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ゲートをくぐるとクラッカーがなる音と…音楽と拍手と…くす玉が割れて…

目の前に紙吹雪が舞った…


「え?何?」
「おめでとうございます!」
「え?」
「由貴が200万人目だってさ。凄いじゃん!」
「え?私が?」
「さあこちらの特設ステージへ…」
「え?あの…」
「お連れの方も…」

グイグイ押されて特設ステージの上に惇哉さんと2人連れて行かれた。
えー!?何でこんな事に…もう凄い注目の的じゃないのよ〜〜!!

『オレのせいじゃないからな。』
「え?」

コソッと惇哉さんが私の耳元に囁いた。

「…………」

そうだけど…

「記念すべき200万人目の貴女には当テーマパークの年間優待券と
数々の豪華商品と記念撮影をさせて頂いてその写真を入口の横に飾らさせて頂きます。」
「ええーー!!けけけけ結構です!」
「またまたぁ〜遠慮なさらずに!さて!超ラッキーな貴女のお名前は?」
「え?あ…えっと…」

目の前にマイクが差し出される。

「…ひ…柊木…です。」

あーあ…由貴ってば本名言っちゃってるし…

「柊木さん!おめでとうございます。で…お連れの方は?」
「え?オレ?いやオレは…」

チラリと由貴を見るとどうにかしろって顔でオレを見てる。
無理だし…どう見てもオ レのせいじゃないし…

「お名前は?」

スゲーニコニコ顔の担当のオジサン…
だよな…ここにしてみたら一大イベントだもんな…

「はぁー……楠です。」
「はい。楠さん!」

マイクを通してオレの名前が呼ばれると周りがざわめき出した。

「え?楠?楠って……楠…惇哉?」

ジーッと顔見られて…

「ああ!!!」

って指付きで叫ばれた。



「もうどうして本当の名前言っちゃうのよ!」
「仕方ないだろ…オレのせいじゃない。由貴が原因。
それにあの場面でごまかすの無理だし先に本当の名前言っちゃったの由貴だし。」
「だからって…」

あの後騒ぎに気付いた他のお客さんまで気付かれちゃって…
結構な騒ぎになって…撮影会みたいだった。

「由貴!オレとしては隣に座って欲しいんだけど?」
「だって…あんなに目立っちゃって…」
「由貴!あっという間に下りちゃうだろ!そのぬいぐるみ置いて!」
「………」

最初の目的だった観覧車にやっと乗れたと思ったのに
由貴はふて腐れてオレとは反対の席に座ってる。
しかも記念品の内の1つの由貴の身長の半分以上はあろうかと言う
ここのマスコットのウサ ギもどきのぬいぐるみを抱きかかえてるから余計気に入らない。

「由貴!こっち!」

「………」

嫌味なまでに指で隣の場所を指差したら渋々とぬいぐるみを置いてオレの隣に座った。

「ほら後少しで頂上に着いちゃうじゃん!」
「何でそんなにはしゃぐの?」
「高校の時に来た時は男4人でさ…」
「惇哉さんが男の人と観覧車?」
「オレだって男友達くらいいるって!まあノリみたいなのもあったけど…
その時結構感動してさ…絶対恋人と来ようと思ってたんだ…今日やっと叶った。」
「何で?今までだって付き合った人はいたんでしょ?」
「いたけど…オレが決めてた相手はその子達じゃなかったから…」
「?」
「由貴…」
「何?」

「 好きだよ……愛してる…… 」

そう言って惇哉さんが私にそっとキスをした。
軽く舌を絡ませて啄む様なキスもして…どのくらいしてたんだろう…
惇哉さんが離れた時にはもう観覧車は下り始めてた…

「こう言う事したかったから一緒に来る相手選ぶだろ?」
「……高校の時にこんな事しようって思ってたの?」
「そ!やっと叶った ♪ しかも相手は由貴だし…最高なシチュエーション ♪ 」
「惇哉さんって……」
「ん?」

意外 とロマンチスト?

「由貴 ♪ 」
「 ! 」
「由貴〜 ♪ 」
「………」
「由貴……」
「もう…」

名前を呼ぶ度にぎゅっと抱きしめられる…

「そろそろ離してね!他の人に見られるから!」
「………相変わらず冷めてるなぁ〜由貴は…」

未だに私を抱きしめてる…


私だって本当は…嬉しかったりしてるのよ…
でもそんな事言うとまた大変だから言わないけど…



「これって1度帰らないとダメかしら…」

巨大過ぎる記念品のぬいぐるみを抱き抱えてるから…

「タクシー拾うから待ってて。」
「うん…」

今日は歩きのデートって言って車で来て無かったから…
足元には他の記念品やらグッズやら…紙袋に入ってる…

『祝福されてんだよオレ達の結婚は ♪ 』

なんて惇哉さんは言ってるけど本当は逆なんじゃないかと思うけど…
こんなにことごとく騒がれるなんて…

こんな時思う…
惇哉さんって…私とは違う世界の人なんだな…って…

「由貴!こっち!」
「あ!はい…」
「×××3番地に。」
「はい。」

タクシーに乗り込むと惇哉さんが運転手さんにマンションじゃ無い住所を言った。

「え?家に帰るんじゃないの?」
「ちょっと行く所がある。」
「どこ?」
「…………」
「惇哉さん?」
「内緒!すぐにわかるよ。」
「?」

一応笑いな がら言ってるけど…なんか怪しい…

そこから30程走って閑静な住宅街でタクシーを降りた。


「この辺りに用事でもあるの?」
「まあね…」

1つ目の角を曲がってすぐの家の前で惇哉さんが止まる。

「はぁ〜〜〜」
「惇哉さん?」

ピ ン ポ 〜〜 ン ♪

「惇哉さん?」

無言でチャイムを押す惇哉さん…って一体どなたのお家………って…

「 『 KUSUNOKI 』 ?」

確かに表札にローマ字でそう書いてある…KUSUNOKI?くすのき?って……


「 ええっっ !? 」



ちょっとここってまさか!?