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「 お疲れ様でしたーーー!!! 」


その声と共に長かった映画の撮影が終わった。
私のマネージャーの仕事も…

「お疲れ様です。」
「お疲れ様。」

惇哉さんを初めに次々に花束が出演者の人に渡されていく。

「はい。おめでとうございます ♪ 」
「え?私?」

ナゼか私の目の前にも花束が…

「ご婚約おめでとうございます。監督が話題性もバッチリだって ♪ なので柊木さんにも!」
「………あ…ありがとうございます…」

監督を見たら片手を上げて手を振ってくれた。
惇哉さんを見たらウィンクされた。もう…

「皆お疲れさん!ありがとう!!」

監督のそんな挨拶でスタジオ内から拍手が起こった…



「はあ…終わったな…」
「お疲れ様。」

控室に戻って惇哉さんがホッとした様に呟いた。

「由貴もな…お疲れ様。」
「ううん…私なんて…」
「そんな事ない…」
「あ…」

惇哉さんが壁に両手を着いて私を捕まえる。

「由貴をこうやって捕まえるの久しぶりだ…」
「…仕事中はやめてって…!!」
「仕事は終わったろ?」
「でも…」
「由貴…」
「な…に?」

『石原まだ嫌い?』

「え?」

『これで話し掛けると 警戒してたから…』
「さ…最初は…ね…でも…」
『でも?』
「前…あのセクハラの人から助けてくれたでしょ?」
『ああ…』
「あの時は惇哉さんだったけど…
服装が『彼』だったから…なんか『彼』に助けてもらったみたいで…」
『感激した?』
「………うん…嬉しかった…」
『よかった…由貴に嫌われたまま終わるのは納得出来ないから…』
「あ……ン…」

『彼』にキスされるのは多分今日で2度目…
惇哉さんなのに彼って言うのも変だけど…そんな表現が似合う。

役に成り切る惇哉さんだから最初この『石原』と言う役でキスされた時は
知らない男の人とキスしてるみたいで嫌だった…
いつもはしない煙草の味もするから余計にそう思う…今もそう……

「ン……」

でもちょっと緊張して両手で彼の白衣を掴んだ。

『由貴…』
「…あ…」

少し離れた唇と唇の間から私の名前を呼ぶ声がする…

本当に変な感じ…

「ん?」

なんて浸ってたら壁に着いてたはずの惇哉さんの手がナゼか私の脚に…

「ちょっ…惇哉さん!!」
『しっ!』
「しっ…って……違くて…ダメ!惇哉さん!!」
『少し…』
「少しって… どんな少しなのよ!やめ…」
『記念…』
「記念って…」

壁に身体が押し付けられる…
首筋に惇哉さんの唇が触れる脚の間を惇哉さんの脚で割られた…
服の上から胸に手が……

「あ…!や…」

コンコン!! バ ン ! !

「楠さ〜ん ♪ 皆待ってます…」

ノックと同時にドアが開いて若い男性のスタッフさんが入って来た!
何となく見覚えのある顔…だから余計気まずい…

「あ!」
「!!」
「……」

3人で固まった!

「………ス…スミマセン…お邪魔…しました…ごゆっくり……」

入って来た時とは打って変わって静かにドアが閉まった。

「………!!」

ドアから視線を由貴に戻すと案の定とんでもなく怒った顔してた。

「惇哉さん………」
「タイミング悪……」
「だからやめてって言ったでしょ……」
「いやぁ…まさかこのタイミングで人が来るなんて…はは…」
「もう…」
「説明しに追い掛けないの?前は慌てて追い掛けてたのに…」
「だって…もう説明する必要無いじゃない…」
「由貴…」

由貴がオレから目を逸らして何気に照れながらそんな事を言う。
仄かに顔も赤い…あ…マズイ…

「由貴…」

「え?あっ! ちょっ…」

そのまま由貴を抱き上げてテーブルの上に仰向けに寝かせた。

「ちょっと!惇哉さん!!」
え?何?
「由貴可愛すぎ ♪ 」
「やっ…ちょっと…」

あの時の記憶が蘇る…
あのシーンを撮った日の…この控室での事…

「もう2度としないでって言ったわよね!」
「そうだっけ?」

ムッ!

