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「今日は外で食べて帰ろう。」

「いいけど…珍しいわね。」

事務所からの帰り道…宣言通り惇哉さんは私を迎えに来てくれた。
帰りの車の中で急にそんな事を言い出す…
いつもはゆっくりしたいからってあんまり外食はしないのに…

「たまには由貴にもゆっくりさせないとな。」
「………」
「何?」
「何だか最近惇哉さんおかしいなって…」
「そう?気のせいじゃん。」
「そうかしら…」
「じゃあどこが?」
「どこが…って…上手く言えないけど…」
「じゃあ気のせいだよ。」

「…………」

どう言ったら良いんだろう…本当に上手く言えないけど…

何だか…私に近付こうとしてる?



「ほら飲んで。」
「……私だけ?惇哉さんは?」
「オレは車の運転があるだろ。」
「じゃあ私もよかったのに…」

2人で初めて入ったフレンチのお店でいつの間に頼んだのか
惇哉さんにお酒を勧められた。

「由貴はいいんだよ。たまには寛いで ♪ 」
「…………」

今更下げてもらう事もできず仕方なくグラスに口を着けた。

「ここに来た事があるの?」

慣れてる感じだからそう聞いた。

「昔何度か連れて来てもらった事がある。」
「へえ…」
「彼女とじゃじゃないから 。」
「別にそんな事聞いてないわよ。」
「いや〜知りたそうな顔してたから。」
「してません。」

そんな事言うから思わずお酒がすすむ。

「クスッ…」
「何よ?」

惇哉さんが私を見てクスッと笑う…

「いや…由貴とこんな風に過ごすの久しぶりかなって…いや初めてか?」
「どうかしら?ランチは良くたべたけど…でも大丈夫?人目が心配…」
「この店に来てる人でそんな野暮な人はいないよ。
それに由貴は今オレのマネージャーなんだから誰に見られたって平気だろ?」
「そうだけど…」
「由貴は心配しすぎ。」
「……ごめんなさい…」
「ほら食べよ。結構イケるんだからここの料理。」
「うん…いただきます。」

その日の惇哉さんは良く喋った…あ…私が色々話し掛けてたからかな?
だってちょっと酔いが廻って気分が良かったから。


「どこに行くの?」
「良い所 ♪ 」
「本当に?怪しい…」
「本当だって信じてよ。」

「…………」

そう言って連れて来られたのはお店から20分程車を走らせた臨海公園…

少し歩いたらすぐに海が見えて遠くには街のネオンが見える…


「綺麗だし風が気持ちい い…」

火照った頬に潮風が気持ち良かった…

「気に入ってもらえた?」

柵の手摺りに捕まって海を見てた私の顔を惇哉さんが覗き込んで聞いてくる。

「うん…夜にこう言う所に来るの久しぶり…」
「由貴は真面目だからな…それに最近はオレの為にお出かけも我慢してくれてたんだろう?」
「べ…別にそんな事無いわよ…」
「クスッ…まあいいけど…」

そう言うと惇哉さんはクルリと柵に背中を預けて私とは反対を向いた。
私はそのまま海を見てた…

「……………」


しばらく2人とも無言で過ごした…

気まずいとかじゃなくて…黙ってても自然で…違和感も無くて…


「!!」

気付いたら私の後ろからいつもの様に惇哉さんが手摺りを掴む。

「ダ…ダメよ!人に見られる!!」

由貴が慌てて身体を捻る。

「大丈夫だから。ここはそう言う所なの。」

「え?」
「周り見てごらんよ…カップルばっかだろ?」
「あ…」

言われてみれば同じ様に海を眺められる柵にはちょっとずっ間隔を空けてカップルがたくさん…
後ろのベンチにも1つのベンチに1組ずつ…

「…………」

私はちょっとびっくりで…

「 な?だから気にする事無いから。」
「でも…惇哉さんは普通の人とは違うんだから…」
「同じだよ…」
「!?」

「由貴の前では…オレも1人の普通の男だから…」

「惇哉さん?」

「今はオレを見て…」
「あ…」

私を手摺りと腕の中に捕まえたまま…惇哉さんが近付いて来る…

「あ…ダメ…」

こんな所…誰かに見られたら…でも…

「ん…」
「ちゅっ…」

自分から顔を上げて…惇哉さんとキスをした…

「ァ……ン…」

外で…惇哉さんとキスしたのは初めてだったかしら…なんて事を考えてた…

「…ん…」

あんまりにも長い長いキスだから自然に惇哉さんの腕に掴まってた…
どれだけの時間…キスをしていたんだろう…いつもみたいに息が上がって…


ここが外だと忘れるくらい…長い長い舌を絡めるキスを由貴とした…

浅い呼吸を繰り返してオレの腕に掴まりながら見上げる由貴の
潤んだ瞳が何とも悩ましくて…愛おしい…

「由貴…」

力の入らない由貴の身体を抱きしめた…

「も…加減…して…」
「ごめん…」
「でも…何で?」
「ん?」
「やっぱり……いつもと違うみたい…」
「…………」
「惇哉さん?」

「由貴とは最初から始めようと思って…」

「最初から?」

「由貴とは先に一緒に暮らし始めただろ?だから本当なら最初はデートなのにと思ってさ…」

「じゃあこれって…」

「デートのつもりなんだけど?」

「 !!! 」

ハニかんだ様な惇哉さんの顔を見て私までドキリとなって顔が赤くなる。

「でも今更かな…やっぱり初々しさに欠けるか?」

「…そんな事…無いんじゃない?」

「由貴…」

「こんな風に夕食食べたのも…その後夜の公園なんてどう見てもデートじゃない…」

「しかも熱々なキス付きだもんな ♪ 」

「それは無くても良かったのに…」

「いや!一番重要な事だろ?
初デートで初キス…じゃないけどね…ふふ…何度目のキスなんだろう…」
「惇哉さんはし過ぎなのよ!」
「仕方ない!オレは由貴とキスしたいんだから…」
「だから…堂々とそんなセリフ言わないでよ…」
「なんで?照れるから?」
「当たり前でしょ!」
「ホント由貴は真面目で初心だな…男にそんな事言われたら嬉しくないの?」
「全然嬉しくありません!恥ずかしいです!」

「でも…邪険にしないで受け入れてくれるよな…由貴は ♪ ちゅっ!」

ドサクサに紛れて由貴の頬にキスをした。

「もう…」

「少し歩いてから帰ろうか?由貴酔いが廻ってるみたいだし。」
「誰のせいよ!」
「オレのせい。」
「わかってるんじゃない。」
「ごめん…」


そんな由貴と手を繋いで公園の中を歩いた…由貴は最初手を繋ぐ事に戸惑ってたけど
オレが有無も言わさず繋ぎ続けたから最後は諦めたらしい。

由貴と最初から始めたいと思ったのは本当で…
でもそれには本当の最初が抜けてる…

『 告白 』 と言う最初の始まり…

それはわかってたけど…オレはあえてそこには触れずに…
言うべき時はもう自分の中で決まってて…

オレは今…その時の為に由貴と最初からを始めたんだから…でも…
今はまだその時じゃ無いから……


由貴…その時は覚悟決めてもらうから…

絶対断れない様に…逃げられない様に…

しっかりとオレが由貴をつかまえるから……