80





事務所の寺本さんから電話を貰って今日発売の写真週刊誌を買った。

どうしてかと言うと…そこには……
私と惇哉さんの事がスクープとして載ってたから!!

「ねねね熱愛?って…そんな…何で?」

写真はこの前2人で外食して帰った時?

「 『この前の撮影の事故でもマネージャーとしての仕事を越える献身的な看病で
2人の愛を確かめ合った』?えーーーっっ!あの看護師さん喋っちゃったの?
『撮影の合間も周りが目を逸らすほどの親密ぶりで…』ってそんな事してないし…
『皆が見てるのに身体に触ったりしてくるから困ると相談されたスタッフもいる…』って
そんな相談した事なんてないんですけどーーー!!誰よ!こんな事言ったの!!」

腹立つやら呆れるやら情けないやら…もう……いやーーーっっ!!


「惇哉さん!起きて!!」
「んーーおはよう…由貴…何?朝ごはんできたの?」
「違う!もうそれどころじゃ無いわよっっ!!」
「……え……?」
「これっっ!」

まだ半分寝ぼけてる惇哉さんの目の前にあの雑誌を突き出した!

「ちょっと…何?その前におはようのキス!」
「だか らそれどころじゃ…」

雑誌を鬱陶しく払われた。

「由貴…大事な朝の挨拶だろ…それを無下にするなんて……
何?それよりも抱いて欲しいの?昨夜みたいに…」

「!!」

昨夜って…まだ惇哉さんが腕があんまり動かせないからって…からって………

ボンっ!!!

「…………くっ……ププッ!由貴顔真っ赤 ♪ 可愛い…」
「バカっ!本当惇哉さんってばイヤラシイ!!ンッ!!」

後頭部を掴まれて無理矢理おはようのキスされた!
怪我に触ったらと思って抵抗しないのを良い事に強引なんだから!



「へー…」
「もうへーじゃないでしょ!どうしよう!」
「良かったな由貴。」
「は?」
「目隠し入ってたら犯罪者だったな。」
「なっ!!このおバカっっ!!」
「イテッ!!」

バシン!と久々に頭を叩かれた!

「全国誌なのよ〜もう外歩けない!!」
「そう?結構皆気付かないもんだよ。」
「何落ち着き払ってるのよ!」

しっかり朝食も食べてのんびりとコーヒーなんて飲んじゃって…
こっちは何も喉を通らないって言うのに…

「私は惇哉さんみたいに慣れてないの!」
「放っとけばいいじゃん。本当の事なんだし。」
「全然本当の事じゃないでしょ!ウソばっかり!」
「そう?オレの時より は真実みがあるけど…」
「一体いつの誰との時の話をしてるのかしら?」
「まあ色々と…」

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

ナイスなタイミングで携帯が鳴った。

「はい………じゃあ由貴と行くから…大丈夫…自分の車で行く…じゃ後で。」
「………もしかして……」

私は心臓がドキドキ…

「社長。撮影行く前に事務所に寄れって。」
「ああーーもう…」

私はテーブルにバッタリ俯せる。

「由貴…」
「なによ…」

私は起き上がらずに返事をした。

「そんなにオレとの事が世間に知られるの……嫌?」

「………」

ホント何でそんなに慌てるんだよ…オレだってちょっとは傷付くんだけど…

「嫌っ!!!」

グッサリと由貴の言葉が頭と胸に突き刺さった!



「おめでとう。で?式はいつなのかな?」

「社長ーーーっっ!!」

「ん?」
「ん?じゃないですっ!!何でいきなりその話になるんですか?
普通 『 この話は本当なのか?』 とか確かめますよね?」
「いや…本当の事だと思うから聞くまでも無いかなと…」
「違いますからっ!!」
「違うの?惇哉君?」
「あってますけど?」
「あってないでしょ!」
「じゃあ2人の間には何も無いって…言っていいのかな?」

「え?」

そうか…そっちは……

「どうすんの?由貴…」
「え?」

「オレとの事…否定するの?」

「……それは……」

確かに…話の内容は嘘の部分が大半だけど……
付き合ってるって言う所は……嘘じゃ無いし……

でも……

「由貴がそうしたいなら……オレはいいけど……一応由貴って一般人だもんな…
大っピラにするのがイヤだって言うならいいよ…否定すれば…」

「………」

そんな事…これっぽっちも思って無いくせに…
それに一応って何よ…一応じゃなくてれっきとした一般人です!私はっ!!

社長は期待満々の顔で見てるし…
社長も否定しようなんてこれっぽっちも思ってない顔してるし……
何?グル?グルなの?この2人…って言うか3人?私のお母さんも入れて……

「……わかり…ました…」

「ん?」

「交際は認めて結構です…でもあくまでも交際中って事だけで認めて下さい。」

「何でだよ由貴!もう結婚前提の付き合いって言っちゃっていいだろ?オレはそのつもりなんだから!」
「だから結婚はまだ考えて無いって言ってるでしょっ!!」

「由貴っ!!」

「うーーーん…交際だけ認めればいいのかな?」
「ダメだよ!社長!!もう結婚まで秒読みって発表する。」
「だから私はしないって言ってるでしょ!」
「由貴!」
「柊木さん…余計な事かもしれないけど…僕から見ても2人はお似合いだと思うけど…
それに惇哉君も本気だし…お互い歳も良い頃だし…良いんじゃないかな?」

ヤンワリと社長に言われると…変な罪悪感が生まれるのはどうして??
でも…ここで流されちゃいけない……

「申し訳ありません…社長…こればっかりは承諾出来ません…」

そう言って由貴が深々と頭を下げる。

「何で?」

「………」

「何でそこまで拒むんだよ…由貴…」

「…………」

「オレの何処が気に入らない?
オレ本気で由貴の事好きだしこれからだって由貴の事大切にするし…
誰よりも由貴の事が好きなの由貴だってわかってるだろ!」

惇哉さんが納得いかないって顔と態度で私を責める……

「僕も聞きたいな…結婚を受け入れられない理由…」
「……それは…」
「どうせ大した理由なんて無いんだろ!ただいつもみたいに意地張ってるだけだ!」
「柊木さん…」

社長は優しく聞いてくるし…惇哉さんは惇哉さんでイジケだしたし……

「……はあ……」
もう…仕方ないかしら……

「惇哉さん……」

「何だよ。」

由貴がえらく真面目な顔と声でオレの名前を呼んだ。

「これから先…」
「これから先?」

「 「 プロポーズの言葉は何ですか? 」 って聞かれたら私は何て答えれば良いのかしらね?」

「………え?」

由貴の…低いトーンの声が頭の中に木霊してる……
社長室がシーンと静まり返った。

「ねえ惇哉さん…教えて頂きたいわ!」

「言ってないのかい?」

社長が惇哉さんに向かって問い掛ける。

「え?あれ…………言って……なかったっけ?」

ヤバイ…顔が引き攣る…

「言ってません。」
「いや…言っただろ?」
「記憶にありませんけど?」

「…………」

嫌な汗が背中を流れる…

さっきまで優位に立っていたと思われていたオレの立場はあっという間に逆転した……


うわぁ〜〜〜由貴の後ろに 「 怒ってますオーラ 」 が見えるのはオレだけか?