「言いました!」
「あの時はあの時!」
「あ…そう言う事言うの?」
「だってもう由貴と2人でここでなんて無いよ。」
「それで私は結構です!」
「マネージャー最後でも?」
「最後でも!」
「じゃあキスだけ。」
「嫌!きっとそれだけじゃ済まないから。」
「………」

読まれてるな……

「どいて!早く行かないと皆が待ってるわよ。」
「はいはい…」

仕方なく由貴の上からどいた。
まあいいや…帰ってからのお楽しみ ♪

「 『 はい 』 は1回!それにその顔…帰ってからとか思ってるんでしょ?」
「まさか!」

ホント最近読まれてるな…

「そうかしら?じゃあ今日は大人しく寝てくれるのね?」
「いつも大人しく寝てる。」
「あれが?」
「あれが!」
「うそばっかり…」
「ホントだって…ほら行こう。」
「うん… って何?この手は?」

控え室のドアを開けながら目の前に惇哉さんが手を差し出す。

「何って手繋ぐんだろ!オレ達恋人同士なんだから。」
「今はそんな必要無いでしょ!恥ずかしいじゃない!」
「じゃあいつするんだよ。」
「え?んー普通デートの時…とか?」
「じゃあ今度のデートの時は手を繋ぐからな。約束だからな由貴 ♪ 」
「え?」
「もう決定!楽しみだな〜これからは堂々とデートも出来るしさ。」
「嫌よ!注目の的だもの…」
「オレが一緒だから大丈夫だよ。」
「どんな理由よ!嫌!」
「由貴…」
「………」

「今度昼間ちゃんとしたデートしよう…わかった?」

「………」

まったく…

「由貴…」

由貴の顎を人差し指で軽く持ち上げてオレの方を向かせる。

「オレがデートしようって言ってる…由貴…しような…」

「……もう…強引なんだから…」
「だってしたいんだから仕方ない…好きだよ由貴…チュッ ♪ 」

軽く触れるだけのキスをした。

「 おしっっ!OKっ!! 」

「え?」

突然そんな声がして廊下の陰から監督とスタッフの人が何人も出て来た!?

「何やってんの監督?」
「いや〜控え室でイチャイチャしてるって言うから良いモノ撮れるかな〜〜ってな!」
「なって…オレは別に構わんけど…」

そう言いながら由貴を見ると由貴がビックリした様な顔で固まってる。

「由貴?」
「かかかか監督!いいいい今の本当に撮ったんですか?」
「ああ ♪ あんなワイドショーのカメラなんて比べ物にならないくらい綺麗に撮れたぞ!」
「ととと撮れたって…それどうするんですか?」
「え?あ〜そうだな…映画のメイキングで流そうかな…」
「 !!!! 」

由貴が今にも倒れそうだ…

「ここここ困りますっ!!そんな…」

ただでさえあの公開プロポーズ全国に流されるのに…

「監督…それ以上やると由貴倒れるから…」
「え?マジか?はは…悪い悪い!冗談だよ!」
「…え?」
「オレからのプレゼント。記念に取っときな。」
「あ…」
そう言ってカメラからテープを出して私に渡してくれた。
「オラ!今日は飲むぞ!惇!帰さねぇからな!」
「えー由貴と2人でゆっくりしたいんだけど。」
「馬鹿野郎!主役が帰れるか!」

そう言って惇哉さんが監督に肩を組まれて連れて行かれた…

そんな光景を私は後ろから眺めてた…

スタジオの中も…セットも……撮影所も……


ああ…本当に撮影が終わったのね……