオレと一緒に寝てくれる…
「由貴…」
更に腕に力を入れて抱き寄せた…
由貴は…オレの事好き…だよな?
未だに由貴からオレの事が好きとは聞いた事が無いけど…
この状況なら…そう思ってもオレの自惚れじゃ…ない…よな?
「……ン…」
指先で優しく由貴の頬を撫でたら小さな声がちょっとだけ開いた唇から洩れた…
そんな声出されたら手を出したくなるだろ…
今度は指先で由貴の唇を優しくなぞる…
「…ぁん…」
ちょっと眉を寄せた顔が色っぽい…唇弱いもんな…由貴は…
「ちゅっ…」
そっと優しく唇に触れるキスをした…由貴は起きる気配は無い。
「フッ…オレってそんなに警戒されない男なのかよ…由貴…」
思わず笑いが込み上げる。
「でもな…由貴…これからは覚悟決めてもらうから…」
オレは寝てる由貴の耳元にそう優しく囁いて…
由貴の温もりを確かめながら眠りについた…
由貴に…今のオレの言葉はきっと届いていないだろうけど…
オレはそう由貴に宣言した…