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「初めまして。惇哉の兄の柾哉です。」

そう言ってニッコリ微笑むお兄さん…

「はっ…初めまして!ひっ…柊木由貴です。」

また深々と頭を下げた。
今日は一体何度頭を下げたんだろう…

「え?」

顔を上げたら目の前にお兄さんが…
わあ…惇哉さんよりちょっと上を向く…お父さんにも似てらして…

でも一番はやっぱり惇哉さんに似てる…

「あっ!」

そんな事思って見上げてたら私の顔をお兄さんが両手の指先で軽く挟んで持ち上げる。

「あ…あの…」

何を?

「動かないで。」

「え?」

ちらりと惇哉さんを見ると黙って見てるし…だから私はされるがままじっとしてた。



「………」

じっと私を…ううん…私の顔を見てる…
軽く触れてる指先に時々力が入って軽く顔の角度を変えられる…

これって…何だかお医者さんに診察されてるみたい…

「ふーん…顔の歪みもタルミもないね…肌も荒れてないしシミもない…」

「!!」

指先が肩に触れた…

「ふーん…」

背中も見られて頭の先から爪先まで何度も見られた…

「整形もしてないし身体も弄った形跡は無いね…生まれ持った素材で十分やっていける…
でもお肌の手入れを怠ってはいけない。」

「はい?」

え?なに?

「???」

私は訳がわからない。

「惇!」
「!」
「腕…見せてごらん。」
「何で知って…」
兄貴がワイドショーや芸能雑誌を見てるとは思わなかったから…
「惇が怪我をした日母さんから連絡があって相談されたんだよ。」
「……そっか…」
腕をまくって兄貴に見える様に出した。
「ふーん…大分綺麗になってきてるけど…薄くなるにはしばらく掛かる …
まあ今はメイクも進歩してるからこのくらいの傷跡なら隠せるだろ…
最悪はCG処理って手もあるだろうし…まあソコまで気にしなくても目立たなくなる。」
「そう…」
「どうしてもって言うなら傷口1cm100万で治してやろうか?」
「!!」
「え?」
「それってボッタくり過ぎない?」
「惇なら払えるだろ?」
え?何??
「兄貴美容整形の先生なんだ。」
「え?美容整形?」
不思議そうにしてる私に惇哉さんが教えてくれた。
だからさっき診察されてるみたいだったのね…
「良かったじゃん由貴整形の必要無しだってさ。」
「もう!」
「女性が美しくなりたいと思う事は悪い事じゃ無い…
まあたまに度の越えた患者さんもいるけどそんな時はじっくり話を聞いて
本人が一番納得する方法をとる。」
「はあ…」

またニッコリ笑って…何だか優しい感じが伝わる…

「あれ?メグは?」
「え?」

兄貴がリビングに入るなり部屋中を見回してそんな事を聞いて来た。

「ああ…さっき外で会ったけど…何だか急用みたいで慌てて帰ったけど?」
「なんだ…多分ここだと思って動くなってメールしたのに…」
「 !? 」

メールって…さっきのあいつへのメールって兄貴からだったのか?

「じゃあ仕方ない…帰る。」
「は?」
「え?お兄さん今コーヒー淹れますから…ゆっくりして行って下さい。」
由貴が慌てて引き止める…
オレはどっちでも構わなかったけど兄貴のそんな態度がビックリで…
「いや…顔が見れただけで十分だよ。じゃあ惇…結婚式楽しみにしてるよ。」
「兄貴はオレの結婚…喜んでくれるの?」
「何でそんな事聞く?惇…」
「いや…」
オレの事なんて気にも留めてないと思ったから…
「僕はね…惇の結婚を心から祝福するよ。ずっと待ってた…惇が1日でも早く結婚する事をね…」
「兄貴…」
「いい?惇哉…何があっても別れたりするなよ…由貴さんも…
色々あるだろうけどそんな事は気にせずに1日でも早く…
ああ!先に籍だけでも入れればいい…その時は知らせてくれ惇。」
「え?……ああ…」
「じゃあお邪魔した。」
「下まで送る…」
「ここで良いよ。僕も急いでるから…」
「そう言えば海外に旅行してたんじゃないのか?」
「さっき帰った。」
「え?じゃあ空港から直接?」
「ああ…でも間に合わなかった…」
「え?」
「いや…じゃあ。」


何だかオレも由貴もしっくりとしないまま玄関先で兄貴の帰るのを見送った…