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「由貴…」

惇哉さんがいつもの様にベッドで私を後ろから抱きしめる。

「…………」

あの撮影が終わった日の夜…気まずい訳では無いけど…何となく……

「由貴…こっち向いて。」
「………いや…」
「何で?やっぱり今日の事気にしてるんだ。」
「してない…」
「じゃあこっち向いて!」
「いや!」
「由貴!」

「だって…さっき散々ソファで人の事遊んだでしょ!だからもう寝るの!」

「最後まではしなかっただろ!それに上だけだし…」
「…もう毎晩毎晩なんておかしいもの!こんな時くらい何も無しで寝れないの!」

どうやら由貴は寝る前のソファでの事を怒ってるらしい。

「だってやっと思う存分由貴を抱ける様になったのに2日でオアズケなんてキツイだろ?
だから少しでもそんな気持ちを紛らわすのに由貴で遊ぶ以外何するんだよ。」

「思う存分なんて私許した覚えないわよっ!」

風呂上がり…髪の毛を乾かしてあげるなんてそんな言葉に騙された私がバカだった!
終わった瞬間後ろから惇哉さんの手が伸びたと思ったら
あっという間にパジャマの上着のボタンを外されて脱がされて…
ソフ ァの背もたれに押さえ付けられて…散々好き勝手に遊ばれた!
最後まではしてないけど…今から思い返しても恥ずかしいくらいの声も出て…だから…

「今日はこのままで寝る!」
「由貴…」
「いやっ!」

少しは反省すればいいのよっ!

「由貴……オレがこっち向いてって言ってる……」

「!!」

「オレが言ってる…由貴!」

「……もう…本当にズルイ…」

由貴が渋々こっちを向く。

「由貴が聞き分けないから。」
「違う!惇哉さんがイヤラシイから!」
「由貴だけにイヤラシイんだからいいだろ…」
「……ん…」

ほら…やっぱりキスされる…

「…ふ…ンッ…」

そう言えば彼女ともこんな風にキスしてた……

「!?………由貴?」

由貴が強引にオレから離れて俯いた…

「………」

「好きだよ…由貴…だから…そんな風に考え込むのやめな…
考えても仕方のない事なんだから…あれは芝居で演技…
でも今こうやってキスするのも身体を求めるのも由貴だから…
由貴の事が好きだから…由貴の事が欲しいから…由貴の事が…!!」

由貴が両手でオレの口を押さえて言葉を遮る。

「……わかったから…そんなに言わ れたら…照れるでしょ…」

「………くすっ…チュッ…」

由貴の顔が本当にちょっと赤い…だから押さえてる由貴の手の平にキスをした。

「好きだよ…由貴…オレは由貴だけが好き…」

そっと離した手の隙間から惇哉さんの言葉が洩れる…

「うん…」

今度は抵抗しないで惇哉さんのキスを受け入れて……
惇哉さんの首に腕を廻して抱き着いた…
そしたら惇哉さんが私の身体に廻してた腕に力を込めて……

自分の方に引き寄せた……




「由貴今日撮影夜だから昼間一緒に行きたい所があるんだけど。」
「一緒に?」

次の日の朝…惇哉さんが朝ごはんを食べながらそんな事を言い出した。

「どこに?」

よそったお味噌汁を惇哉さんの目の前に置きながら私も反対の席に着く。

「あ!その前に由貴のマネージャーの仕事は今回の映画の撮影までで…
本当はもっと一緒にいたかったけど最初の約束だしな…三鷹も戻って来たし…」

「……うん…」

そう…最初からの約束だった……んだけど…何だか変な気持ち…

「もっとマネージャーやりたかった?」
「え!?…うん…良くわからないけど…何だか変な感じで…」
「オレもずっとでも構わないんだけど由貴がオレのマネージャーやって ると何かと心配だから…」
「何よ!仕事が出来てなかったって言いたいの!」
「違う…また今回みたいにヤキモキする事があるかもしれないし…何より…」
「何より?」

「由貴って無防備過ぎて心配で仕方ない!傍に居て欲しくてマネージャーやらせたのに
すぐ他の男にチョッカイ出されるから!もう危なっかすぎて見てられないから内勤勤務!」

「それは私のせいじゃ無いじゃない!」
「口答えは聞き入れない!彼氏として…オレ命令!」
「…もう…解雇の理由が気に入らないわよ!」

由貴がムッとしながらご飯を食べ始める。

「由貴…」
「何よ!」

「マネージャー辞めてもここで一緒に暮らすだろ?」

「え?」

「暮らすよな!」

「………」

そっか…マネージャーしてる間だけ一緒に暮らすって約束だったんだ…

「由貴?」

まさか嫌だとか言わないよな?言いそうで怖いけど……

「んーどうしよう?」
「なっ!何で悩むんだよ!」
「だって本当は私の家あっちだしお母さんも時々帰ってくるしね…それに…」
「それに?」

「一緒にいたら身体持たない。」

「ぐっ!」

横目で言われた!

「全部却 下!満知子さんももう若林さんのいるあっちに落ち着いてるし
隣の部屋はオレがここに居る限り手放さないって言ってるし…
由貴はオレと一緒にここで暮らす!」

「………だったらちゃんとそう言えばいいのに。」
「ん?ちゃんと言って欲しかったの?」
「当たり前でしょ!ズルズルなんて嫌だもの。」
「そっか ♪ じゃあ良かった ♪ 早速出しに行こう ♪ 」
「え?何を?」
「これ ♪ 」
「!!」

惇哉さんが手にしてるのは前に書いた婚姻届け!?

「な…何で?」
「何で?今由貴が言ったじゃん。ちゃんと言って欲しいって。ズルズルは嫌だって。」
「それは一緒に暮らす理由の事!何でいきなり結婚なのよ!」
「いきなりっていきなりじゃないだろ!どれだけ一緒にいたと思ってるんだよ!
お互い好きで身体までオレに許してオレと結婚出来ないって言う方がわかんないよ!
ちゃんと満知子さんには承諾貰ってるし!」

「なっ!」

しっかり証人の欄にお母さんの名前と印鑑が押してある!

「ちょっといつの間に…」
「この前ここに再婚するかもって話ししに来た時。」
「なっ…」

そんな素振り全然見せて なかったしお母さんが黙ってるなんて信じられない!?

「満知子さんには絶対由貴には黙ってて言ってある。
オレのお願い聞いてくれない訳無いから ♪ 満知子さんは反対する筈無いし ♪ 」

「………」
「後は社長に報告しがてら証人になって貰って提出する。と!言うわけだから由貴 ♪ 」

「何が 「と言う訳」 よっ!!嫌よっっ!!!」

「は?!」


え??…ちょっと待て…今…………断られ…た?