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「由貴もう少し顔上げなよ。」
「無…無理!!」
遅い朝食を取った後約束した通り由貴とデートしに街に繰り出した。
なのに由貴ときたら帽子を深く被って下ばっか向いて…
「全然面白くも愉しくも無いんだけど!由貴!」
「仕方ないでしょ!万が一気付かれたら嫌なんだから!だからサングラスもしたかったのに…」
「そんなの余計目立つし由貴には似合わないから!」
帽子にサングラスで行くって言う由貴を説得してやっと街に出た。
大分印象が変わるから伊達メガネは外した。
化粧でもしたらきっともっと印象は変わるんだろうけど逆に目立つから止めた。
特に男共に…
「大丈夫だって!オレだって誰も気付かれてないよ。」
「………」
そう言われて惇哉さんを見上げる…
「自分はサングラス掛けてるじゃない!」
「!!……だからその位で隠せないって!皆気にしてなんかないんだよ。」
「………」
「由貴…いい加減にしないとここでキスする!」
「!!!」
由貴の身体がビクン!と跳ねた。
私があんまりにも周りを気にするから惇哉さんにそんな事を言われてしまった…
本当にやりそうで …
「はぁ〜〜騒がれたら…直ぐに帰るから……」
「わかった ♪ じゃあはい!」
「!!」
目の前に惇哉さんの手が差し出される…
「約束 ♪ 」
「………」
ニコニコな顔しちゃって…仕方なく手を出した。
ギュウっと握られたわけじゃないけどしっかりと握られてる…
「ニヤけ過ぎ!」
「オレ表現が素直だから ♪ 誰かさんと違って ♪ 」
「!!」
ムッ!悪かったわね!
「さて何処に行こうかな〜 ♪ 」
「最後でいいから食料品店に寄りたい。」
「……奥さんみたいで嬉しいんだけど今はちょっとムード無いかも…」
「それが現実!」
「短い恋人期間愉しまなきゃね ♪ 」
「私は別に長い恋人期間でも構わないけど?」
「オレが嫌!」
「だって結局あれっきりじゃない。映画の撮影終わっちゃったわよ。」
「………わかってるってば…なんか由貴取り立て屋みたいだ。」
「なっ!約束守らない惇哉さんが悪……」
気付くと何気に視線が…
「由貴が大きな声で 『 惇哉 』 なんて怒鳴るから…」
「怒鳴ってなんか無いでしょ!は…早く…」
今度は私が惇哉さんを引っ張って歩き出した。
しばらくウィンドウショッピングを して外国の映画を見て…
本当に気付かれないものなのね…
まあ惇哉さん今髪の毛長いし黒髪だし…以前のイメージから大分違うから…
コーヒーの専門店で一休み中…
「由貴の淹れてくれたのが一番美味い。」
「……ありがとう。」
でもお店の中でやめて…
「 ! 」
惇哉さんがテーブルの椅子にもたれ掛かりながら店の外を歩く人を眺めてる…
サングラス越でもうっすら見える瞳…相変わらず整った顔……
ため息が出ちゃう…
「ん?」
「ううん…」
「ヤキモチ?」
「は?」
「他の女性眺めてるから…」
「眺めてたの?」
「まさか!あれ見てた。」
「ん?」
惇哉さんが指差す方を見ると道を挟んで反対側のお店のディスプレイに
ウエディングドレスが飾ってあった。
「!!」
「いつか由貴があんなドレス着てる姿想像してた。」
「気が早いわよ…」
私はワザとプイと横を向いて慌てて自分のアイスコーヒーを飲む。
「そう?オレは直ぐだと思うけど…」
「………私なんかのどこが良かったの?」
「え?」
「だって最初は生意気だったし口うるさいし可愛い女じゃ無かったでしょ…」
惇哉さんもそう言ってた …
「真面目で融通きかないし…」
「意地っ張りだし?」
「…………うん…」
「だから好きになった ♪ きっとそう…」
「……惇哉さん…」
「オレはね…あの日初めて満知子さんに連れられてオレに紹介してくれたあの時…
あの時からきっと由貴の事気になってたと思う…」
「本当?」
「だって初対面であんなに不機嫌な顔されたの由貴が初めてだったから…」
「あ……ごめんなさい…あの時はその…」
「それが今じゃあんな色っぽい顔と声でオレの名前呼んでくれる ♪ 」
「え?!」
何のこと?
「フフン ♪ 」
「!!!」
言ってる意味がわかって…
「も…もう…」
「由貴顔真っ赤。」
「う…うるさい!」
「たまにはこう言うのもいいもんだろ?」
惇哉さんが手を繋いで歩きながらそんな事言った…
「うん…」
仕事の時とか2人で部屋にいる時とは違う雰囲気…
「腕平気なの?」
「この前抜糸したからツル感じはしなくなって大分いい…
傷口もくっついたし…多少痛い時あるけど大丈夫。」
「そう…良かった…」
「由貴を抱くには何の支障も無い!」
「………そこ力説しなくていいから!」
「くすっ…由貴あれ乗ろう ♪ 」
「え?」
惇哉さんが指差したのはちょっと遠くに見える観覧車…
15分程歩くとこんな街中なのにとってもコンパクトなテーマパークがある。
殆どが室内のゲームセンターみたいだけど敷地の奥に3つ程大きな
アトラクションがあって結構人が来場してる。
「来た事あるの?」
「え?んー高校の時かな…」
「そう…」
「由貴は?」
「初めて。」
「そっか…まあそんな遊ぶ物も無いんだけど室内のアトラクションが
増えたらしいから結構人が来てるな…でも入場料安いんだ。」
「へー」
チケット売場でチケットを買って入口に向かう。
入口のタレ幕に目が行く…へえ…もう少しで来場者が200万人だって…
「 おめでとうございます ! ! ! 」
「きゃっ!」
「え?」
「 貴女が200万人目の来場者でーす! ! ! 」
「は?」
ゲートをくぐるとクラッカーがなる音と…音楽と拍手と…くす玉が割れて…
目の前に紙吹雪が舞った…